14話
教室内に放課後を知らせるチャイムが鳴り響くと、梓はクルっと椅子の上で回り、後ろの席の朝宮に話しかける。
「朝宮さん、一緒に帰ろう。」
「えっ、えっと…… ごめんね。今日は用事があるから一緒に帰れない。」
朝宮は何かを取り繕うように応える。
「そっか、じゃあまた明日ね。」
「うん、また明日。」
朝宮は、そそくさと教室を出ていく。
教室を後にした、梓が校門前まで歩みを進めていくと女子生徒数人の人だかりが点在している。
「あのセーラー服って桜花女子だよね、なんでいるのかな?」
「あの子の髪キレイ……」
「カワイイ、脚ほそ〜い……」
玲香は野次馬の羨望には全く動じず、佇んでいる。
梓に気が付いた玲香が歩み寄ってくる。
「初めまして、宮之城玲香と申します。伊賀梓さんですよね? 昨日の件についてと言えば分かってもらえるかしら?」
「えっと、あの時に2階にいた人ですよね?」
初対面に関わらず、名前を知られていることから同業者であることを察する。
「ええ、良かったら少し話を聞かしてくれないかしら?」
「大丈夫ですよ。」
「ありがとう、場所を移すから車に乗って。」
玲香の横には防弾仕様の黒いセルシオが駐車している。
バタン!
後部座席の左に梓が座り、右に玲香が座るとセルシオは走り出す。
「伊賀さん、貴方はオカサトミヤのPCS部門所属の請負人で間違いないわよね?」
「はい、貴方は…… 」
ピリィリィ♪
「ごめんなさい、良いかしら?」
「はい…… どうぞ。」
梓は同じ高校生とは思えない程、落ち着いている玲香の風格に押される。
「ええ、と言うことは昨日の件は成立したっていうことで良いのかしら?」
「昨日の事件が気になるから、細かいことは任せるわ。」
ピィ♪
「それで、私に聞きたいことがあるようだったけど? 」
「失礼だと分かった上で聞きますが、貴方は何方ですか?」
「へっえ!? あなた、誰かも分からない車に乗ったの……」
「いや、あの犯人を撃っていたし悪い人には見えなかったから、私と同じ請負人かなって思って。」
ため息をつく玲香。
「請負人ならもっと危機感を持ったほうが良いわよ。それに、私は宮之城民間警備HDの請負人兼情報分析官よ。」
「っていうことは社長令嬢なんですか?」
「ええ、そうよ。請負人になって2年ちょっとしか経ってない伊賀さんが知らないのも仕方ないわね。」
「なんで、私についてそこまで知っているんですか。」
梓は驚きを隠せない。
「昨日の事件後、警官に銃の許可免許を見せた時に貴方の登録番号をメモしていたでしょ、その番号を報告書で確認してNSCに照会を依頼したら貴方の仕事歴を教えてくれたわ。さらに、その仕事歴から貴方が請負人になった理由も分かったわ。」
「……」
初対面の玲香に自身全てのことを把握されているような感覚に陥り怯えた顔をする梓。
「ごめんなさい、少し言い過ぎたわ。」
「い、いえ…… 大丈夫です。」
2人を乗せたセルシオがある喫茶店の前で止まる。
「着いたわ、降りて。」
「ハイバラ珈琲東京本店。」
ゴシック様式の喫茶店はクラシカルな雰囲気を放っている。
カラン♪カラン♪
「いらっしゃい。」
ウェイターの老人が応える。
喫茶店の入り口から見て右側にコーヒーメーカーやエスプレッソマシンが並んでいるカウンターには10席の椅子があるが客は誰も居ない。
左側には木製の丸いテーブルが3個並び、テーブルを囲むように椅子4個ずつ配置されている。
そのなかの1つのテーブルを陣取り、血の気が多くていかにも請負人っぽい大柄な男2人が会話している。
「楸さん、久しぶりです。カウンター席よろしいですか?」
玲香は男達に一瞬、視線を向けたあと楸に挨拶する。
「玲香お嬢様、久しぶりです。どうぞお掛けになって下さい。いつものでよろしいでしょうか?そちらのお嬢さんは何に致しますか?」
「ええ、いつもので。」
「えっと、カフェラテをお願いします。伊賀梓と申します。よろしくお願いします。」
「かしこまりました。初めまして、店長の榛原楸です。」
楸は、梓に向けて丁寧に一礼したあと、コーヒーを入れ始める。
「玲香ちゃん、遅かったじゃない。伊賀さん、初めまして♪ 榛原茅花です。」
メイド姿の茅花がひょこっと梓の目の前に現れる。
「茅花さん、初めまして。榛原ってことは?」
「うん、店長は私のお祖父ちゃんだよ。」
「お嬢様と伊賀さん、お待たせしました。茅花、お嬢様と呼ぶようにいつも言っているだろう。」
「お祖父ちゃん、良いじゃない玲香ちゃんは玲香ちゃんなんだし…… ね?」
玲香に同意を求める茅花。
「私はどっちの呼び方でも良いわ。」
玲香は諦めているように応える。
「宮之城お嬢様と茅花さんってどのような関係なんですか?」
「伊賀さんも、私のことを好きに呼んでいいから。私が幼い頃から、訓練の為に榛原家、つまり【榛原機関】に預けられて知り合ったという感じよ。」
「榛原機関?」
「榛原機関は、古くは戦国時代の頃から暗躍していた忍びの一族で、隠密に暗殺を得意としているの…… そして、今は宮之城民間警備HDと専属契約を結ぶ諜報機関なのよ。」
「お嬢様の言葉に付け加えさせてもらいますと、50年程前、国内外の治安に関する講演会場内で私がお嬢様の祖父である宮之城会長とお会いしたことがきっかけになりますね。」
「その時のお祖父ちゃんは凄かったんだよね。イラクでPMCとして治安維持活動したり、2km先のテロリストを狙撃したり」
「楸さんは自衛隊に所属されていたりしたのですか?」
梓は話のスケールの大きさに驚きを感じながらも質問する。
「はい、若い頃は自衛隊に所属していましたよ。その後は若気の至りと言えばよろしいのでしょうか、民間軍事会社に所属していた時期もありました。」
「……」
「伊賀さん、言葉が出ない感じ?」
「茅花、あなた自身のことじゃないのになんで嬉しそうなのよ」
ガタン!
「話が違うじゃねぇーか!」
「何がおかしいんだよ、言ってみろ!」
テーブル席に座る男2人が揉めて胸ぐらを掴み合っている。
一瞬、緊迫した空気が流れる。
ギィ〜 っと楸がカウンターの裏側にある棚を開け、6.5インチのリボルバー
【S&W M29】を取り出す。
44マグナムが6発装填されているリボルバーを見た男2人はお互いの胸ぐらを離し、何事もなかったかのように座る。
玲香がわざとらしく咳払いして、話題を戻す。
「想い出話を聞いてもらう為に伊賀さんを呼んだは訳じゃないから、そろそろ本題に移りましょう。」
玲香が『STAFF ONLY 』と書かれているドアに視線をやる。




