10話
ピッ、ピピッ♪ という電子音が朝を告げる。
「…… ん」
ベットから起きた梓は枕元にある【M9A1】を手に取り、ダイニングルームに向かう。
梓が電気ケトルで沸かしたお湯をマグカップに注ぐと、アールグレイ特有の柑橘類の匂いが漂う。
そして、朝食の定番であるグラノーラに牛乳をかけると、梓は席につく。
「…… ユリカさんからメール?」
梓は食べながらタブレットに送られてきたメールをチェックする。
『おはよう、今日から新学期だったよね。学生の本分は勉強…… みたいなことは言わないけどそれなりに頑張ってね。
梓に頼めそうな依頼があったら、また声かけるから、その時は一緒に考えようね。』
一旦、朝食を食べる手が止まった梓の頬が緩む。
『おはよう、ユリカさんも無理しないように気をつけてね。ありがとう、私に出来そうな仕事があったらまた教えて。
じゃあ学校に行ってきます。』
梓はユリカに返信し、頬の傷を隠すためにファンデーションを塗り、赤色のチェックのスカートと白いブラウスに着替える。
「予備弾倉はいらないかな… 」
学校に持っていく鞄の中には、筆記用具や夏休みの宿題と一緒に、音速を超える9mmパラべラム弾を発射する愛銃が入っている。
「請負人登録証と銃の許可免許も持った……」
2枚はコンビニのポイントカードと同じくらいのサイズであり、表面には各登録番号が記載され、梓の名前と顔写真が貼られている。そして、裏面には防衛大臣の名前が記載され、大臣の判子が押印されている。
「行ってきます……」
ガチャン。
梓が出ていき照明が消えた部屋には、朝日が差し込んで、静かに舞うホコリが見える。
私立新星学園は、少子化に伴い経営難に追い込まれた複数の私立高校がオカサトミヤによって統合される形で約10年前に開校した学校であり、全校生徒数は約3千人程である。
「あ〜ずさ♪ 元気にしてた?」
「花菜、久しぶりってか暑いから抱きつかないでよ〜」
「ごめん、というか夏休みに全然遊べなかったじゃん…… まさか、彼氏出来たとか?」
「違うよ、バイトが忙しかっただけだからごめん。」
「バイトしながらの独り暮らしは大変だもんね。」
「近いうちに、また2人でどっか遊びに行こうね。」
「うん。私、部室に寄って行くからまたね。」
ポニーテールが似合う花菜は運動部の部室塔がある方角に走り去っていく。
朝のHRを知らせるチャイムが教室内に響く。
「お前ら、座れ。」
担任の注意を聞くと座り始める生徒が数人いる。
「夏休みは楽しかったか? 何時ものことだが始業式の後には夏休み明けのテストするかな。」
生徒からの返事を聞く事もなく、話を続ける担任。
「えーと、次に転校生を紹介する。朝宮入れ…… 」
転校生というキーワードにざわつく生徒達。
…… ガラガラ
黒板の前に立つゆるふわショートヘアーが特徴的な少女は、緊張のせいか少しもじもじしている。
「…… 初めまして、朝宮ついりです。海外に住んでいましたが、両親の仕事の関係で東京に引っ越して来ました。日本については、分からないことが多いので良ければ教えて下さい。よろしくお願いします。」
教室内に、朝宮を歓迎する拍手が起こる。
「えっと、空いている席は…… 伊賀の後ろだな、あそこに座ってくれ。」
朝宮は担任が指を指す席に移動し座る。
クルッ!
梓は椅子の上で180度回転して朝宮の目をを見て微笑む。
「私は伊賀梓、よろしくね。海外ってどこの国?」
「おーい、伊賀、転校生の前に先生の話に興味を持ってくれないか?」
「は〜い、すいません。」
恥ずかしながら、前を向く梓。
「伊賀さん、よろしくね」
梓にしか聞こえないくらいの声で、目の前の背中に話しかける朝宮。
キーン、コーンカーンコーン♪
昼休みになり、購買部に走る生徒が目立つ。
クルッ!
後ろの席の朝宮はコンビニのおにぎりの開け方に苦戦している。
「ちょっと、貸して。」
「えっ、うん。」
「朝宮さんって海外育ちの割には日本語上手いよね。」
「お母さんもお父さんも日本人で、家だと日本語で話してたから。」
「へぇ〜 そうなんだ。はい、これで食べられるよ。」
朝宮の代わりにおにぎりを開ける梓。
「ありがとう。」
ヒョイ!
「えっ?」
朝宮が受け取ろうとして伸ばしてくる手を避ける梓。
「朝宮さん、今週の日曜日空いている?良かったら、遊びに行かない?」
ヒョイ !
「…… うん、いいよ。場所は任せて良いかな?」
「やった! うん、任して。」
「おにぎり、開けてくれてありがとう。」
梓がようやくおにぎりを渡してくれて、朝宮はやっと食べられる。




