19話
愛銃であるINOXモデルの【M9A1】にフラッシュライトを取り付けた梓が、ふと車窓から見える景色に視線を向けると、
車道の隣に沿うように、長く続くパイプは隆起的で人間の血管のように無数に連なっている。
敷地面積10haの長方形の形をしたグラーフツェッペリンの拠点から東に100m程離れた倉庫が建ち並ぶ道路に停車するセルシオ。
「これでよし。」
茅花の手により組み立てられ、飛び立った翼幅1m程の黒い小型UAVレイヴンは順調に高度を上げていき闇夜と同化していく。
「映像は問題無く送られてきてるわ。」
瑠璃の手元にあるPCには鉄の不夜城達を見下ろした映像が映っている。
ケブラー製のボディーアーマーを着た茅花は軽く屈伸運動をしたあと、2人のほうを見る。
「じゃあ、ちょっくら行ってくるね。」
「なるべく穏便にね。」
「了解。」
瑠璃と茅花は普段通りの調子で言葉を交わす。
「私が言うのもあれだけど、茅花ちゃん気を付けてね。危ないと思ったら無理しなくていいから。」
「梓さんありがとう。2人の援護が必要になることはまず無いと思うから心配しないで。 」
茅花はグラーフツェッペリンの拠点がある方角に走り去っていく。
「壁、高いな…… 」
茅花は拠点を囲う4mの壁を見て、別のルートを探す。
「壁沿いに南下すれば、手薄な貨物の搬入口があるわ。」
瑠璃がレイヴンから送られてくる映像でナビゲートする。
了解っと応えた茅花は指示通りに、素早く南下していく。
茅花は搬入口の手前で止まり、物影に隠れて様子を確認する。
「確かに、手薄だね。」
PDW【FN P90】を装備した1人の警備員が搬入口を監視している。
茅花はスカートのポケットから、伸縮式の警棒を取りだす。
そして、警備員の背後から忍び寄り制圧し、施設内に潜入する。
科学薬品のプラントを再利用している施設内には無数のパイプがまるで障害物のように張り巡らされている。
「よっ♪ ほっ、とっ♪ 」
茅花はパイプをハードルのように飛び越えたり、潜り抜け、難なく進んでいく。
「茅花、止まって!」
「おっと♪ 」
茅花はインカムからの指示に、即座に反応し貨物コンテナの陰に身を隠す。
「今よ。」
茅花は足音を立てずに警備員の背後を横切り、北の方角に進んでいく。
「瑠璃さんの言ったとおり、輸送船が見えてきたよ。」
茅花の目の前にはドックがあり、フィーダー輸送船として利用されている全長25mのコンテナ船が停泊している。
そして、荷役を行う為のクレーンがコンテナ船を跨ぐように鎮座している。
ドックの周囲を警備している請負人の存在に気付いた茅花は、情報を聞き出そうと忍び寄る。
「うっ?! 」
「1度だけ聞く、あなた達が最近流しているドラックはどこ? 」
請負人の背中に【PPQ M2】の銃口を突きつける。
「なんのことだ…… お前はどこの人間だ? 」
「そう、1度だけって言ったでしょ。」
茅花は警棒で、請負人を気絶させる。
「重い…… よいしょっと。」
そして、周囲に置いてあった、コンテナに請負人を隠すために、引きずりながら運んでいく。
隠し終えた茅花は、呼吸を整えてから事務所がある西の方角に進む。
茅花は、線路が引かれ、大量にコンテナが置かれた場所に出る。
コンテナが3個〜4個程積み上げられたことで、出来上がった迷路をゆっくりと敵に注意しながら進んでいく。
「……!?」
異変を感じた茅花は歩みを止めて、コンテナ越しに身を隠す。
北の方角にある事務所を背にした茅花の瞳には、数人の請負人と女性が映る。
ーーーーーー
「ん? なんで、京橋ナギがこんなところにいるの。」
レイヴンは、正面ゲート付近の施設内で請負人達と京橋が対峙している様子を映している。
「えっ? 」
梓も後部座席から身を乗り出して、PCの映像に食いつく。
レイヴンからの映像が急に途絶え、ノイズだらけになる。
「撃ち落とされた? 」
瑠璃は犯罪の温床になっている場所に京橋がいること、レイヴンが撃墜された状況に不穏な空気を感じる。
「伊賀さん、これをタボールに付けてといて……」
「う、うん。」
梓は戸惑いながら、単発式のグレネードランチャーと予備弾を受け取り 【TAR-21】のピカニティーレールに装着する。
「出来れば撃ちたくないな……」
「念のためだよ。」
セルシオのバックミラーに強い光が反射する。
「くっ、なに? 」
「お前達、ここで何をしている! 」
フラッシュライトを装着したアサルトライフルを装備したグラーフツェッペリンの請負人2人が銃口をセルシオに向けている。




