習慣
知らなかった。2ヶ月続けると、物事は習慣になるらしい。
「そっかあ、2ヶ月でいいのかぁ」
私はその日から2日に1度、彼にメールを送るようになった。
平日も休日も、午後の6時くらいにメールを送る。
初めは午前中とかお昼とかに送ってたんだけど、この時間に送ると彼は寝るまで相手をしてくれることがわかった。どうもお昼は用事のはいることが多いらしい。
彼は来るもの拒まずで、ちゃんと返事を返してくれる。
たわいもないやり取りが4時間くらいまで続いてまた明日。
特に用がなくても私が質問を送って、半時間程度答えを待つ、そんな毎日が始まった。
私からメールが届くことも、返信を返すことも、彼の習慣になる。そうなってくれたら嬉しいなって、そう思ったんだ。
「コンビニにねー、藤谷くんの好きそうなオレンジのチョコレートあったよー 買ったったー 明日やるー」
「あ、オレンジリキュールの?うまかったあれ」
「…たべたことあるの(^-^)?」
「いやしらないありがとうほんとごめん」
私のめんどくさいメールにもきちんと答えてくれる彼が好きで、遅くまで話す日が半年は続いた。
「今日の晩メシ?カップ麺」
「私はケーキでした!誕生日なんだ!祝え!」
「あー。ようやく俺に追いついたのかオメデトー」
「藤谷くん…私の背に追いつくのはいつなんだろうねえ…」
「寝るわ」
メールを始めて3ヶ月後くらいにはもう私の習慣になっていて、彼もきっと同じだろうと思ってた。
メールを待つのが楽しかった。催促のメールなんて送ったことはない。私の返事が遅かったことだって多かった。
「和菓子?うーん、私は桜餅かなー いやでもあれもすき 三食団子」
「毎食団子みたいになってるぞ。そういえばうちの近くの和菓子屋団子で有名なとこあるわ」
「団子!!!!!春はお花見ね!!!!!団子買ってきてね!!!!!!」
「いや、俺団子より桜餅の方が好き」
「じゃあふたつ*・゜゜・*:.。..。.:*・'(*゜▽゜*)'・*:.。. .。.:*・゜゜・*」
だから、知らなかった。
彼が、私の友人に迷惑だと愚痴っていたなんて。
「ねえ由佳。ちょっと頻繁に彼にメール送りすぎなんじゃない?」
どういうこと?と聞くと、彼、迷惑がってたわよなんて、渋々話すという風な口調で言った友人A。
うまくリアクションが取れなかった。
その日はすぐ家に帰って泣いた。
彼と友人Aは仲が良かった。学校では毎日といっていいほど2人で話してた。
だから私はメールで彼に近づいた。友人Aに邪魔されない。学校以外で時間を私に使ってくれる。そのことが嬉しくて。
メールに時間をたくさん使うのは嫌かなと、私も思った。でも嫌なことは嫌だと言ってくれると思ってた。それくらいの関係は築いていたつもりだし、自信もあった。
今時間大丈夫?とか、めんどくさくなったらメール切ってね。そう彼には伝えていた。
その度に彼はわかってるってって言って、私のメールに付き合ってくれた。
いつから2人で私を嘲笑っていたの。
いつから私の透けて見える好意を、馬鹿だなと笑って話のタネにしていたの。
彼は誤解だと言った。
私は信じられなかった。
何が本当でもよくなってしまった。
友人Aは彼の隣に居続け、私は新しい友人を作った。彼とはまったく話さなくなった。
私が連絡することで成り立っていた関係は、すぐになくなった。
友人Aのメールから数日後。
友人Aは、ごめんね、私の早とちりだった。
そう私に謝ったけど、だからなんだというのだろう。
私は笑ってうんもういいよと答えた。
なにがいいというのだろう。
彼と話さなくなって、連絡を取らなくなって、もう2ヶ月はとっくに過ぎた。
そんな日々は、もう習慣になってしまった。