表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
224/677

冬の素材収集

 

 神官長に報告しなければ、と身構えて、わたしは儀式が終わるのをじっと待っていた。今まで神殿長個人宛にきた書簡や手紙の類は、全て今まで便宜を図ってきたらしい平民からの物で、貴族から届いた物はなかったからだ。


 それは、おそらくこの領地の貴族には神殿長と他領の貴族の拘束、及び、領主の母の幽閉がすぐに知らされたためだと思う。


 ただ、領主の母とその一派が捕えられたのはかなり衝撃的な内容だ。他領に漏れないようにこの件に関して箝口令(かんこうれい)が敷かれているかどうかがわからなくて、わたしはすぅっと青ざめていく。


 ……もしかして、大変なことをしでかしてしまったかもしれない。


 じりじりとした焦りを抱えながら、わたしが儀式の終わりを待っていると、白い鳥が入ってきた。

 オルドナンツに似ているけれど、少し小さめの白い鳥は机の上で二枚の手紙へと変わり、ひらひらと目の前に落ちてくる。わたしが手に取って見てみると、一枚はわたしが書いた返信の手紙で、もう一枚はそれに対する返信だった。


 神殿長の死に対するお悔やみの言葉と「知らせてくださってありがとう」という内容が丁寧に書かれている。「もっと詳しく教えろ」とか「なんでそんなことに!」というような取り乱した文章でなかったことに、安堵の息を吐く。

 返信用の手紙は入っておらず、返信は不要ということだろうと判断できた。


「ローゼマイン様、奉納式が終わったようです」


 廊下を青色神官達がぞろぞろと歩いていく音がして、その後、神官長と灰色神官が今日の奉納式で魔力が満たされた小聖杯を運び込んできた。

 フランが小聖杯を置いておくための戸棚を開けて、数人の灰色神官が手分けしながら並べていく。

 その様子を見ながら、わたしは神官長に手紙の一件を話してしまおうと、神官長に呼びかけた。


「神官長、あの、神殿長宛ての手紙が届いておりまして……」


 疲れているのだろう。この程度のことをいちいち聞くな、と言わんばかりに投げやりな態度で神官長は軽く手を振った。


「あぁ、まだ届いているのか。いつも通り、亡くなったことを伝えなさい」

「それは伝えたのです。そうしたら、お悔やみとお礼の手紙が届いて……」

「そうか。ならば、それでよかろう」


 本日の奉納式では前神殿長と仲が良かった青色神官達に(わずら)わされたようで、神官長の眉間にぐっと深い皺が刻まれる。

 今日はあまり話しかけない方が良さそうだ、と思ったけれど、自分の懸念を解消しておきたい。わたしはゆっくりと息を吸い込んで、神官長に声をかけた。


「あの、一つだけ教えてください」

「なんだ?」


 まだ何かあるのか、と神官長にじろりと睨まれて、わたしは一瞬怯みつつ、コクリと頷く。


「神殿長が亡くなったことって、他領には漏れないように箝口令かんこうれいが敷かれていますか?」

「いや、特には。領主の母が処分を受けて幽閉されたことについては、他領に付け入る隙を見せることに繋がるので、箝口令が敷かれている。だが、神殿長の生死についてはない。今までも書簡に返答してきただろう? 今更何を言っている?」

「いえ、だったら、良いのです。お疲れのところ、申し訳ありませんでした」


 ……セーフ。大失敗したわけではなさそう。


 秘密の恋人らしき彼女さんに神殿長の死を伝えたことは特に問題なさそうだ。わたしはホッと胸を撫で下ろす。


 ……全部追及されることにならなくてよかった。


 神殿長の純愛を神官長に暴露してしまうのは、死者に鞭打つようで胸が痛むのだ。利用できるものは徹底的に利用する神官長である。文通相手の名前も知らない彼女さんが一体どのような目に遭うのか、考えただけでも恐ろしい。


 今までに見たことがなかった魔術具の手紙だったので、動転してしまったけれど、神官長の言っていた通り、神殿長への手紙は今までに何通もあった。魔術具だったけれど、彼女さんの手紙もそのうちの一つだ。

