図書館登録と魔力供給
そして、今日の昼休みには久し振りの図書館だ。一年生を連れていって利用者登録をするのである。わたしは多目的ホールに並ぶ一年生を見回して、ニコリと笑った。
「貴族院の図書館では登録料が一人につき小金貨一枚必要になります。お金がなくて登録を諦めている者にはわたくしがお貸しいたしますので、頑張って写本してくださいませ」
多目的ホールの本棚にはエーレンフェストの蔵書目録の写しと上級生が去年写本した本の記録を置いている。それを見て、他の人と重ならないように写本して欲しい、と説明すると一年生は初々しい顔で大きく頷いた。
急いで昼食を終えて、わたしは出かける準備をする。図書館の後でそのまま午後の実技に出られるようにしておかなければならない。
「やはりローゼマイン様も図書館へいらっしゃるのですか?」
「エーレンフェストの学生が図書館へ登録に行くのに、わたくしが寮でお留守番をする方がおかしいでしょう?」
わかっているけれど行きたくない、というような顔でコルネリウス兄様が準備万端のわたしを見下ろした。
「よく考えてください。今回は一年生の登録です。ローゼマイン様はすでに登録を終えている二年生なので、全く関係ありません。領主候補生であるシャルロッテ様もいらっしゃいますから、むしろ、ソランジュ先生の執務室に側近を連れてぞろぞろと行く方が邪魔になるのではありませんか?」
「でも、シュバルツとヴァイスに魔力供給もしなければなりませんし、ソランジュ先生にお貸ししている魔石も返してもらわなければなりませんもの」
わたしが唇を尖らせると、コルネリウス兄様は「魔力が足りないという連絡はソランジュ先生から届いていませんが」と軽く肩を竦めた。
コルネリウス兄様の言い分は多分間違っていない。魔石に魔力を込めて渡してあるのだから、今日わたしが図書館に行く必要はないかもしれない。だが、講義が終わるよりも早く図書館に足を運べる貴重なチャンスを逃す必要もない。
「わたくしがどれだけ図書館に行きたいのか知っているのに、コルネリウスはどうしてそのような意地悪を言うのですか?……さては、意中の方にふられましたね?」
八つ当たりですか、とわたしが睨むと、コルネリウス兄様がくわっと目を剥いて「違います!」と即座に否定した。
「では、卒業式にエスコートする相手は決まったのですか? コルネリウスもハルトムートも最上級生ですけれど」
優秀者なのに女の子にもてないわけないよね? とわたしが自分の側近二人を交互に見ると、コルネリウス兄様とハルトムートは視線を交わしあい、キラリと目を光らせる。何だか二人だけで通じ合っているようで、ガシッと固い握手をした。
ハルトムートがニッコリと作った笑顔でわたしを見下ろして口を開く。
「ローゼマイン様には教えられません」
「何故ですか!?」
ハルトムートにそんな拒絶をされると思っていなかったわたしが目を剥くと、コルネリウス兄様が本棚へと視線を向けた。
「母上に筒抜けになり、本の題材にされるからです」
本棚にはお母様とそのお友達が書いた貴族院の恋物語がある。お母様達が書いている貴族院の恋物語第二弾や第三弾の餌食になるというコルネリウス兄様の予想は正しい。
だって、お母様はランプレヒト兄様とアウレーリアの恋愛事情も楽しそうに執筆していた。登場人物の名前が違うし、神様を称える詩が途中に入るので、本人達を特定するのは難しいけれど、わかる人にはわかる。コルネリウス兄様も間違いなくネタにされるだろう。
ちなみに、ランプレヒト兄様の恋愛話は、想い合っていたのに社会情勢により一度は引き裂かれたけれど、神々に祈りを捧げることで最終的には結ばれたという話になっていた。半分以上がフィクションである。お母様の妄想力はマジすごいのだ。
「題材にされるのを避けたい気持ちはわかります。けれど、どなたをエスコートするにしてもご挨拶しないわけにはいかないでしょう?」
他領の人が相手ならば、尚更、領地対抗戦までに両親には話をしておかなければならないはずだ。お母様の餌食になる時期がちょっと前後するだけだと思う。
「それはローゼマイン様が奉納式のために戻った時に行います。ご心配なさらず」
