17話
「は、早く選びなさいよ!」
メイド服を着た梓がツンデレメイドの常套句を恥じらいながら言う。
「うん、梓さんはツンデレメイドのほうが似合ってる。」
自身の見立てが当り微笑む茅花もメイド服を身に纏っている。
「そ、そうかな…… でも、一度着てみたかったんだよね」
ゆっくりと回り、ロングスカートをはためかせた梓は満更でもない表情を見せる。
「梓さん、不慣れで恥じらってる姿がまた良いですよ。」
「あはは、ありがとう。」
夕日が差し込む、ハイバラ珈琲東京本店の店内には梓と茅花しか居ない。
「なんで、アンタがここに居るのよ! はい、梓さん。」
「な、なんで、アンタがここに居る…… 」
カラン、 カラン♪
「…… えっと、これはどういう状況なのかな? 」
喫茶店の入り口付近に飄々とした男性が立っている。
「え、梅田さん、お久しぶりです。これは、ちょっと遊んでて…… それより、依頼ですか?」
茅花は突然の来客にあたふたするが取り繕う。
「茅花ちゃん、久しぶり。仕事を頼みに来たんだけど、楸さんは居ないのかな? 」
梅田は茅花に問い掛けつつ、赤面しながらうつ向くメイドに視線を向ける。
「お祖父ちゃんは買い出しに出ていて私だけだよ、梅田さん。彼女は伊賀梓さん。」
「へぇ、俺の名前は梅田忍。よろしく、ツンデレメイドさん。」
「ちょ…… はい、よろしくお願いします。」
湯気が出るんじゃないかという位に赤くなるツンデレメイド。
「それで、どのようなご用件ですか?」
「ああ、それより伊賀さんは宮之城HDの方なのかな?」
梅田の目はさっきまでとは打って代わり鋭くなる。
「梓さん、ごめんね。」
「うん、じゃあ着替えてくるね。」
梅田の意を察した、梓は席を外して更衣室に向かう。
ガチャン♪
「それで、今回の依頼について話すよ。最近、出回っている危険ドラックをバラ撒いてる組織が特定出来たから、彼らの拠点に潜入し証拠を押さえて欲しいっていうのが依頼内容。頼めるかな?」
「とりあえず、玲香ちゃんに伝えてみますね。当然、依頼主は教えて貰えないですよね?」
茅花は依頼主自身にとってもリスキーな案件であるからこそ、情報屋である梅田を介したことを承知のうえで確認する。
「まぁね、詳細はこのなかに。」
梅田は茶封筒を手渡す。
「梅田さんに聞きたいことがあるのですが、白河かすみと京橋ナギについて何か知ってますか?」
茅花は茶封筒を受け取る。
「教えてあげたいところなんだけど、俺も何も知らないんだよ。」
「そうですか。玲香ちゃんが怪しいって思って、護衛任務を理由に接触したんだけど何も分からなくて…… 詳しくは話せませんが梓さんにはその調査に協力して貰っているんです。」
「へぇ、伊賀さんは請負人なのか…… この辺りでおいとまさせてもらうよ。」
「はい、玲香ちゃんから連絡が行くと思いますからよろしくお願いします。」
茅花は深く礼をして、梅田を見送る。
「ふふ、こうかな? 」
メイド姿の梓は更衣室の入り口付近に置かれている全身鏡の前に立ち、次から次へとポーズを決めている。
「えっ、頼んだ物と違う? あんたにはこれで十分よ!」
茅花から教えてもらった台詞を呟く梓。
「頼まれて着ているんだけよ…… あんたがメイド服が好きだって今知ったし、かんち… 」
梓の台詞を追いかけるように、更衣室の扉が開く音がする。
「ひっ!?」
ポーズを決めている梓に驚いた瑠璃は、驚いたままで硬直する。
「瑠璃、どうかしたの?」
「玲香さん、更衣室に非業の最後を遂げたメイドの幽霊が……」
「そんなわけないでしょ、この店でそんな事故はない……」
玲香と梓の目と目が合う。
「…… 宮之城さん、こんにちは。」
梓は突然、現れた玲香にたじろぐ。
「あれ〜 梓さんまだ着てる。」
最後に入ってきた茅花の口元が緩む。
「あれ、2人にも見えているってことは…… えっと、ごめんなさい。西尾瑠璃っていいます。よろしくお願いします。」
「こんな格好であれだけど、伊賀梓です。」
梓は恥じらいながらも応える。
「彼女はオカサトミヤの請負人よ。」
玲香はこの空気は一体、なんなんだと思いつつ、話題を変える。
「茅花、ごめんなさい。遅れず予定通り着いていたら私が直接、梅田さんから依頼内容を聞けていたのに。」
「ううん、私こそ梅田さんを呼び止めなくてごめんね。」
「依頼内容を確認してみたけれど受けたいと思うわ。偵察任務になるわね…… 誰が適任かしら。 」
考える素振りを見せる玲香に対して、茅花が提案する。
「私が単独で潜入するよ。」
「茅花…… 大丈夫なの?」
一瞬のなんとも言えない間のあとに、玲香が不安そうに応える。
「大丈夫だよ。あの時とは違って、装備を整えて臨む訳だし。」
茅花はニコッとする。
「じゃあ、私が現場近くでバックアップに入るわ。」
瑠璃の援護の申し出に、玲香は軽く溜め息を漏らす。
「まったく、私の不安を他所に、2人共決めるんだから。」
「玲香ちゃんは、玲香ちゃんの権限じゃないとどうにもならない状況に陥った時のために控えてといてね。」
玲香の不安を他所に、茅花が続ける。
「空爆とか玲香ちゃんじゃないと要請出来ないからね。」
「それもそうね。空爆要請は私にしか…… って、それ最終手段じゃない!」
玲香は納得したあと、突っ込みを入れる。
「もう、冗談だよ。冗談。」
「この2人の場合、冗談に聞こえない時があるからな〜」
瑠璃がアハハっと、軽く笑う。
「それじゃあ、伊賀さんは瑠璃と一緒にバックアップに回ってくれるかしら。」
瑠璃はアイコンタクトで玲香に応える。
「えっ、私も参加して良いの?」
梅田の言葉が引っ掛かっている梓に対して、玲香は続ける。
「ええ、伊賀さんは私達と協力関係にあるから問題ないわ。」
「うん。じゃあ、西尾さんよろしくね。」
「こちらこそ、よろしくね。」
瑠璃に対して、軽く会釈する梓は本当のメイドに見える。
「任務は明後日の深夜1時に開始するからそれまでに準備を万全にしといて。」
玲香は覇気のある声で3人に伝える。




