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輝翼のテテュス~女を捨てて軍に入ったけど、年下王子から言い寄られて私の情緒はグチャグチャです~  作者: 三津朔夜


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ドレスに袖を通したら

 入浴後。メイドに世話をされるエルディッサは疑問を投げ掛けた。


『そういえば今宵こよいの夜会、テテュスはどんなドレスを着るのだ?』


 興味津々《きょうみしんしん》な顔でいて来る。彼女の心持が分からず、不可解そうに首をかしげた。


『軍服だが?』


 丁度今着ている。その答えを聞いた途端、彼女は明らかに愕然がくぜんとした。落胆といってもいい。


『姉上には許可をもらっておくから、着るのだぞ?』


 嘆息交たんそくまじりに肩をすくめる。不機嫌そうな眼差しは期待の裏返しと受け取っておき、メイドの一人に案内されテテュスは一室に通される。


「こちらになります」

「ああ。ありがとう」


 入った先では、色とりどりのドレスが並んでいた。衣裳いしょう部屋なのだろう。

 ここは側妃そくひに与えられた私室の内の一つ。


 尚、その側妃は不在。聞けば現在、王と二人きりで「公務」の真っ最中らしい。正妃が臨月なのに。足早に去った理由はそっちか。

 壁一面を覆う姿見の前に立たされると、メイドがドレスを持って来た。


「これなどは如何(いかが)ですか?」

「う~ん」


 鏡の前では、派手な黄色いドレスをあてがわれて難しい顔を浮かべるストロベリーブロンドの女性士官が居た。意匠デザインも悪くはないのだが、イマイチしっくりこない。


 何度繰り返しても首を縦に振ることができず、申し訳なくて最後は自分で選んだ。

 多分ミレイユは緑系だろうし、赤系はエルディッサと被りそうで手が止まる。

 趣旨しゅしが祝賀なので暖色系をしてくれるのはありがたいが、自分はもう少し落ち着いた色合いを欲していることに気が付いた。


「なら、これだな」


 丁度良さそうなのがあったので手に取る。意匠(デザイン)を見た時、まさにおあつらえ向きだと思った。


「本当によろしいのですか?」


 怪訝けげんな顔で何度も確認されたが、その都度つどこれ以外はないと首を縦に振ると彼女もあきらめた。

 現在、鏡の前にはつやめく紺青こんじょうのドレスを着飾った女性が立つ。髪は同色のリボンに結わってもらい、統一感が出ている。


「意外としっくり来るな」


 胸元の布が息を吸う度に波打つ。身体に吸い付くような生地きじ。強化服のスライム材並みの滑らかで軽やかな肌触はだざわりに、自然と顔がほころんだ。


 夜空のように深い紺青こんじょうのドレスは、星屑ほしくずを散らしたような銀の刺繍ししゅうきらめいていた。

 左腿まで大胆に割れたスリットは女の色香をかもす一方で、りんとした気高さを引き立てる。


 背筋を伸ばしたその艶姿えんしは、剣を置いた戦乙女いくさおとめが一夜限りの羽衣はごろもまとったようだった。


「はい。とてもよくお似合いです」


 メイドも太鼓判たいこばんを押してくれた。直後で真顔になったのは少し面食らったが、深くは追究しない。

 交互に鏡と実物を見比べてみたが、特に問題はない。胸元や上体のラインが強調されたドレス姿を前にすると、女性だという自覚を強烈きょうれつに促されるから不思議だ。


(こういうの。自分には似合わないと思っていたんだけど……)


 見慣れぬ自分の姿に、思わずまばたきを繰り返す。

 似合わないと思っていたのに、鏡の中の自分は、どこか誇らしげだった。


(私も、こんな顔をするのか)


 自分でも知らなかった。

 縁が無いと半ば諦観ていかんしていたのだが、人生はいつどうなるか分かったものではない。


 あらわになった肌は、き出しの自分をさらしているようで正直落ち着かない。それでも、夜会という政治の舞台への戦装束いくさしょうぞくと思えば戸惑いも収まる。武装に万全を期すは、戦人いくさびとの務め。


 時計を確認してみると、既に午後六時を回っていた。朝から何も食べていない事を思い出すと、途端にお腹が鳴った。

 コルセットは少し窮屈きゅうくつだが、夜会は長丁場なので何か食べないともたない。そういう見解に落ち着き、先程案内されたエルディッサの私室へと足を向けた。


「失礼します」


 さすがに「ただいま」とは言えない。お邪魔している立場なのだから。

 メイドと別れた後で扉を閉めると、まずダグアーラが居ない。自室に戻ったのだろうと予想がつく。次に、会話が途切れた室内でノーラの姿を探すと、彼女は天蓋てんがい付きのベッドで寝ているようだった。


