15話
玲香はコーヒーを飲み干しカップを置くと席から立ち上がる。
「伊賀さん、行きましょう。」
「えっ、うん。」
梓も席を立つと、茅花が『STAFF ONLY 』と書かれたドアに近寄り開ける。
ドアを通り抜けると、暗い照明に足元が照された長い廊下が続いている。
玲香を先頭に、廊下を進んでいく3人。
しばらく、歩くと1台のエレベーターが見えてくる。
エレベーターを呼ぶキーの隣には、1〜9の入力キーと指紋認証システムが設置されていて、その前に立った玲香は入力キーにパスワードを入力し、指紋を照合しエレベーターを呼ぶ。
すると、上昇を示す液晶画面の表示が点滅し始める。
チン♪
3人が乗るとエレベーターは下降を始める。
エレベーターの液晶画面には、下降を意味する矢印がただ点滅しているだけで階数は表示されていない。
チン♪
エレベーターを降りた梓の目の前には真っ暗な部屋が広がる。
天井高が5m程ある暗い部屋を照らすのは
床から天井ギリギリまで四方目一杯に設置されている無数のモニター達の明かりだけだ。
玲香はモニター達の手前に設置されている2台ある内の1台の情報端末機の席に座り操作し始める。
「この部屋はいつも寒いね〜 玲香ちゃん、私も手伝うよ。」
「ええ、ありがとう。」
茅花も、もう1つの情報端末機の席に座り操作を始める。
「宮之城さん、何をしているの?」
梓は玲香の近くにある椅子に座り、尋ねる。
「彼女…… 朝宮ついりさんの行動を監視カメラの映像から追っているのよ。」
玲香が操作すると情報端末の画面上に新しいウィンドウが開き、朝宮の画像が表示される。
「玲香ちゃんの会社と契約しているお店とかが設置している監視カメラが記録している映像を見ているの」
茅花がさらに応える。
2人の操作によってモニター達に移る映像は切り替わったり、早送りや逆再生をしている。
「茅花、私立新星学園に近いカメラのチェックに専念して。」
「了解♪」
茅花が操作するとモニターの大半が学園付近を記録した映像に切り替わる。
「伊賀さんと朝宮さんは同じクラスよね?」
「うん。あの時、朝宮さんも銃の許可免許を警官に見せていたからそこから調べたの?」
「そうよ、海外から帰省してきたばかりの世帯に銃の所持が認められること自体、珍しいのよね……」
玲香は怪訝な表情を浮かべながらキーボードを操作する。
「でも、照合出来ているから免許が偽物の線はなさそうだし…… 案外、普通の善良な市民なのかもね。」
茅花が玲香の疑問に応える。
「だと、良いのだけれど…… 何か引っ掛かるのよね。」
「宮之城さんの情報分析官としての感とか?」
「ええ、そんなところかしら。茅花、20番モニターの映像拡大して!」
玲香の声が響いたあと、20番の映像が周囲のモニター数台を費やされ拡大される。
「時間から考えて下校中のようね… 日付は今日ね。」
「今日、一緒に帰ろうって誘ったら用事があるからって断られた。」
梓は映像の時間を確認している玲香に応える。
「だったら、何か分かるかもね。追跡するよ♪」
茅花はカメラからまた別のカメラへと、次から次へと映像を切り替えて監視カメラ越しに朝宮を追う。
「アパートに入ったね……」
「茅花、この監視カメラの映像を早送りした映像と逆再生した映像を同時に表示して」
「はい、は〜い」
茅花が操作するとモニター達が映す映像が二分される。
朝宮が入った部屋が拡大された各映像が早送りと逆再生されていく。
「止めて。逆再生の方を見て、誰か出てきたわ。」
玲香の一声で梓と茅花は注視する。
「この人って……」
「かすみちゃん」
梓に続く形で茅花の声が被る。
「かすみって誰なの?」
「玲香ちゃん、かすみちゃん知らないの? 」
茅花が玲香を冷やかす。
「宮之城さん、白河かすみさんって言ってファッションモデルだよ」
「へぇ、そんな人がなんでこんなところから出てきたのかしら」
「だね。かすみちゃんについて調べてみたほうがいいかも」
有名人の登場が梓の好奇心を擽る。
「茅花、私が押し売りするから護衛任務を口実に白河かすみに接触してもらえるかしら?」
「良いよ、玲香ちゃん。」
玲香の依頼を快く承諾する茅花。
「宮之城さん、私じゃ駄目なのかな?」
「ええ、伊賀さんはオカサトミヤの請負人だし、宮之城民間警備とオカサトミヤが協同していることを相手側に知られたら警戒されるわ。」
梓が適任ではない理由を伝えた玲香は更に続ける。
「でも、朝宮さんと同じクラスという立場を利用して彼女達の情報を得る形で協力してもらえるかしら? もちろん、報酬は払うわ。」
「うん、協力させて。」
「朝宮さんと今の関係を保った状態で収集出来る些細な情報で構わないわ、お願いします。」
玲香は請負人として新米の梓に念を押す。
「玲香ちゃん。寒いし、上に上がろうよ〜 」
ブルッ! っと身震いした茅花が促す。
「そうね、戻りましょう」
ガチャ♪
「お嬢様、もうよろしいのですか?」
カウンターに立つ、楸はコーヒー豆を挽く手を止めて玲香に声をかける。
「はい。今後の計画は立てることが出来たので、ありがとうございました。」
「梓さんも今日はありがとう。一緒に頑張ろうね! 」
茅花が梓を鼓舞する。
「こちらこそ、よろしくね。今日はこれで失礼します。コーヒーごちそうさまでした。」
楸に礼を伝えた梓は喫茶店を後にする。
ーーーーーー
「分かった、人事部の方に伝えておくから。」
「ありがとう、ユリカさん。」
帰宅した梓は玲香から仕事を依頼されたことをユリカに連絡している。
「宮之城お嬢様から色々と教えてもらえるチャンスだし頑張ってね。」
「うん、ユリカさんは宮之城さんに会ったことあるの?」
「会ったことはないけど、色んな噂は聴くよ。あと、梓に伝えないといけないことがあるんだけど。」
「なに? 」
「今、うちの会社が技術指導している新興国の軍隊を視察しに行くから、しばらく日本を離れるから。」
「気を付けて行ってらっしゃい、ちゃんと警戒してよ。」
「分かってるって、じゃあおやすみ。」
「うん、おやすみなさい。」
ピィ♪
梓は電話を切る。