 そう思うと、一気に気が軽くなって、わたしは肩の力を抜いた。




 そして、神官長が推測していた通り、三日間で奉納式は終わった。去年と同じように、ひどい吹雪が続く中、預かっている全ての小聖杯に魔力を込め終える。


「では、ローゼマインは全ての小聖杯を再度確認し、鍵をしっかりとかけておくように」

「はい」

「カンフェル、フリターク。其方達は灰色神官達が儀式の間の祭壇を片付け、神具を礼拝室へと戻すのをよく監督するように」

「はい」


 神官長に指示されるまま、わたし達は動き始める。

 本日、魔力を込めた小聖杯を灰色神官達に運ばせて、わたしの部屋の戸棚に並べてもらう。その後、全ての小聖杯が間違いなく並んでいることを、フランとモニカと一緒に確認して、しっかりと鍵をかけた。


 これでよし、と頷いていると、扉の向こうで小さなベルの音が響いた。神官長の側仕えが使うベルの音だ。


「ローゼマイン様、神官長が入室許可を求めていらっしゃいます。いかがいたしましょうか?」

「入っていただいて」


 恐らく、きちんと施錠されているかどうかの確認だろう。すぐにわたしは神官長に入室の許可を出した。

 長い棒状の物を持った神官長が入ってきて、すっとわたしの前に差し出した。


「ローゼマイン、これに魔力を込めなさい。できるだけ早く君の魔力で満たしておくように」


 神官長が差し出したのは、礼拝室に戻されるはずの神具だった。

 火の神 ライデンシャフトの槍を渡されたわたしは、ポカンとしながらも、慌ててその槍の柄をつかむ。それと同時に、柄の部分に並んだ小魔石に魔力が流れ込んでいく。


「あの、神官長、この神具をわたくしの魔力で満たすのですか?……一体何のために、でしょうか?」


 奉納式では、それまで日常生活の間で神具に奉納されていた魔力も小聖杯へと流される。そのため、奉納式が終わったばかりの今は、神具に全く魔力が残っていない空っぽの状態だ。この槍を満たすにはかなりの魔力が必要になる。できなくはないが、意味がわからない。


「この槍を君の武器にするためだ。持っていないだろう?」


 軽く眉を上げた神官長が何という事もなさそうにそう言った。わたしが自分の武器として使うためには、わたしの魔力で満たしておく必要があるのだ、と魔力を流さないようにするための革手袋を脱ぎながら言っているが、そういう問題ではない。

 神官長は簡単に言うけれど、握っているだけでどんどんと魔力を流し込んでいる状態になっているけれど、祭壇に飾っておくはずの神具を自分の武器として使うなんて、わたしの常識ではあり得ない。


「確かに武器なんて持っていないですけれど、これ、神具ですよ!? わたくしの武器にしてしまって良い物ではないでしょう!?」

「君が持てる大きさで、武器にできる魔術具がないのだ。已むを得まい」


 騎士団にある武器を使えるならば、そちらを使用させたけれど、わたしに持てる武器がないので仕方がないらしい。


「……これ、神具ですよ? 本当に良いのですか?」

「領主の許可は取ってあるし、神殿の備品を神殿長が使うことに何の問題がある? 武器がなければ困るのだから、文句を言わずに魔力を込めなさい」


 神官長の言葉を聞いていると、わたしがつまらない我儘を言っているような気分になってきた。

 養父様から許可が出ているならば、良いのだろう。ライデンシャフトの槍に数時間かけて、わたしは魔力を流し続ける。それでも、何となく罰当たりなことをしているような気がして仕方がない。


 ……神様、ほんの一時だけお借りいたします。必ず返すので、怒らないでくださいね


 神具の槍に魔力を込め終えると、わたしは孤児院へと向かった。奉納式を終えると、なるべく早く城に戻るという話だったので、孤児院の様子を見ておきたかったのだ。


「ギル、フリッツ。どのくらいできているか、報告してちょうだい」


 絵本の印刷やカルタやトランプの製造状況をギルとフリッツに確認する。合わせて、ヴィルマに城での様子を報告し、孤児院の様子を報告してもらう。


「貴族の子供達の間でも、カルタとトランプが流行り始めています。絵本も評判が良いです。ヴィルマの絵は好評でした。貴婦人方の間にも」


 手裏剣イラストをしこんだ共犯者であるヴィルマが「隠し通せると良いですね」と、小さく笑う。


「うふふ、実は次も考えているのです」

「ローゼマイン様、神官長にまた叱られますよ」

「大丈夫です。対策も練ってあります」

「まぁ!」


 わたしがニッと笑うと、ヴィルマは声を上げて笑った。

 わたし達が話をしている向こうでは、女の子達がせっせと編み物をしていた。皆に教えているのはハッセから移動してきたノーラだ。ハッセでは冬の手仕事だったようで、幼くても編み物に慣れているマルテが、隣で編んでいるデリアに教えている。