「フフ♪ ゆっくり休むといい」


 声量をおさえ指先で少しほおに触れると、わずかにまぶたふるえるのがとても愛らしい。あまりちょっかいを出して起きても困る。最後に繊細せんさいな手つきでほおでてから、音を立てず慎重にベッドから離れた。

 振り返ると、エルディッサたちが石のように固まっている。


「? どうし――」

「テテュスちゃんっ その服、すっごく似合ってる!」

「ちょっ⁉」


 興奮したミレイユが、翠眼すいがんかがやかせて詰め寄った。


馬子まごにも衣裳いしょう――――いえ。荒削りながらも、ようやく原石が磨かれ始めたといいますか……」

「おい、リゼ」


 馬子まごとは何だ、馬子まごとは。黒髪メイドの忌憚きたんのない意見に口角が引きる。


「こういう女の子っぽい服も、絶対に合うと思ってたの。見せてくれてうれしいわ♪」

「驚異のギャップ萌えというヤツですね。大変眼福でございます」


 口々にまくし立てる二人へ、テテュスは戸惑いを隠せない。


「大変愉快(ゆかい)である♪ テテュス、そなたは本当に余を飽きさせぬな」


 エルディッサの声が部屋全体に響く。


「ちょっと三人とも。そんなに――」

「んぁ……」


 落ち着くように促そうとしたそばから、ノーラが眠い目をこすりながら上体を起こす。図らずも、少女の覚醒かくせいで部屋が静寂を取り戻す。


「…………お姫様?」

「なっ――」


 幼い侍女じじょは寝ぼけ眼でコテンと首を傾げた。姫と呼ばれたことに対し、テテュスは顔を紅潮させて狼狽ろうばいした。

 女を捨てて巫女みこに、軍に奉職したつもりだった。


 なのに。

 それを嬉しがる気持ちが、テテュスの胸の深奥で疼いた事に驚きを隠せないでいた。


「どう? ノーラちゃん。テテュスちゃんのドレス姿、お似合いでしょう?」


 ミレイユがガシッと腰をつかみ、少女の方へ突き出す。その一言で、ようやく少女の目が覚めた。


「きれい……」

「……っ」


 ほう、と頬を上気させ、見惚みとれながら感想を漏らす。テテュスは恥ずかしくなり、ノーラの顔をまともに見れない。


「そうであろうな。ノーラ、そなたいい審美眼をしておるな♪」

「あっ コラ」


 嬉々として肩を組んで首根っこを引き寄せて来るのはエルディッサ。入浴時から思っていたが、気を許した相手には遠慮なくじゃれつくようだ。もう傷の痛みは引いているので、純粋に可愛らしいとも思うが。


「随分と仲良くなられましたね?」

「フフ♪ 本当にね♪」


 怪訝な顔を浮かべてのぞき込んで来るのはリゼ。純粋に言祝ことほぐのはミレイユ。

 そう返された瞬間、テテュスはかすかにまゆを動かした。一言の否定もせず、ただ目線をそっと逸らす。


「私だって、友達の一人くらいは作れる」


 桜めく顔を逸らしつつ、口元だけは小さくほころんでいた。

 認めたくなかった気持ちに、少しだけ素直になれた。


「うむ。裸の付き合いの賜物たまものだな♪」

「ええええええええええっ⁉」


 何故なぜか顔を真っ赤にし、頓狂とんきょうさけんだのはノーラ。彼女は火照ほてった頬を抑え、わなわなと震えていた。


「これがあの、百合ゆりが花咲く展開ってヤツですかあっ⁉」

「おいリゼ。貴様、ノーラに何を吹き込んだ?」


 全然違う。テテュスは胡乱うろん眼差まなざしを彼女に向けた。どう考えても、狼狽ろうばいする幼い侍女と一番接点があるのは黒髪メイド。


百合ゆりというか。風呂には薔薇ばらを散らせてはいるが?」

薔薇ばらっ おフロで⁉ そ、そそそれはふしだらですよっ⁉」


 首をひねるエルディッサに対し、ノーラは悲鳴に近い声を上げた。


「おいリゼ」

「情操教育ですよ」


 鋭い眼光に、彼女は視線を泳がせた。

 その後。少女の誤解を解くまで、空腹のテテュスはお預けを喰らっていた。

多分、あとで手直しします。20時までには。

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