平壌への道、六将の牙
平壌への道は、かつて私たちが命からがら逃げ出した、あの呪われた雪道だった。
だが今、そこを埋め尽くしているのは、高句麗の蒼き軍旗と、大地を揺らす一万の足音だ。
「懐かしいな、チャリム」
馬上のトムルが、白髪の混じり始めた髪を風に靡かせながら私に微笑みかけた。その腰には、ハリボルの王から贈られた名剣が佩かれているが、反対側の腰には、相変わらずあの使い古された皮の石袋が下がっている。
「ええ。当時は帳面を守るのが精一杯でしたが、今はあなたの勝利を刻む準備ができています」
しかし、平壌は甘い場所ではなかった。
ヨルム王は、この12年をただ恨みに費やしたわけではない。平壌を守る七つの要害には、彼が大陸全土から集め、地獄のような訓練で作り上げた六人の将軍――**「黒鉄六将」**が配置されていた。
最初の難所「断頭谷」。
そこを守るのは、巨大な鉄球を操る双子の猛将、エンとギだった。
「ここから先は、高句麗の血で谷を埋め尽くせ!」
降り注ぐ巨大な岩と鉄球の雨。精鋭たちが次々と倒れ、進軍が止まったその時。
「若造ども、下がっていろ。……『剛力』の意味を教えてやる」
老将ガリムが、赤いマントを翻して最前線に躍り出た。その手には、月影の入江から使い続けている、無数の傷がついた愛槍。
「ガリム、無理はするな!」
トムルの制止を、ガリムは豪快な笑いで跳ね除けた。
「王よ、あんたは先へ行け。……平壌の玉座で待ってろ。すぐに行く!」
私はその背中を帳面に焼き付けた。ガリム一人が双子を引き受け、血路を拓く。その間に、トムルは残る全軍を率いて、迷うことなくさらに北へと突き進む。信頼。12年で築き上げたその絆が、多勢に無勢の状況を覆していく。
第五、第六の関門をソリムの神速の矢と、テムジンの決死の突撃で突破した頃、ついに平壌の巨大な城壁が霧の向こうに姿を現した。
かつてのソムラ国の象徴。今や、狂王ヨルムの巨大な墓標のようにも見える。
だが、軍師ハリムの顔は険しかった。
「……妙ですね。六将軍のうち、まだ一人が姿を見せていない。それに、この城から漂う空気……ソムラのそれではありません」
ハリムが指し示した先。城壁の頂に、異様な人影があった。
それは、チェリョンの故郷――遥か西方の意匠を凝らした鎧を纏い、見たこともない形状の長剣を構えた、蒼い瞳の騎士だった。
チェリョンの顔から、血の気が引く。
「……お兄様?」
その呟きは、風にかき消された。
ヨルム王は、高句麗を滅ぼすために、チェリョンの過去さえも戦力として呼び寄せていたのだ。
夜、平壌を包囲する高句麗軍の陣営で、私は震える指で筆を走らせた。
『平壌の門は目前にある。』
『しかし、そこに待ち受けていたのは、旧友の献身と、愛する者の悲劇だった。』
『ガリムは戻らない。ソリムも深い傷を負った。』
『トムルは今、一人で焚き火を見つめている。彼が握りしめているのは、石ではなく、チェリョンから渡された小さな銀の首飾りだ。』
『明日、この大陸の歴史は終わるか、あるいは全く新しい物語として生まれ変わる。』
『私は記録者として、その最期の一滴までを見届ける覚悟だ。』
城内から、不気味な笛の音が聞こえてくる。
いよいよ、最終決戦の幕が上がる。
〔チャリム・ソノの記録 第十五帳より〕




