黒い部屋
【あそこの家】
.
「え?私?」
イギリス郊外の小さな町の一角で紅茶を注ぐ手を止めてデイジーは口を開いた。
デイジーの前には子ども関係で仲良くなった友人の二人が座っている。
増大な原っぱに綺麗な山々たち。空気は綺麗で、施設も多く、この町に住む人間がいまとても増えてきているのだ。
そして、今この時期は冬。もうすぐでクリスマスなのだ。
そこで子ども達もまじえて皆でクリスマスパーティーをしようと言う話になっていたのだが、問題はそこからだった。
デイジーの近くに二ヶ月前に引っ越してきた家庭があった。その家庭がどうにも不審なのだ。近付くと匂う異臭に、まるで何か恐ろしいものをみるような目。
その家庭も誘おうと言う話になったのだ。話を持ち出したのは三人の中でも若いサラだった。
そして、訪ねるのが家も近いデイジーと言うことになったのだ。
「えぇ……嫌よ…私、あそこの家はどうにも苦手なのよ……」
「でもこれから仲良くなれるチャンスじゃない?子どもさんもいるみたいだし、あそこの家」
と、デイジーの意見にも怯まず紅茶をすすりながらサラは笑顔でそう言った。
それに、サラの横に座って雑誌を読んでいたデイジーの幼なじみのメアリーも賛成するように相づちを見せた。
「いいじゃない、たまには」
「…メアリーまで……わかったわ…でも家で一旦考えさせて?」
デイジーはそう言って、重い溜め息を吐いた。
.
デイジーは家に帰ってコートとマフラーを外し、早速暖房の近くに寄ってあったまった。
ふいに、あの例の家がキッチンの窓から見えた。
電気もついていないみたいだし…もう夕方なのに……どういう事なのかしら?
「…あっ、もう子どもたちが帰ってくる時間だわ…」
と、せっせと晩御飯を作り始めた。
「ただいま!お母さん!」
白い息をはきながらも元気に走って家に帰ってくる息子のジョンと静かで物わかりのいい娘のマリア。
ジョンは手も洗わずに、一目散とテーブルの上にあった晩御飯のおかずに手を伸ばす。
「あっ、ジョン!何してるのよ!手を洗いなさいって何回言ってるの?」
「はいはーい!すみませーん」と、ふざけた二つ返事をしながらリビングのゲームに一目散だ。そんなジョンとは裏腹に、マリアはきちんと手洗いうがいをこなしていた。
.
「お帰り」
「あぁ、ただいま」
晩御飯を食べおえて、夜も深くなってきた頃、夫のマイクが帰宅した。
マイクはイギリス市内で銀行員をつとめている為、帰りがいつも遅いのだ。
「ねぇ、聞いて?あそこの家の人をクリスマスパーティーに誘えって言うのよ……」
ネクタイを外しながら晩御飯を覗いているマイクになげかける。
マイクは興味なさそうにおもむろにイスに腰掛け、冷えたビールで喉を潤した。
「そうか…でも乗る気じゃないと」
「って、貴方知らないの?あそこの家…匂いも凄いし……とにかく私は嫌なの!気味が悪いわ……」
と、デイジーは身震いのふりを見せた。
「もう言いじゃないか…テレビ、つけてくれないか?」
「……わかったわよ……」
.
次の日、デイジーは子ども二人を学校に送ったあと、家に帰って紅茶を飲んで一服する。
やっぱり頭から離れないあそこの家。気にはなるが、やはり気味が悪く中々訪ねる勇気が湧かないのだ。
「……ふぅ……でもねぇ……」
カレンダーに目をうつす、もう23日。明日はイヴだ。デイジーもクリスマスパーティーの用意に参加しなければいけない、冬は忙しいのだ。
やっぱり早く終わらせよう…と、デイジーはコートを羽織ってマフラーをかけ家を出た。
「……うっ……」
キツい異臭に私は咳き込む。何て匂いだ……本当に何で私の近所に住んでるのよ……
ハァ…と溜め息をついて、コンコンと家のドアをノックする。
「………?」
もしかして留守かしら?
何だって迷惑な人なのよ………
またコンコンと、先程より強く叩く。
あぁ、もう凍えそうだ。こんな雪が降る中…来てるのに……
「…あのっ、いるんですか?隣の家のレクロンですけど……」
2度目……やはり返事はない。
私はやけになって勢いよくドアをノックした。
「ねぇ!いるんでしょ!?」
すると、家のドアが半分勢いよく開いた。
まるで死人のような顔立ちの女が出てきた。
そして、大きな声で目に血を走らせてこう叫んだ。
「……青い肌に…大きい目……!あんた達がエイリアンだからに決まってるでしょ!!!」