さらりと言ってのけるところを見ると、どうやら相手を射とめることはできているように感じられる。わたしはコルネリウス兄様を好きだと言っていたレオノーレへと視線を向けた。俯いているせいで葡萄色の前髪が下りて、その表情は見えない。
「ハァ……。それにしても、どうしてこんな話になるのですか。私としてはこれから先のローゼマイン様の図書館通いに同行するために、なるべく早く講義を終える方を優先させたかっただけなのですが」
「では、コルネリウスはお留守番をしているといいですよ。護衛騎士にはレオノーレとユーディットもいますし、シャルロッテの側近も同行していますから」
お昼休みもお勉強していていいよ、と許可を出したのに、コルネリウス兄様は深い溜息と共に頭を振って、漆黒の目でじとりとわたしを見た。
「いえ、同行いたします。なるべく目を離さないように、と言われていますから」
誰に? と聞きたかったけれど、口を噤んだ。きっとずらずらと名前が並べられるに決まっている。神官長とか養父様とか養母様とかお父様とかお母様とか……。
わたしがそう思っていると、ハルトムートが橙のような明るい瞳で少しばかり遠くを見た。
「あぁ、私も色々な方から言われました。神殿の側仕え達を始め、ダームエルやアンゲリカ、エックハルト様やユストクス様、城に戻ってからは母上やボニファティウス様からも……」
……わたしが図書館へ行くの、ずいぶんと色々な人から要注意と思われているみたい。
「皆の意見はよくわかりました」
「ローゼマイン様、では……」
「でも、周囲からどう思われていても、わたくしに図書館を諦めるという選択肢はございません。早く図書館に行きましょう」
……久し振りの図書館だ。ひゃっほぅ!
「今回はフェルディナンド坊ちゃまから魔石も預かっていますし、大丈夫でしょう」
登録を終えているわたし達は入れるが、未登録の一年生は司書であるソランジュの許可がなければ図書館には入れない。
「シャルロッテ、ソランジュ先生から届けられている招待状をその扉の口に入れてください」
「はい、お姉様」
シャルロッテが少しばかり緊張した面持ちでソランジュから届けられた木札を扉についている新聞受けのような口にカコンと入れる。
数秒後、ギッという音を響かせながら扉がゆっくりと開いていった。驚きに目を見張る一年生を連れて明るい回廊を歩き、突き当りの扉を開ける。そこには去年と同じようにソランジュが穏やかな笑みを浮かべて待っていた。去年と違うのはソランジュの隣にシュバルツとヴァイスがいるところだ。
「お久し振りです、ソランジュ先生」
わたしが声をかけると、ソランジュの青い瞳が懐かしそうな柔らかい笑みを浮かべた。まるで久しぶりに会う孫を見る祖母のような目だ。
「ローゼマイン様がお元気そうで何よりです。それに、一年で少し背が伸びましたね」
「え? 一目でわかるくらいに、わたくし、大きくなりましたか?」
「えぇ」
大きくなったと言われて喜ぶわたしの周囲をシュバルツとヴァイスがひょこひょこと回り始める。
「ひめさま、きた」
「ひさしぶり、ひめさま」
「……大きいシュミルだ」
「喋っている?」
シュバルツとヴァイスを初めて見る一年生が目を丸くしているのを見て、一年生を代表するようにシャルロッテが口を開いた。
「お姉様、これがシュバルツとヴァイスですか? お話には聞いていましたけれど、わたくしの想像以上に可愛らしいです」
シュバルツとヴァイスの動きを追って、藍色の目を輝かせているシャルロッテの言葉にリーゼレータがコクコクと頷く。リーゼレータがうっとりとした眼差しをシュバルツとヴァイスに向けているのを視界の端で捉えながら、わたしは小さく笑った。
「そうです。可愛いでしょう? でも、シャルロッテも皆も触ってはなりませんよ。連れ去られるのを防止するため、シュバルツとヴァイスはいくつもの魔法陣で守られているのです。ちょっと手が当たった程度ならばピリッとする程度で済みますけれど、何度も触ろうとすると大変なことになるそうです」
シュバルツとヴァイスは司書のお手伝いをするために図書館内をうろうろとしているので、ぶつかる程度のことはありえるだろう。ほんのちょっと触れた時はピリッと静電気が走るような痛みで軽い警告があるらしい。
ただ、それが何度も続いたり、壊れるような衝撃だったり、長時間だったりした場合は、静電気のような警告ではなく、火傷したり、皮膚がただれたりと、反撃が強くなっていくそうだ。