 わたしの視線を追ったヴィルマがニコリと笑って目を細めた。


「自分達が温かく過ごすためですから、皆、頑張っておりますわ。ノーラも教えられるばかりの立場ではなく、自分に教えられるものができてからは、ずいぶんと伸び伸びしてまいりました」


 新しくハッセで孤児院に入った四人の中で、最初に神殿の生活に馴染んだのは一番幼いマルテで、トールとリックは森への採集や工房での紙作りを通して周囲に馴染んでいったらしい。


 最年長であるノーラが、環境の変化に一番適応できていなかったそうだ。長年馴染んできた習慣を変えるのは難しい。それに加えて、自分よりも小さい子供達に教えられてばかりの境遇に、段々と自信をなくしてしまったそうだ。

 ここでは大勢の中で共に生活するので弟たちとの交流も以前ほどではなく、ふさぎ込んでいる姿が時々見られた、とヴィルマは教えてくれる。


「自分が知っている編み物を皆に教えることで、役に立っている実感が得られて、居場所を確保できたようです。笑顔も増えてまいりました」

「そう。問題なく皆が過ごしているようで、安心いたしました。これからもよろしくお願いしますね」

「かしこまりました、ローゼマイン様」


 孤児院の様子をも確認したし、言われていた通りライデンシャフトの槍に魔力も込めた。わたしは「いつでも城に移動できます」と神官長の部屋へ向かい、報告する。

 明日にでも城へと移動しようかと話をしていた時に、オルドナンツが神官長の部屋へと飛びこんできた。神官長の執務机に降り立ったオルドナンツが口を開く。


「フェルディナンド様、至急城にお戻りください。冬の主が現れました。今年の冬の主はシュネティルムです」


 焦りを帯びたようなお父様の声で三回同じ言葉を伝えて、オルドナンツは魔石に戻る。神官長はシュタープで軽く叩き、「オルドナンツ」と唱えると、白い鳥となった。


「編成は任せる。準備しておけ。すぐに行く」


 神官長がひゅっとシュタープを振れば、オルドナンツは飛んでいく。スッとシュタープを消した神官長が、険しい表情でこちらへと向いた。


「喜べ、ローゼマイン。最高級の魔石が採れるかもしれぬ。すぐに準備して城へ向かうぞ。採集時の服装を基本とし、防寒を怠らぬようにしなさい」


 この魔獣退治が冬の素材の採集なのか、とわたしは青ざめながら部屋へと駆け戻り、モニカとニコラに着替えをさせてもらう。フランにはエラに料理の手を止めて城に向かう準備をするように伝えてもらい、ロジーナも城へと戻る準備を手早く行い始めた。


 護衛騎士も顔色を変えて動き出す。私が着替えている間の護衛騎士はブリギッテだ。その間にダームエルは退室して鎧へと着替えている。

 寒くないように防寒対策に下着を重ね着してから、採集する時のようにズボンを履き、上着を着ていく。暖かい素材の上着を着込んで、すでに動きにくいと思いながら、わたしは分厚い上着をもう一枚羽織った。ここ数日止む気配のない吹雪の中を城に戻らなければならないのだ。防寒はいくらでもしておいた方が良い。


「……ブリギッテ、冬の主とは何ですか?」


 着替えさせてもらいながら、わたしはブリギッテに尋ねた。


「毎年、冬になると出現する魔獣の中で最も強い魔獣が冬の主と呼ばれています。非常に強い魔力を持っていて、吹雪を起こす魔獣です。狩らなければ、春の訪れが遅れますから、出現すると同時に、最低限の騎士を城に残して、騎士団総出で狩るのです」


 冬の主と呼ばれる程、強い魔獣は毎年出現するらしい。ただ、その種類は様々でシュネティルムという魔獣はかなり強い方に属するそうだ。


「……それをわたくしが狩るのですか?」


 魔獣の魔石を取るということは、シュツェーリアの夜に見たように、武器で魔物を狩らなければならないはずだ。あの、騎士達の働きをわたしがするなんて、想像でもできない。


「騎士団が弱らせてから、ローゼマイン様に止めを刺していただき、魔石を得るのだと思われます。皆が付いているから、それほど心配なさらなくても大丈夫ですよ」


 ブリギッテが安心させるように笑いかけてくれるけれど、ちっとも安心できない。どう考えも、わたし向きの採集ではないと思う。


 ダームエルが全身を鎧で覆って、戻ってきた。代わりにブリギッテが準備のために退室していく。

 髪をまとめてもらい、ふかふかの毛皮の帽子をかぶって、わたしは革の手袋をはめる。この手袋は魔力を通すための加工がされた、騎士団の見習い用の手袋だ。魔術具の指輪と同じように、ひゅっと形状を変えて、わたしの手にぴったりになる。


