12話
パパァパァン!
―a few minutes ago―<数分前>
「次はどこを見て回る?」
「1階の有印良品見てもいいかな、食器とか揃えたいし。」
「うん、私も欲しい物が無いか見たい。」
昼食を食べ終えた梓と朝宮はエスカレーターで1階に降り、次の店舗に足を運ぶ。
「いつから、日本に来てたの?」
「えーっと…… 7月の中旬くらいかな」
「だったら、花火大会とか行った?」
「引っ越しと高校の転入の準備で行く暇なかった…… きゃ…… 」
すれ違った男とぶつかり倒れる朝宮。
ぶつかった男は朝宮のことを気にかける素振りも見せずに足早に去っていく。
「大丈夫!? ちょっと! あんた…… 」
「伊賀さん、大丈夫だから…… 私がちゃんと前を見てなかったのが悪かったんだよ」
「本当に大丈夫? 立てる?…… ん? 」
朝宮のことを気にかけつつも、男を一瞥した梓は、男が持っている厚手の紙で出来た手提げ袋の中身に嫌な予感が走る。
「うん、ありがとう伊賀さん…… どうしたの? 」
「朝宮さん、ちょっとここで待ってて!」
早足で歩く男を小走りで追いかける梓のなかで焦燥感と緊張感が膨れ上がっていく。
「伊賀さん、 どうしたの? 」
「朝宮さん、なんで着いてきたの!」
気持ちの余裕が無くなってきた梓の声はボリュームが大きくなる。
「えっ、急にどうしたのかなって気になったから。」
「あっ…… ごめんね。」
パパァパァン!
梓が冷静を取り戻した瞬間、モール内に銃声が響き渡る。
発砲音のあと、瞬間的に沈黙が空間を覆うが次の瞬間には騒然となるモール内。
姿勢を低くして、逃げ惑う人で溢れかえっている。
「朝宮さん、大丈夫?!」
朝宮に覆い被さるように伏せた梓が朝宮の身の安全を確認する。
「う、うん。何が起きたの?」
朝宮は状況が把握出来ていない。
「あ、ああ……」
目の前の恐怖に動けず座り込んでしまっている若い女性に向かって歩く男は短機関銃【kriss vector】を手にしている。
「おい、お前こっちに来い!」
「い、いや……」
非力な拒否しか出来ない若い女性を人質として盾にする男。
「おお…… おい、 彼女をはなせ! 」
偶然、その場に居合わせた若い男性が勇気を振り絞って男に.38specialを5発装填している豆鉄砲を向けている。
男性が握り締めているのは、普段から護身用として持ち歩いているであろう、リボルバーとして最軽量最小のjフレームの2.5インチモデルである。
「っふ! そんな反動が強い銃をお前が扱えるようには全く思えないけどな!」
鼻で笑い男性を馬鹿にする男。
「あんた、銃を下ろしなさいよ!」
駆けつけた梓はレッグホルスターに納めていた【M9A1】の銃口を男に向ける。
「おいおい!なんか増えたぞ!こっちには人質がいること分かってんだろ!」
梓と男性にドスを利かせる男。
「なんで、こんなことするの!? あんたの望みは何?」
梓は声を張り上げる。
「望みィ? 請負人に対する偏見への報復だよ! 例えば、ろくに銃も扱えないくせに、正義ぶってるこんな男とかな!」
男は男性に kriss vectorの銃口を向ける。
パァン!
「撃たれたのか… うぁぁ、痛い!」
請負人の男に右肩を撃たれた男性はのたうち回る。
「?!… あんた、請負人なのね… こんなことをすれば更に溝が深まることが分からないの! 」
「まさか…… お前もか、そんなことはどうでもいい! 見限ったんだよ、俺は!国の治安の為に働いても偏向報道され、忌み嫌われるこの社会を。」
「…… 」
梓は現実に嘆く請負人を目の前にして言葉が詰まる。
「この女を殺されたくなかったら、早くお前達も銃を下ろせ!」
「お前…… 達?」
隣に立ち【グロック17】を構える朝宮の存在に気が付く梓。
「朝宮さん…… 何しているの? 危ないから逃げて。」
「いや、ほっとけない。」
朝宮の瞳に強い意志が灯っている。
請負人は女性を盾にして少しずつ梓達から離れていく。
「…… くっ!」
梓は請負人を無力化したいが女性に当たってしまう可能性に歯噛みする。
パァン!