「わかっています。わたくしも魔法陣を一緒に刺繍したのですもの。それに、どれだけ可愛らしくてもシュバルツとヴァイスは王族の遺物です。不用意に触れるようなことはいたしませんわ」
そのくらいの分別はあります、と胸を張るシャルロッテの言葉に、王族の遺物であることを初めて知った一年生は少しばかり驚いたような顔でシュバルツとヴァイスを見る。その顔には畏れ多いという表情がはっきりと表れていた。
「エーレンフェストの学生はローゼマイン様からすでに注意を受けているようですから、わたくしからシュバルツとヴァイスについてお話することはございませんね」
ソランジュが口元に手を当てて上品に笑いながら、わたしとシュバルツとヴァイスを見比べる。
「ローゼマイン様。わたくしは一年生の登録をいたします。その間にシュバルツとヴァイスへの魔力供給をお願いしてもよろしいですか? 二人ともローゼマイン様がいらっしゃることをとても喜んでいましたから」
「もちろんです。お邪魔にならないように閲覧室で行いますね」
「……そうですね。今は二階ならば誰もいませんから、視線を避けるならばそちらへどうぞ」
よほど閲覧室に行きたいという要求が顔に出ていたのだろうか。ソランジュは苦笑気味に二階へ向かうように言った。多分、ダンケルフェルガーに文句を付けられた時のことを思い出しているのだろう。余計なことに巻き込まれないようにするには視線を避けた方が良い。わたしはソランジュの言う通り、閲覧室の二階へ向かうことにした。
「ローゼマイン様は一年生の登録に全く関係がありませんでしたね」
「わたくしのお仕事は魔力供給ですもの」
呆れたようなコルネリウス兄様の声を背中で聞きながら、わたしはそそくさとシュバルツとヴァイスを連れて閲覧室へと入る。扉を開けて左側にある階段を上がって、二階に上がり、本当に周囲に人がいないことを確認した。
「コルネリウスは階段前で他の人が来ないか警戒をしてくださいませ。レオノーレとユーディットはシュバルツとヴァイスを見たいでしょうし、コルネリウス一人でも大丈夫ですよね?」
本当は二人で警戒に当たった方が良い。だが、女の子は基本的にシュバルツとヴァイスが好きだし、衣装の刺繍も手伝ってもらっている。階段前の警戒に当てるのは可哀想だ。そんなわたしの主張に、レオノーレがクスクスと笑った。
「ローゼマイン様、そのような心配は必要ございません。わたくしも階段前で警戒をいたします」
「レオノーレ、よろしいのですか?」
「えぇ。今日はこちらで警戒に当たりますから、衣装を着替えさせる時にはお側に付かせてくださいませ」
茶目っ気を含ませた藍色の瞳にわたしは笑って頷くと、階段前にコルネリウス兄様とレオノーレを残して少し奥まった方へと移動する。
「ここならば階段を上がってくる者からすぐに見えることはないでしょう」
リヒャルダの言葉に頷き、わたしはシュバルツとヴァイスの額にある金色の魔石へと手を伸ばした。そして、撫でながら魔力を注いでいく。ソランジュに預けてあった魔石から魔力の供給はされているようで、それほど減っているようではない。ただ、撫でていると気持ちよさそうに金色の目を閉じているので、魔力供給より褒める方を優先することにした。
「シュバルツ、ヴァイス。春から今日までお仕事をよく頑張りました」
「おしごとがんばった」
「ソランジュ、よろこんだ」
「冬は学生が増えるので、もっと大変になります。それに、わたくしと一緒に図書委員をしてくれるお友達もできました。今度紹介しますね」
魔力を注いでいた手を離すと、シュバルツとヴァイスが金色の目を開けて、何度か瞬きをした後、更に奥へと歩き始めた。
「ひめさま、ひめさま」
「こっちもなでて」
「……こっち?」
わけがわからないまま、わたしは本棚と本棚の間にある石像の前へと案内された。グルトリスハイトを胸に抱いた英知の女神 メスティオノーラの石像だ。神殿にある神の像が本物の神具を抱えているのと同じように、真っ白の石像であるメスティオノーラも黄色の革が張られた装飾的で大きな本を抱えている。様々な色合いのいくつもの魔石が並んでいることからも魔術具だとわかる。
