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悪魔との契約

 私の名はルシス・エルドラード。魔王の子供に転生した、見た目はただの5歳の女の子だ。しかし、今日は私の5歳の誕生日であり、同時に【(ちぎり)の間】で悪魔と契約を交わす、定められた特別な日だった。魔王の子供として、ただ契約するだけでは不十分だ。強大な能力(スキル)を持つ悪魔と契約することができなければ、魔王としての資質がないと判断される。それは、私にとって存在意義を問われるような重い宣告だった。


「ルシスちゃん、ついに悪魔と契約する日が来たわね。あなたの魔力量ならお父様を越える悪魔と契約して、きっと偉大な魔王に成れるはずよ」


 お母様は、いつものように優しく微笑んで私の頭を撫でてくれた。その笑顔は暖かくも、どこか遠い期待の光を宿しているように見えた。魔界の理は単純明快だ。悪魔は自分より弱い者とは契約を結ばない。そして、その強さの基準は「魔力の量」によって測られる。幸か不幸か、私ルシス・エルドラードは、3人の魔王の子供の中で、群を抜いて一番の魔力量を保持している。その量は歴代最高値を計測したと聞く。魔力量は生まれた時にすでに決まっているものであり、私のこの圧倒的な力は、私が次期魔王となる運命を決定づけていると誰もが信じていた。だからこそ、この悪魔との契約は、単なる通過儀礼ではない。歴代最高の魔力量を持つ私が、先代の魔王すら凌ぐ悪魔と契約することこそが、絶対的な要件とされていたのだ。


「はい、お母様。素敵な悪魔様と契約して、きっと私が魔王の座につきますから、安心してくださいなのです!」


 私は精一杯の笑顔で答えた。だが、その声は心の中で震えている。……本心を言えば、私には不安しかない。悪魔との契約とは、一体どのようなことをするのだろうか? 魔王の子供として生まれたとはいえ、私には前世の記憶がある。その記憶が、目の前の「悪魔」という存在に対し、拭い難い躊躇いと、底知れない恐怖を抱かせていた。


「天使様ならよかったなのです」


 心の中で、幼い声がひっそりと呟く。聖なる光に包まれた天使のイメージと、悪魔の禍々しい姿は、前世の記憶と深く結びついて、私を縛り付けていた。


「カァラァ、リプロ、2人もがんばって偉大な悪魔と契約するのよ」


 お母様は、今度は私の後ろに控える弟たちに優しく声をかけた。


「はい、お母様! お姉ちゃんの力になれるように、偉大な悪魔様と契約します!」


 自信に満ちた声で答えたのは、私の2人の弟、リプロとカァラァだ。私より魔力量は少ないものの、2人とも尋常ではないほどの魔力量の持ち主である。この2人のどちらかが魔王になったとしても、魔界の均衡を保てるだけの十分な力を秘めていると、皆が口を揃えて言う。だが、彼らの目は、常に私の背中を追いかけていた。

 悪魔との契約の儀式は、魔王城の最上階の契りの間で順番に行われる。重厚な木製の扉には複雑な紋様が刻まれ、その奥からは微かに淀んだ魔力の気配が漏れている気がした。儀式の順番は、リプロ、カァラァ、そして私、ルシス。


「最後は嫌なのです」


 また、心の中で小さな悲鳴が上がる。確かにトリを飾るのが主役の務めだと頭では理解している。しかし、この底知れない緊張感を最後まで持ち続けるのは、5歳の体にはあまりにも酷だった。


「お母様、いってきます」


 リプロが、緊張とは無縁とばかりに、自信に満ちた表情で契りの間へと進んでいく。その小さな背中が、重厚な扉の向こうへと消えていく。


「いってらっしゃい。がんばってくるのよ」


 お母様の声が、やけに遠く聞こえた。


「はぁ~」

 

 私は思わず深くため息をついた。悪魔との契約って、本当にどんな事をするのだろう。お母様に尋ねても、儀式の内容は「秘密なのよ」としか教えてくれなかった。ただ、「簡単なものよ」とは言っていたけれど、もし本当に簡単なことなら、教えても問題ないはずだ。むしろ、その秘密主義が、私の不安をさらに大きく掻き立てる。だって相手は「悪魔」なのだ!想像しただけでも、その禍々しい存在感に、おしっこをチビってしまうくらい怖い。前世の記憶があるせいで、かえってそれが**私にとって大きな(あだ)**となってしまう。

 私がそんな風にビクビクと怯えている間に、時計の針は容赦なく進み、30分が経過した。そして、重々しい扉が再び開き、リプロが契りの間から誇らしげな顔で出てきた。


「やったよ!お母様、僕、3人の悪魔様と契約したんだよ! この悪魔様の能力(スキル)を自在に扱えるように、これから日々訓練をして、お姉ちゃんの配下として頑張ります!」


 リプロは興奮気味に、その小さな拳を握りしめて報告した。彼の顔には達成感が漲っており、その言葉は私への絶対的な忠誠を誓うものだった。


「よくやったわ、リプロ! 3人の悪魔様と契約するなんて、本当に素晴らしいわ。そうね、ルシスをしっかりと支えてあげてね」


 お母様は、満面の笑みでリプロを抱きしめた。


「はい、お母様!」


 続いては、カァラァの番だ。契りの間の扉が再び閉じられ、重い沈黙が降りる。数十分後、カァラァもまた、リプロと同様に3人の悪魔との契約に成功したと満面の笑みで戻ってきた。


「僕も、お姉ちゃんの力になれるよう、日々精進します!」


 カァラァもまた、嬉しそうに私を見上げてそう答えた。私の2人の弟たちは、まるでお姉ちゃん大好きっ子に育ってしまっている。彼らの目標は、私に魔王になってもらい、自分たちはその強力なサポート役に徹すること。しかし、それはもしかしたら、お母様がそうなるように導き、育てた結果なのかもしれない。

 そして、ついに私の番が来てしまった。扉の向こうから、冷たい視線が悪魔の気配が、私を呼んでいる気がする。


 不安しかないのです!


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