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7大天使の力

「ミカエル、面白いことをしているじゃないか。俺たちも混ぜてくれ」


 その声は、虚空を切り裂くように響き渡り、私が呆然と見守る魔法陣から、新たな光の渦が噴き上がった。眩い輝きが収まった時、そこには六柱もの天使が立っていた。彼らは、まさしく聖なる存在の威厳を纏い、私を能力(スキル)の付与へと導いた七人の天使の筆頭、天使長ミカエルに劣らぬ高貴さを放っていた。彼らは順に自己を紹介する。私に能力(スキル)を授けようとしていた天使長ミカエル。そして、慈悲深きラファエル、気高きガブリエル、剛勇のウリエル、自然を司るアリエル、死の案内人アズライール、そして戦の天使カマエル。彼らこそが、天界の頂点に君臨する七大天使と呼ばれる、まさしくお偉方だったのだ。


「魔王の子供に能力(スキル)を与えるとは、天界が始まって以来の、前代未聞の大珍事ではないのか?神々がこの事実を知れば、貴様とて天界から追放されてしまうぞ」


 そう言いながらも、ラファエルはどこか楽しげに、ニコニコと微笑みを浮かべてミカエルに問いかけた。その口調からは、底知れぬ余裕と、まるでこの状況を愉しんでいるかのような気配が漂う。ミカエルは天使長としての威厳を崩さず、堂々たる態度で応じた。


「天界の定めし法典に、魔族へ能力(スキル)を与えてはならないという一文は記されていない。故に、法に反さぬ限り、何ら問題は生じぬはずだ」

「なるほど、確かにその通りだな。貴様のその理屈には異論ない。だからこそ、我々もここに参じ、この稀代の事象に手を貸したいと願ったのだ」


 他の天使たちもそれぞれの意見を述べた。


 「ミカエルの能力(スキル)が強大であることは疑いようもない。だが、神々が与えし能力者たちへの対抗策としては、いささか心許ない気がする」

 「同感だ。人界に渦巻く醜い争いは、今も絶えることなく続いている。この不毛な戦乱に、そろそろ終止符を打つ時が来たのではないか」


 天使たちの言葉は、まるで連綿と続く悲劇に苦しむ魂の叫びのようだった。


 「皆の意見は一致しているようだが……しかし、これ以上お前たちに迷惑をかけるわけにはいかない」


  ミカエルの戸惑う声に、女性の天使、ガブリエルが静かに、しかし毅然とした口調で語りかけた。


 「何を水くさいことを言っているのよ、ミカエル。私たちは天使長の意向に従う。それに、このお嬢さんに能力(スキル)を与えることは、私たちにとっても正しい選択だと信じているわ」

 「そうだ!この子に能力(スキル)を与えることに、我々六柱に異論はない。各自が熟考し、納得の果てに辿り着いた結論なのだ」


  カマエルの力強い言葉が、その場の議論に終止符を打った。


「ありがとう、皆。天使長として、君たちのその決断に感謝しかない」


  ミカエルの声は、安堵と、かすかな感慨に満ちていた。天使たちの言葉の端々から、魔族の子である私に能力(スキル)を与えるという行為が、いかに危険なものであるかを改めて知らされた。もしかしたら、神々の逆鱗に触れ、天界から追放されるという、想像を絶する運命が彼らを待ち受けているのかもしれない。それなのに、なぜ、何の取り柄もない私ごときのために、七大天使という畏れ多い存在が、ここまで深く関わろうとするのだろうか。しかし、彼らが単なる面白半分で行動しているのではないことだけは理解できた。その瞳の奥には、何か秘めたる()()が宿っている。それは、私の浅はかな知識では到底窺い知れない、深遠な計画の一端なのかもしれない。


 「お嬢さん、貴女もこれまでの話を聞いていただろう。天使長として、貴女に七大天使全ての能力(スキル)を与えようと思う」


 ミカエルは、先ほどまでの優しい表情を捨て、厳しい視線を私に投げかけた。その瞳は、私の心の奥底まで見透かすかのように鋭い。


 「貴女の膨大な魔力量を考慮すれば、七つの能力(スキル)を与えたとしても、貴女の存在に歪みが生じることはないだろう。だが、七大天使の能力(スキル)を完璧に使いこなすには、並々ならぬ努力が不可欠となる。その苛烈な修練を乗り越える覚悟が、貴女にあるのか」


 ミカエルから授かった能力(スキル)一つであれば、さほど困難ではなかったのかもしれない。しかし、七大天使全ての力となると話は違う。それは、ただ事ではない困難が待ち受けていることを意味していた。だが、私の心に迷いはなかった。異世界でチートスキルを振るい、無双の存在となることに憧れていた私にとって、これは千載一遇の好機だ。安易に神から万能の力が与えられるとばかり思っていたが、どうやらこの異世界は、そこまで甘くはないらしい。しかし、努力次第でその力が手に入るのならば、その努力を惜しむ理由などどこにあろうか。女が廃るというものだ! 私は心の中で即答した。


 「頑張るのです!」


 私の返答に、ミカエルの厳しい表情は一転し、元の優しい顔つきに戻って笑みを浮かべた。


 「本当に面白いお嬢さんですね。でも、そんな貴女だからこそ、私を含め七大天使が皆、貴女を気に入ったのでしょう」


 そして、私は先ほどミカエルと交わしたのと同じ厳かで神聖な契約の儀式を、残る六柱の天使と順に繰り返した。幾多の紆余曲折を経ながらも、ついに私の契約は完了したのだ。これで、お母様にも喜んでもらえるだろうか……。いや、無理であろう。魔族の身でありながら天使と契約するなど、それは天界のみならず、魔界においても未曾有の大問題へと発展しかねない禁忌だ。しかも、今の私は魔力は完全に枯渇し、身体能力も地に落ちている。例えるならば、深淵の闇に生きていたはずの魔王の子供が、そこらの魔物ですら恐れぬ、レベル1の村人にタコ殴りにされるよりも弱い、無力な存在に成り下がっているのだ。


 さて、私はこれから、この身に宿した七大天使の力と、魔族としての宿命を抱え、一体どこへ向かうべきなのだろうか?


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