1発の弾丸が状況を打開した。
「うっ! 」
右手を撃たれた請負人はサブマシンガンを落とし悶える。
梓は発砲音が聞こえた後ろ斜め上を見る。
すると2階から請負人に【HK USP】を発砲した玲香が佇んでいる。
ヒュン!
梓の真横で風を切る音がする。
「?!……」
梓が音の方向に振り替えると、朝宮が請負人に膝蹴りを食らわせ、取り押さえていた。
「へぇ…… 」
朝宮の行動からなにかを感じ取った玲香はその場を後にする。
「犯人逮捕への協力に感謝します。」
2人の銃の許可免許を確認した警察官が敬礼し去っていく。
「ねぇ、伊賀さん答えにくいことなら答えなくて良いんだけど… 逮捕された男の人が言っていた『お前も…まさか… 』ってどういうこと?」
朝宮は慎重に切り出す。
「あぁ… 私、請負人なの。請負人って知ってる?」
梓は質問に応え、銃の許可免許ではなく請負人登録証を朝宮に見せる。
「うん、ニュースとかで見たことあるよ… あれ? お巡りさんに見せたのと違う?」
「あはは、ニュースか…… 登録証を見せたら、ややこしいことになるから免許の方を見せたの。」
朝宮の怪訝そうな表情に戸惑いながら応える梓。
「あと、クラスの皆には内緒にしといてね。お願い。」
「伊賀さんって強いんだね……」
「えっ、どうしたのいきなり。」
「私が伊賀さんと同じ立場だったら、あの男の人みたいになってたと思う。」
朝宮は純粋な敬意を言葉にする。
「ありがとう…… でも、朝宮さんが思っている程強くないよ。」
「えっ?」
「請負人になった頃から良くしてくれている上司がいたから何とかやってこれただけだよ。」
梓は呟くように応える。
「それより、さっきの膝蹴り凄かったよ朝宮さん。」
「住んでいた国の治安が悪かったから護身術を習ってたの」
「大変なことがあったけど楽しかったよ、ありがとう伊賀さん♪」
「私も楽しかったし、助かったよありがとう。」
2人は今朝待ち合わせていた駅前で別れの挨拶を交わす。
「じゃあね、また明日。」
「うん、また明日。」
梓と別れた朝宮はオレンジ色に染まる街を歩いて帰る。
電車が走る高架下で朝宮を待つ2人の少女がいる。
「あれ? 綾ちゃんと沙也夏ちゃんどうしたの? 」
「先輩、どうしたのじゃないですよ。何をしているんですか。」
肩の辺りまで伸びる黒髪が特徴の少女、沙也夏は朝宮に呆れている。
沙也夏は凛とした雰囲気を放っているものの、顔立ちには、まだ幼さが残っている。
「ナギ先輩とかすみ先輩にあれだけ目立つ行動を控えるよう言われたのに…… 2階にいたセーラー服の女性には確実に怪しまれていますよ。」
沙也夏はやれやれといった表情を見せる。
「セーラー服の人、ナギさんやかすみさんと同じくらい美人だったよね。黒髪もちゃんと手入れされていたし♪」
明るく、国民的アイドルグループにいても可笑しくない外見の綾が応える
茶髪をポニーテールにしている綾は嬉々とした表情を浮かべている。
「えっ、そんな人いたの?」
朝宮は玲香の存在に気が付いていなかった。
「いましたよ、先輩。」
綾が応える。
「綾まで、何を言っているのよ。」
「えへへ…… ごめんね、沙也夏ちゃん。でも、あのまま請負人をほっといたらもっと被害が出ていたよ。」
「私達は請負人じゃないのよ、報酬も貰っていないのに。先輩も今後は気を付けて下さい。」
2人は朝宮より年下だが、先輩のようだ。
「沙也夏ちゃん、もう良いじゃない。帰ってごはん食べよ♪」
3人は駅前から去っていく。