そういえば、去年ソランジュは、図書館には英知の女神 メスティオノーラの御加護があるから生徒達の写本が集まってくる、と言っていたはずだ。
「ひめさま、ここなでる」
「おいのりする。ひめさまのしごと」
シュバルツとヴァイスに示されたのは、メスティオノーラが抱えるグルトリスハイトだった。わたしは言われるままにグルトリスハイトに触れて、お祈りする。
……どうか図書館の本がたくさん増えますように。
お祈りをしながら、グルトリスハイトに埋め込まれている魔石を撫でた。
ずわっと魔力が吸い出されていく。シュバルツとヴァイスに注ぎ込んだ魔力とは比べ物にならないくらいの大量の魔力が一度に引き出され、わたしは慌てて手を引っ込めた。
「ローゼマイン姫様、どうかされましたか?」
慌てて手を引っ込めたことを不審に思ったのか、リヒャルダが眉をひそめる。わたしは自分の手とグルトリスハイトを見比べ、異常事態が起こらないか注意しながら周囲を見回した。こんなふうに勝手に魔力を吸い取られた時は大体何かが起こってきたのだ。いくらわたしだって学習する。
けれど、学習は役に立たなかった。何も起こらない。
メスティオノーラの像が動き出すとか、王族の秘密書庫に入るための扉が出現するとか、何か起こるのではないかとちょっとだけ期待したけれど、全く何の変化もない。おかしい。
「……何も起こりませんね」
「ローゼマイン様、何かされたのですか?」
側近達の言葉に答えたのはシュバルツとヴァイスだった。
「ひめさまのしごと」
「じじさま、よろこぶ」
「……シュバルツ、ヴァイス。じじさまとはどなたですか?」
主である司書は全て「ひめさま」呼びだったはずだ。わたしは今まで「じじさま」という存在を聞いたことがない。
首を傾げるわたしに返ってきた答えは、更に首を傾げる結果になるものだった。
「じじさまはじじさま」
「ふるくてえらい」
「……じじさまという方はお年を召していらして、とても偉い方なのですね」
「そう」
……うん、シュバルツとヴァイスは可愛いけど、全然わからないね。
いくら考えてもわからないので、それ以上考えるのは止めた。後でまたソランジュに聞いてみよう。その方が確実だ。
そう思っていると、「わぁ!」という感嘆の声と共にガヤガヤとした声が聞こえてくるようになった。おそらく登録が終わった一年生を連れて、ソランジュが閲覧室へとやってきたのだろう。
「シュバルツ、ヴァイス。一階に下りましょう。一年生を案内してくださいませ。わたくし、ソランジュ先生とお話することがあります」
「わかった、ひめさま」
「あんないする」
一階へと降りていき、一年生の案内をシュバルツとヴァイスに任せる。シュバルツ達の言葉が足りなくても、シャルロッテの側近もいるので問題ない。
「ソランジュ先生、少しお話したいのですけれど……」
わたしは去年同様に自分の講義が終わるまで図書館への出入りが禁止されているので、それまで神官長の魔石を預けておくと言った。
「あまりご無理はなさらないでくださいませ」
「いいえ。わたくし、一日でも早く講義を終わらせて、今年こそ図書委員活動をしたいと思っているのです。去年の終わりにシュバルツとヴァイスと一緒に返却作業をしたのがとても楽しかったですし」
「あの時は本当に助かりました」
顔色を変えた学生達が次々と本を抱えて飛び込んできた様子を思い出して二人で笑う。
「本の返却率が素晴らしくて、今年もフェルディナンド様に督促用のオルドナンツを送ってほしいくらいです」
「……何か見返りが必要になりますね。もしくは、フェルディナンド様の声を録音しておく魔術具があれば解決するかもしれません」
映像を映す魔術具があったし、オルドナンツのように声を届ける魔術具があるのだから、録音機くらいはあるだろうと思ったのだが、あまり一般的ではなかったようだ。ソランジュはよくわからないというように目を瞬きながらおっとりと首を傾げた。
「声を留めておくということですか?」
「そうです。ご存知ないですか?」
「あれば便利でしょうね。図書館ではあまり大きな音や声を出すことは良いことではないので、督促以外の使い方が思い浮かびませんけれど」
そういえば、神官長が貸してくれて剣舞や奉納舞を撮影してくれた魔術具も音はついていなかったことを思い出した。
……神官長かヒルシュール先生に作れないか相談してみようかな?