「ダームエルは冬の主をどう思いますか? わたくしに狩れるかしら?」

「……残念ながら、私は去年見習いの身分に落とされたので、まだ冬の主の狩りに同行したことはございません。同僚から聞いただけですが、非常に強いそうです」


 見習いは貴族院にいる時期の狩りなので、同行できるのは成人の騎士ばかりだ。しかし、ダームエルは騎士一年目だった去年、トロンベ討伐の時の処分で見習いの身分に降格させられ、わたしの護衛として神殿に詰めていた。

 ダームエルも初めての討伐になるらしい。


 皆が準備を終え、貴族門に最も近い出入り口へとライデンシャフトの槍を持って向かう。魔力が満たされ、わたしが扱うための武器となった槍はあまり重量を感じさせない。

 少し広くなっている扉の前に神官長の騎獣がすでに出されている。


「フラン、ザーム。扉を頼む。ローゼマインはここで騎獣を出して、皆を乗せなさい。ブリギッテ、同乗を頼む」


 フランとザームが扉へと駆け寄って待機し、わたしは神官長に指示されるままに屋内でレッサーバスを出して、エラとロジーナを乗せる。それを確認して、ブリギッテとわたしも乗り込んだ。


「ローゼマイン、冬の主が暴れだすと吹雪はひどくなる。視界がかなり悪いはずだ。なるべく近くを飛ぶつもりだが、見失わぬように気を付けなさい」

「はい」

「ブリギッテ、頼んだぞ」

「はっ!」


 神官長はバサリとマントを翻し、全身を鎧で固めているとは思えない軽やかな動きで騎獣に飛び乗ると、くっと顔を上げて前を見据えた。


「扉を開けよ!」


 フランとザームが取手に手をかける。ほんの少し開いた次の瞬間、ものすごい風と雪が吹き込んできて、バンと大きな音を立てて、扉が一気に開いた。

 猛吹雪に立ち向かうように、神官長の騎獣が外へと飛び出す。神官長の青いマントを目がけて、わたしも騎獣を動かした。


 神殿を駆け出し、貴族門を越えてすぐのところで、わたしの後ろから出発したダームエルがレッサーバスを追い越して、神官長と並んだ。わたしの前に青と黄土色のマントがはためき、二人のマントを目印に、わたしは騎獣を運転していく。


 どんよりと重たそうな灰色の空から白の雪がこちらにどんどんと向かってくる。視界は白一色でどの方向からも雪が飛んでくるように見えて、風向きも定かではない。


「ローゼマイン様、少し右へ向かってください。そろそろ城です」


 助手席に座っているブリギッテのナビゲートもあるため、わたしは神官長とダームエルを見失うことなく、城へと着くことができた。

 神官長がオルドナンツを飛ばし、ノルベルトがすぐさま扉を開けてくれる。


「エラ、ロジーナすぐに降りてください。我々はこのまま騎士団の方へと向かいます」


 ブリギッテの言葉に大きく頷いたエラとロジーナが、ノルベルトの開けてくれた扉へと駆けこんで行った。扉が閉まったのを確認して、神官長の騎獣がまた動き始める。


「騎士団の訓練場へと向かいましょう。すでに揃っているはずです」


 ブリギッテの言葉に頷いて、わたしは神官長の騎獣を追いかけた。

 騎士団が訓練を行う訓練場は複数あり、どれもこれも広い。騎獣に乗って戦う練習もするのだから、当然だろう。

 しかし、今のわたしには建物も白で、周囲の雪も白なので、今はどこからどこまでが訓練場なのか、全く判別できない。


 その訓練場に神官長の騎獣が飛び込んでいく。ダームエルが扉の前で待ってくれているので、わたしが先に入った。


 冬の主は最低限の護衛騎士を残し、総力を挙げて狩らなければならない魔獣だというのは誇張でも何でもないようで、訓練場の中にはすでに騎士団がずらりと揃っていた。

 エーレンフェストに常駐している騎士は五十名ほどだと聞いているが、今日は地方を守っている騎士も集合しているため、ざっと見回しただけでも二百五十人くらいはいると思う。


