22話
「なに、あれ… 」
茅花はコンテナ越しに見える現実に理解が追いつかない。
「おい、お前もあいつの仲間か? 」
「?!」
消音装置器付きの【PPQ M2】のスライドが一度だけ後退する。
請負人を制圧した茅花は瑠璃と玲香の二人に連絡を取ろうとするが…
「両方とも繋がらない? どうしよう……」
先の白河かすみの任務と同様に、何の収穫を得られないまま撤退しなければならないのという焦りと現状への不安が混ざり、一段階と大きくなる。
ガシャン! っと物音が聞こえた方向に茅花が振り向くと、請負人の1人が見える。
茅花を見た請負人は含みのある笑みを見せると走り去っていく。
直感的に情報を聞き出さないと考えた茅花がハンドガンの引き金を2回引く。
放たれた9ミリパラベラム弾は右肩に1発、もう1発は右肘辺りをかすめ、請負人は一瞬だけたじろぐが、直ぐにまた走り出す。
本来ならば、銃弾による痛みでしばらく動けないはずなのに、請負人の様子から薬物使用による痛覚の麻痺を疑う茅花。
「待て!」
茅花は請負人の足の速さが尋常ではないことに驚きつつも、全速力で追いかける。
「ハァ、ハァ…どんだけ速いの… 」
施設内をジグザグに走り回る請負人と茅花の距離は縮まるどころか離れ、姿が見えなくなる。
両サイドにコンテナが高く積み上げられた場所にたどり着いた茅花はハンドガンから主武器のPDW【HK MP7】に持ち替えて、コンテナの迷路を安全確認していく。
また一本、もう一本とコンテナ間の道を確認していく。
唐突な殺気に気が付いた茅花が、背後を振り返ると請負人がナイフを振り上げていた。
回避では間に合わないと直感し、右手に持つ主武器で防ぐ。
請負人がまたニヤリと笑った次の瞬間、鋭い痛みが茅花を襲う。
「釘、どうして…」
痛みが走った箇所に視線をやると右足の太ももに釘が突き刺さっていて出血している。
茅花が視線を戻すと請負人が左手に持つ、ガス式のくぎ打ち機を向けている。
請負人は、茅花の右手を切り付けようとナイフを再度、振りかざす。
茅花は主武器を咄嗟に手放して後ろへと跳び、請負人と間合いを取ると、逃がすまいと請負人が釘打ち機を連射する。
釘は避けようと後方へと下がる茅花を追いかけるが、1発、2発、3発と地面に突き刺さる。
「あはは、素早いねお嬢ちゃん。」
「無駄口を叩くつもりはない。」
警棒を取り出した茅花は、次は自分の番と言わんばかりに請負人に迫る。
警棒の一撃を食らった請負人はナイフを落とす。
「(もらった! )」
茅花は怯んでいる請負人の背後に回り、後頭部に狙いを定め警棒を振りかざす。
パシィ!
茅花の追撃を急反転した請負人が受け止める。
「?! 」
「残念♪ 」
茅花が罠に引っ掛かりにやける請負人。
ドン!
「うっ…… 」
腹部を殴られた茅花は後方に吹き飛ぶが空中で体勢を立て直し、着地する。
「な…なに、この威力。」
ケブラー製のボディーアーマーが吸収しきれなかった、ダメージに茅花は焦りを隠せない。
カラン、カラン。
請負人は茅花から奪った警棒を手放す。
「更に一発! 」
請負人は痛みに蹲っている茅花に蹴りを加える。
「くっ… 」
胸部への攻撃に対して茅花は両腕でガードする。
ドン!
「んぁ! 」
茅花はコンテナに激突し、前のめりに倒れる。
「もう、終わり? 」
不気味な笑みを浮かべながら請負人が茅花に歩み寄る。
「ハァ、ハァ… 」
茅花はふらふらと立ち上がると、 発煙弾を使い姿を消す。
「次はかくれんぼかな? 」
請負人は茅花の太ももからの出血による、血痕に視線を向けながら笑みを浮かべている。
「ザッ… 茅花ザッ…聞こえる。」
インカムから聞こえる瑠璃の声は酷く聞こえづらい。
「瑠璃さ… 証拠は手に入らなかった… 」
「私達も…襲撃されているわ… 援護出来ない… ザッ… 」
またしても、無線が途絶えてしまう。
「まだ、玲香ちゃんとも連絡がとれないの……」
コンテナにもたれながら茅花は現状を打開する策を練る。
「みぃ〜つけた♪ 」
パシュ! パシュ!
近づいてくる請負人に向けて茅花は【PPQ M2】を連射するが全弾避けられる。
「弾切れ… ?! 」
マガジンを交換しようとするが恐怖からもたついている茅花に請負人は蹴りを加える。
数メートル蹴り飛ばされた茅花は【PPQ M2】を手放してしまう。
「お嬢ちゃん、見かけによらずタフだね。」
まだ、立ち上がる茅花の姿を見て請負人は驚く。
「ハァ… 」
茅花は相変わらず応えない。
「へぇ、もう一丁持っていたんだ。」
茅花はスカートのポケットから .380ACPが6発装填されたバックアップ用の小型拳銃【P380 Black Rose 】を取りだし、銃口を請負人に向けると素早く連射する。
「どこを狙って撃ってる?」
請負人は全く避ける素振りを見せない。
パサァ…
「? これは小麦粉か。」
請負人の周りを埃のように小麦粉が舞っている。
「ねぇ、粉塵爆発って知ってる? 」
不安と恐怖が入り交じった表情を見せながら、トリガーを引く。
爆風で茅花は吹き飛ばされ、周囲には轟音と焦げくさい臭いが広がる。
「コホ、コホ… なんとか倒せたみたいね。」
顔を上げた茅花の前には真っ黒になった請負人が転がっている。
「いてて、それにしてもこいつはなんだったの? あと、京橋も訳が分からない… 」
呟きながら、先ずはバックアップ用の【P380 Black Rose 】を拾う。
次にサイドアームの【PPQ M2】を拾い、茅花が予備弾倉を装填した、次の瞬間……
「ふ〜ん、まだ試行錯誤が必要なみたいね。」
緊張感の残滓が残る空間に不釣り合いな明るい声が聞こえる。
「誰?! 」
茅花が声が聞こえた方向に銃を向けると、黒いロングワンピースを着た若い女性が焦げた請負人を眺めている。
「Graf Zeppelinの人間なの? 」
「でも、請負人をここまで追い詰めたという事実は途中経過としては、上出来じゃないかしら?」
妖艶な雰囲気を放つ若い女性は、まるで茅花の姿が見えていないかのように振る舞う。
「止まれ! 撃つわよ! 」
銃を持つ手が震える茅花。
サッ… カチャ!
「?! 」
茅花の目の前で消えた若い女性が、次の瞬間には茅花の背後に立ち、黒い回転式拳銃【Taurus .454Casull】を突き付けている。
「あなたのことは、見逃してあげるわ。」
バチィ!
首筋に強い電流が走った茅花は気を失い、その場で倒れる。
茅花が気絶したことを確認した、ワンピースの女性は一瞬にして姿を消す。




