20話
「そこでなにをしている! 降りろ! 」
声を張り上げたグラーフツェッペリンの請負人2人が銃口を突き付けたまま車に歩み寄ってくる。
その2人は、自動小銃【HK G36C】を手にしている。
「私が撃ったら、伊賀さんも発砲して。」
「う、うん。」
瑠璃は梓の躊躇いに不安を感じつつも、ゆっくりと降りるように促す。
2人は各々の自動小銃を車内に残し、降りる。
請負人の1人が、梓と瑠璃の身なりを見て、確認する。
「2人とも請負人なのか?」
「はい、護衛の依頼を受けております。」
「私も同じく。」
2人は請負人登録証をグラーフツェッペリンの請負人の1人に渡す。
「最近、増えているんだよな請負人ごっこをする若者…… 」
「どうした? 」
請負人登録証を確認したもう1人の請負人は驚きを隠せない。
「宮之城民間警備HDとオカサトミヤの請負人だと!? 」
2人が驚いた、一瞬の隙をついて、瑠璃はレッグホルスターに収まる【M&P 45】を引き抜くが、請負人の1人が感付き、銃口を向け返す。
消音装置付きの【M&P 45】からはスライドが後退する動作音だけが2回聞こえる。
「クソッ! このアマが!」
瑠璃のタップ射撃によって、2人のうちの1人は倒れたが、残るもう1人が撃ち返してくる。
放たれた5.56mm口径の弾丸が、瑠璃の左腕の長袖を擦り、痛みが走る。
瑠璃が怯んだ隙に、請負人は近付く。
そして、【HK G36C】を持ち直し、銃床を振りかざし、瑠璃の動きを完全に止める。
銃床で殴られた瑠璃は、短い悲鳴を上げながら倒れる。
「血が出てないな、防弾繊維で出来た服を着てんのか?」
宮之城HDの人間が、その会社が開発した技術を使うのは当たり前だよな っと請負人が一瞬にして納得した直後……
「止まって、撃つわよ。」
梓が両手の震えを抑えながら【M9A1 INOX】の銃口を突き付ける相手は不敵な笑みを見せる。
「お前には、撃てねぇよ。」
そして、地面に伏せている瑠璃に動かないように言い放ったあと、梓のほうに視線を向ける。
「俺らが、車から降りるように言ったあと、なにかしらの作戦会議をしてたみたいだが、どうせ、この女の発砲に合わせてあんたも撃つっていう算段だったんだろが、残念だったな。」
請負人は瑠璃の後ろに回る。
「ほら、立てよ。」
「いや…… やめて。」
銃床に殴られたダメージが残る瑠璃の抵抗は虚しく、請負人に支えられ無理矢理、起こされる。
その間にも、梓はほんの数メートルしか離れていない請負人を撃つことは出来ない。
請負人は拳銃の【HK MARK23】の銃口を瑠璃の顔に突き付けると、梓と瑠璃に探りを入れる。
「それで、PSC業界シェア、一位の宮之城HDと第二位のオカサトミヤの請負人が、第三位のウチの管轄エリアに、何の用があるんだ?」
真実を伝えれば、茅花に危険が迫る可能性が増すが、言わなければ目の前の瑠璃に危害が及ぶ可能性もある状況に、梓は狼狽える。
「伊賀さん、言わなくて良いよ。私は……」
瑠璃の言葉を遮り、一発の銃声が響く。
「西尾さん!」
「っう…… 最低。」
瑠璃は防弾チョッキ越しとは言え、45口径の弾丸に撃たれた痛みに表情が歪む。
「次、答えないと撃ち殺す。」
請負人は瑠璃の首筋に銃口を向ける。
梓の早まる動悸に吊られて 【M9A1 INOX 】の照準が大きく上下にぶれる。
「もう一度だけ聞く、あんたらの目的は……」
ノイズ音のあとに、請負人のインカムに連絡が入る。
「おい、どうした!? よく聞こえないぞ。」
捕らえられている瑠璃は、インカムから漏れる銃声や爆発音が僅かに聞こえ、請負人の集中力が散漫になっているのを感じ、叫ぶ。
「梓、ライト!!」
意図を理解した梓は【M9A1 INOX】に取り付けているフラッシュライトを点灯する。
強い閃光を受けた請負人の瑠璃に対する拘束が思わず緩くなる。
その隙に、肘鉄を喰らわせて拘束から抜け出した瑠璃は、踵を返し、一瞬にしてワン・ツーっと拳を請負人に打ち込む。
そして、怯んだ隙に姿勢を整え、回し蹴りを決め、制圧すると……
さらに、近くに落ちていた【M&P 45】を拾い、一発撃ち込む。
銃床と銃弾によるダメージが残る瑠璃が少し、ふらつく。
その様子を見た梓は拳銃を下ろして、駆け寄る。
「西尾さん、大丈夫?」
「うん、なんとかね。」
「ごめんなさい、私が撃てなかったせいで……」
瑠璃は、ふむ…… と一瞬、何か考える素振りを見せたあとゆっくりと口を開く。
「撃てなかったね……」
「えっ?」
「私も未だに、銃を握るのは怖いよ。でもね、私が撃たなかったことで大切な存在を失うほうがもっと怖い…… だから、私は撃てるの。」
「大切な存在を失うほうが怖い……」
うんっと応えた瑠璃は、照れ臭そうにしつつも続ける。
「さっきの場合は、伊賀さんを助けたい一心で動いていた。あっ、ごめんね。さっき、名前を呼び捨てにしちゃった。」
瑠璃は何時もの調子であたふたする姿を見せる。
「気にしてないよ。あのさ、瑠璃って呼んで良い?」
「うん。私も梓って呼ぶから。」
ほっとした笑みを見せる瑠璃に、梓が尋ねる。
「瑠璃は、どうして請負人になったの?」
「そうね、私が高校生になったばかりの頃のことだったんだけど、下校中にバスジャックに巻き込まれたの。
犯人は短機関銃を装備した2人組で、車両の前と後ろにいる状況のなかで、私の隣に座っていた制服姿の女の子が立ち上がったの。
勿論、2人の注意はその女の子に向くよね。動かないように声を荒げるなか後ろから、銃声が2発聞こえたの。」
梓はうんと頷く。
「利き手を撃たれて犯人達が、銃を落とした瞬間に、隣の女の子が前にいる犯人を倒したかと思うと、後ろの犯人も取り押さえられていたの。
その後、警察が来て一段落ついた頃には、その2人はいなくなっていた。
私は後ろの犯人を押さえていた女の子が同じ高校のセーラー服を着ていたことが気になって、次の日、学校中を探して見つけたのが玲香さんだった。」
「ということは、瑠璃の隣に座っていた女の子っていうのは、茅花ちゃんだったの?」
梓が合いの手を入れる。
「うん。あとで聞いたんだけど、事前にあの2人の犯行計画を察知していて、作戦中だったみたい。
それで、私が請負人として、宮之城HDに入れたのと玲香さんと親しくなれたのは茅花のおかげだった。」
瑠璃が続ける。
「請負人になった理由は、同い年で犯人を押さえていた玲香さんを凄いと思ったのと、助けてくれた2人の力になりたいと思ったからかな。」
「そっか、聞かせてくれてありがとう。」
梓の表情から不安の色が消えていく。
「いえいえ。それより、さっきからあまり電波の調子が良くなくて、茅花との連絡が取れないのよ。」
「大丈夫かな? 茅花ちゃん。」
梓と瑠璃は車内にある、各々の自動小銃のもとに戻る。