「待たせた」


 神官長の言葉にざっと全員が跪いた。わたしもレッサーバスから降りて、神官長の隣に並ぶ。


「今年も冬の主が現れた。上級は冬の主の四肢を切断することに全力を挙げよ。中級は眷属の退治、下級はローゼマインの騎獣の周囲で構え、取りこぼしを処理するように」

「はっ!」

「ブリギッテはローゼマインの騎獣に同乗し、指定位置に到着した時点で、中級に合流、ダームエルは下級と行動を共にせよ」

「はっ!」


 神官長の指示にダームエルが駆け出して、整列している騎士の方へと向かう。その様子を見ていると神官長がわたしを見下ろした。


「ローゼマインは私が呼びに行くまで騎獣で待機。指定した位置から絶対に動くな」

「はい。あの、フェルディナンド様。わたくし、皆様の武運をお祈りしてもよろしいですか?」


 わたしにできることなど多くない。戦いの場で混戦状態になってから祈るよりは、余裕のある内に祈っておきたい。

 神官長は難しい顔で騎士達を見回した後、ゆっくりと頷いた。


「……魔力を温存しておいた方がよいのだが、今年は魔石を譲ってもらうことになるのだ。まぁ、よかろう」


 神官長の許可が出たので、わたしは指輪に魔力を込めていく。騎士団が総出で狩らなければならない、という強大な魔獣に勝てるように祈る。


「炎の神 ライデンシャフトが眷属 武勇の神アングリーフの御加護が皆にありますように」


 青の光が指輪から飛び出して、騎士団の上に降り注ぐ。人数が多いので、思ったよりも魔力を使った。


「出陣準備!」


 神官長の声に皆がざっと立ち上がり、騎獣を準備し始める。わたしも騎獣に乗りこもうとしたら、神官長に呼び止められた。


「ローゼマイン、かなり魔力を使っただろう? 戦いが始まる前にこれを飲んでおきなさい。それから、魔力温存のために騎獣の大きさを調節するように」


 ブリギッテと二人で乗れるサイズに調節して、騎獣に乗りこみ、わたしは神官長に渡された薬を見つめる。

 魔獣を退治するのに魔力は必須だ。神官長仕様で苦み調節がされていない、効率重視の薬を泣きたい気持ちで、ぐいっと飲んだ。疲労回復と魔力回復の薬だ。口の中が苦くて仕方がないけれど、体調は万全に整えておいた方が良い。


「では、出陣だ!」


 先頭を駆けるのはお父様と上級貴族の騎士達で、上級の殿(しんがり)を務めるのが神官長だ。神官長と上級に先導され、中級に囲まれる形で移動するのがわたしである。


 北の方向に強い魔力を感じた。そちらに向かって騎士団が整然と移動していく。猛吹雪に立ち向かうように強い魔力の源へと騎獣を駆った。


 空を駆ける周囲の騎士達が時折ガシャガシャと音を立てながら、こちらを見てくる。レッサーバスを見るためだろうか、鎧の頭の部分が音を立てるのがちょっと怖い。


 強い魔力に近付けば近付くほど、どんどん吹雪がひどくなっていく。そして、吹雪が渦巻く中心に大きな影が見えた瞬間、わたしは神官長から待機を命じられた。


「ローゼマインはここで待機だ。槍を握って、いつでも飛び出せるように準備しておきなさい」


 神官長の言葉を聞いたブリギッテはレッサーバスを飛び出して、自分の騎獣を出すと、それに跨った。ブリギッテが指定されている位置に飛んでいくのと同時に、神官長が青いマントを翻し、上級の騎士達の戦闘へと向かう。


 入れ替わるようにわたしの周囲は下級貴族の騎士達に囲まれた。


 奉納式は無事に終了して、次は冬の素材採集です。

 強い魔獣の魔石が素材となります。ローゼマイン初めての魔獣狩りです。


 次回は、シュネティルムとの戦いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここなぁ、明らかに懸念事項のありそうなローゼマインの様子をスルーして詳細を聞かないのってやっぱちょっと神官長らしくないよな
レッサーには風が吹き込まないしドアはミヨンと穴開くと記載があったでしょ 他のより遥かに寒くないよ
( ; ゜Д゜)神官長! 情報共有はもっと徹底するようにロゼマを仕込みませう! 多分この件が切っ掛けで地位を獲る為数人の貴人方が消される事になるのでしょうね? 混沌の女神の毒牙が振りかざされる様が目に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