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【異世界恋愛】短編集

十七回、婚約破棄を繰り返した令嬢の話

作者: 嘘月
掲載日:2026/02/25


「エルマ・ロ・マリアベル、婚約破棄だ」


今回は珍しく露天、つまりは中庭での告知だった。

まばらに散っていた令嬢たちが、一気にこちらへ吸い寄せられてくる。


「すまない、お前は……悪くないんだ。ただ、俺が『真実の愛』を見つけてしまったばかりに……」


俺、アドベールが言うには相応しくない言葉、わたしかわたくしと言うべきだ。


そんなことを天を仰ぎながらに思っていると、中庭の梅木に隠れるようにして一人の女性がいた。絹のドレスを動きやすく加工し、腰回りには花柄のエプロンを巻いた、何とも言えないファッション。


もとい、エルマの教育係。

『令嬢夫人』への指導のため、公爵家から、わざわざ王宮へ移動してきた私たち。


それが、当本人につかまり、この有様である。


「なんだ、それは監査官服か……」

「ええ、今日は服の縫い付けを学ぶ日だったので、持参してきました」


翠色の目からは、何を考えているのやらさっぱりわからない。


何と答えればいいのだろうか、とエルマは少しの間戸惑った。

元々、そこまでいい家系の生まれでもない、というか少し貧乏なまでもある。


しかし、案の定、両親は娘に嫁いでもらおうと、必死になっていた。


五歳のころ、正念場と見たのか、幼馴染で仲もよかった『第一継承者』ラライアス王太子と婚約を結んだ。蝶よ花よと可愛がられてきた私は、幾分傲慢で、何をするにも侍女がいないと泣き喚くほどだったが、ラライアスは大らかに見守ってくださった。


それから、二年が経ったころ。あっという間に婚約は解消された。


理由は、我が貧乏男爵家は隣国との貿易において、大きな損失を出してしまったこと。領地の安定を願って、寛恕として婚約を呑んでくれていた、王太子ご一家も呆れて、届出の書類を出してきたという。


それからは、話は早い。

二度目、三度目、四度目、九度目と続き、私は十二歳となった。


十度目は、辺境伯との婚約。しかし、女公爵との不倫がすぐさまわかり、両親から縁を切った。


十三度目は、第四王子との婚約。ラライアス王太子ということもあり、貧乏男爵家一行はあれよこれよと気合を入れ、王宮の近くに教会を借り、ドレスも一流のものを仕立て、翌日には夜会まで主催した。


夜会。


その時には、もう遅かった。

誰かがあらぬ噂を流したのか、はたまた当事者が仕組んだ罠なのか。


『かのエルマ・ロ・マリアベルは、我が第四王子の命を狙おうと計画しておったのだ!』


響き渡る怒声。

十三度目は、二日で婚約が解消した。


十四度目。十五度目、十六度目。そして、今。


「長かったですね、三年も続くなんて。私、もう十七歳になってしまいました」

「そうだな、悪かった……」


そんな乾ききった会話をしているうちに、エルマの教育係が茂みから顔を出した。

分かっている、私だってもう大人に近い、こういう時は笑って別れるのが正解だ。


「姫様!なんで……なんでええ!そこで、諦めるのですか!!」

「姫様はやめてください。昔のあだ名なんですから」


しかし、視界がとたんに藍色に染まって行くのを感じた。


公爵家に帰えれば、馬車に荷物と財産全てを乗せて、ヒールとドレスを馴染みの商人に売って、それから両親に最後の挨拶をする。今まで、婚約破棄の翌日には次のお見合いが決まっていたものだが、そろそろ自立でもして、自分の力で歩いて行かないといけない。



『承知いたしました』



復讐なんてもってのほかだ。

深々と頭を下げると、エルマは少しの安堵でため息を吐いた。



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― 新着の感想 ―
ハッピーエンド??? でも、確かにバッドエンドでもないな・・・ 独身だからと言って不幸と言う訳じゃないし、自立しようと決めた事はハッピーエンドなのかな? 気になるのは主人公は男爵家それとも公爵家? 何…
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