「それよりもローゼマイン様は大丈夫でしょうか? 講義の実技で魔力をたくさん使うようになるでしょう? シュバルツとヴァイスへの供給がご負担になるのではないかと心配です」
できるかどうかわからない魔術具よりも、魔力供給の負担の方が心配だとソランジュが顔を曇らせる。
「大丈夫です。ハンネローレ様がわたくしと一緒に図書委員をしてくださることになりましたから」
「ハンネローレ様というと……ダンケルフェルガーの領主候補生ではございませんか? ダンケルフェルガーとは主の座を争ったのでは?」
わけがわからないというような顔をしているソランジュにわたしはシュバルツ達の争奪戦の裏側にレスティラウトの空回りがあったことを伝えておく。
「ハンネローレ様は本がお好きで、シュミルがお好きで、おっとりとしたお優しい方なのです。属性に問題がなければ、共に主として図書委員をする予定なのです」
「まぁ。では、本格的に図書館に人が増える前に今年もお茶会がしたいですね。聞いておきたいことがたくさんございますもの。できれば、ハンネローレ様もお誘いしてくださいませ」
ソランジュの言葉にわたしはパァッと目の前が明るくなっていくのを感じた。図書館でソランジュとハンネローレと一緒のお茶会である。考えただけで踊りだしたくなってしまう。
「本好きが集うお茶会ですね。ハンネローレ様にも絶対に声をかけます」
「えぇ、楽しみにしていますよ」
その時、図書館の中にステンドグラスを通したような様々な色の光が降り注いできた。午後の講義のために退室を促す光だ。
閲覧室の奥の方で「わっ!?」と驚きの声を上げる一年生の声が聞こえ、「ごごのこうぎだ」とシュバルツとヴァイスの声がした。
「ひめさまもこうぎ」
「おくれる。いそぐ」
……あ。「じじさま」のこと、聞いてない!
けれど、わたしの歩くスピードではなるべく早く図書館を出なければならない。お茶会か、図書館通いができるようになってからか、また次回にするしかない。
「また参ります。シュバルツとヴァイスはお手伝いを頑張ってくださいね」
シュバルツとヴァイスに急かされながら、わたし達は図書館を後にした。側仕え見習いと文官見習いはそれぞれの専門棟へと向かい、一年生とわたしと騎士見習いは中央棟へと戻る。
「お姉様、わたくし達一年生は講堂ですから、ここで失礼いたしますね」
一年生は全員揃って講堂で座学だが、二年生は実技だ。階級ごとに教室が違う。フィリーネが「ローゼマイン様、わたくしもここで失礼いたします」と言って、角を曲がっていった。
「ローゼマイン様を小広間に送り届けたら外に出て騎獣を使うぞ、レオノーレ、ユーディット」
「はい!」
わたしを送り届けると、中央棟よりも更に北にある専門棟へ護衛騎士見習い達は急いで向かわなければならない。わたしの優雅な全速力に合わせて歩く中、コルネリウス兄様達が話し合っている声が聞こえてきた。
わたしは身体強化の魔術具に魔力を流して、スピードを上げる。魔術具がなくても動けるようになってきているけれど、こういう時のために貴族院では常に付けているように言われている。
……なるべく速く、でも、優雅に!
「さぁ、姫様。午後の実技はシュタープの変形でございますよ。自分の身を守るための武器と盾の作り方をよく学んできてくださいませ」
リヒャルダがそう言って、わたしの背を軽く押した。
滑り込みセーフ!
一年生の図書館登録について行って、魔力供給してきました。
次は実技。シュタープの使い方、武器&盾です。