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高句麗の獅子  作者: 水前寺鯉太郎


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14/16

12年の轍

  十二年の歳月は、荒野を豊かな麦畑に変え、若者の額に深いしわを刻むには十分な時間だった。

 高句麗の本営、国内城こくないじょう。かつて島から流れてきた一人の石投げの少年が、今や大陸の北半分を統べる王として、その玉座に座っている。

 トムルの傍らには、相変わらず深い青の瞳を湛えたチェリョンがいた。彼女の異国の知恵は、この国の法となり、医療となり、民を飢えから救ってきた。

「父上、平壌の動きをこれ以上看過すべきではありません」

 玉座の前で、精悍な顔立ちの若者が声を上げた。長男、ハソルだ。トムルの統率力を受け継いだ彼は、すでに一軍を率いる将軍としての風格を備えている。

「兄上は血気が過ぎる。今は平壌の内部崩壊を待つべきです」

 静かに異を唱えたのは、次男のチャムル。チェリョンに似た知性を持ち、ハリムから軍師としての薫陶を受けていた。

 三男のピラムは、そのやり取りを退屈そうに眺めながら、窓の外の空を見ていた。

 私は、柱の影でその光景を記録していた。

 独身のまま、墨の香りにまみれて過ごした十二年。私の帳面はすでに数十冊に及び、そのすべてに「トムル」の名が刻まれている。

 ふと視線を落とすと、かつての仲間たちの姿があった。

 赤い鎧を纏ったガリムは、今や高句麗軍の総司令官として、白髪の混じった髭を撫でている。その隣には、常に冷静なソリム。そして、北方との交易路を守るテムジンが、時折、海の方を見ては嫌そうな顔をするのも変わらない光景だった。

 しかし、平和という名の幕の下では、腐敗と野心がうごめき始めていた。

 平壌に逃げ延びたヨルム王は、十二年という執念の時間を使い、最強の六将軍を育て上げていた。かつて入江で屈辱を味わった「黒鉄」は、より冷酷な「死の軍勢」へと作り替えられていたのだ。

「……ハソル、チャムルよ」

 トムルが、ゆっくりと立ち上がった。

 かつての震える声ではない。重厚で、慈しみの中に揺るぎない芯の通った声。

「お前たちが互いの正義で争う時、民が何を見るか知っているか。……恐怖だ。僕がかつて、あの丘で見たものと同じ、救いのない恐怖だ」

 トムルは、壁に掛けられた古びた皮の袋を手に取った。中には、十二年前、月影の入江で拾った平たい石が入っている。

「平壌へ行く。ヨルムとの決着は、僕の代でつける」

 その言葉に、城内が凍りついた。

 ガリムがニヤリと笑い、ハリムが扇子を閉じる。テムジンは馬の準備に走り出した。

 その夜、私は最後の一行を書き添えた。

『十二年。それは奇跡を日常に変える時間だった。』

『しかし、王位という名の毒が、トムルの愛した息子たちを蝕み始めている。』

『トムルは、自らの命を燃やして、その毒を浄化しようとしている。』

『平壌攻略。六人の将軍との一騎打ち。そしてヨルム王との再会。』

『まったく、とんでもない男に会ってしまった。十二年前も、そして今も、私は彼から目を離すことができない。』

 北の空には、かつてないほど巨大な不吉な星が、平壌の方角で赤く輝いていた。

〔チャリム・ソノの記録 第十四帳より〕

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