赤髪の騎士は婚約破棄された令嬢に求婚する.ep3
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短編「赤髪の騎士は婚約破棄された令嬢を甘やかしたい」が、前作に続き1000PVを超えました。有難うございます! 感謝を込めてふたりのその後を書いてみましたが、こちらの短編だけでも楽しめるように編成しております。
※王国を混乱させた悪魔騒動が収束し、アシュリーの故郷である辺境伯領へ戻ってからのおはなしです。
※悪魔騒動については省略していますので気になる方は連載「精霊王子と漆黒の姫」をお読みください。
※「赤髪の騎士」の短編も3作目なのでシリーズ設定しました。
オレはリオニダス。
カーディナル王国の大公家の三男だ。
王弟である父は「恥じることのない人生を歩みなさい」が口癖。
厳しい環境で育てられたため、自分で言うのもなんだが賢いほうだと思う。
悪魔騒動が起きる前は近衛騎士団で副団長をしていた。
剣には自信があるし、アシュリーを守ると決めたオレはその役目を誰にも譲るつもりはない。
⋯⋯そう思ってアシュリーと一緒に辺境伯領に来たはずだったんだけどな。
アシュリーの護衛は現在、オレを含めて4名いる。
辺境伯閣下の意向だ。
いくら殿下が洗脳されていたとはいえ「殿下に婚約破棄された令嬢」というアシュリーの立場に変わりはなく、良からぬ連中が近づく可能性がある。例の悪魔もまだ逃亡中だし護衛は多いほうが安心だろう。
女性しか入れない場所もあるため、女性騎士と男性騎士の二人一組の交代制で任務にあたっているのだが。
「リオニダス様、そろそろ任務交代の時間です」
出た。オレと組んでいる女性騎士のジェーンだ。
ボブカットの銀髪、淡いブルーの瞳、キリリとした精悍な顔つき。普通に美人だ。美人なのだが⋯⋯オレは彼女が笑っているのを見たことがない。
「ありがとう、すぐに行くよ」
真面目な彼女はオレが気に入らないらしく、必要最低限の会話しかしない。
辺境伯領へ来て3カ月、ずっとこんなかんじなのでオレもいいかげん慣れたよ。
オレは笑顔を貼り付けたまま、朝の鍛錬を終え、身支度を整えてアシュリーの元へ向かう準備をする。
「きゃー! リオニダス様〜!!」
「今日も早朝からお疲れ様でした。あの、これ差し入れなのですが⋯⋯」
「ちょっと! 抜け駆けはナシですわよ」
そうそう、女性といえばこんなかんじだよね。
王都でもそうだったし、隣国でも辺境伯領でも同じだ。
きっとジェーンが特別まじめなのだろう。
「すまないが任務につく時間なので失礼するよ。キミ達もこれから仕事だろう?」
囲んできたメイドたちを優しく躱して任務に向かう。
本当に申し訳ないが、知らない者が作った食べ物を口にするわけにはいかない。これでも一応王族の端くれだしね。
それに、アシュリーに誤解されそうな行動は避けたい。
王都にいたときのオレとは違うのだ。
そう⋯⋯違う⋯⋯はずなのに。
ジェーンが汚れたものでも見るような目でこちらを見ている。何故だ。
「おはようございます、アシュリーお嬢様」
「おはよう、ジェーン」
「アシュリー、おはよう。今日はもしかして寝不足かい?」
「おはよう、リオ。どうして分かっちゃったの?」
「そりゃ愛の力かな」
「!?」
真っ赤になって顔を隠してるアシュリー。可愛い。
そんな反応を見せてくれるのが嬉しくて自分も照れてしまう。
あ、やばい。自分の耳も赤くなっている気がする⋯⋯落ち着け、オレ。冷静になれ。
「ごめん、ふざけすぎた。少し目元がむくんでいるから温かいタオルをもらってこようか?」
「ううん、大丈夫よ。今日は部屋でゆっくりするわ」
「⋯⋯お嬢様、何かありましたか?」
「トルナード殿下がもうすぐ近くを通るんですって。良かったら少し話をしないかと連絡が来たの。いろいろ考えていたら眠りにつくのが遅くなってしまったわ」
「オレのところには連絡ないけど?」
「私の所にいること分かっているもの。レオも一緒に来ると思っているわよ」
「どうだか」
殿下は現在、悪魔騒動で被害を受けた地域を精力的にまわっている。けれど、一方的に婚約破棄したことで辺境伯領の民からは恨まれている。たとえ洗脳されていたせいでもだ。それだけ辺境伯家はこの地で愛されており、その姫君であるアシュリーも大切にされている。精鋭揃いの辺境伯軍もピリピリしているのだからシャレにならない。
「殿下はこっちに来て大丈夫なのか」
「私もそれが心配で⋯⋯」
「お言葉ですがお嬢様、心配など必要ないのでは?」
「でも⋯⋯領民ともめたりしないかしら」
「いっそボコボコにされてしまえばいいのに」
「「それ、大問題ですよね!!?」
結局、殿下とは人目を避けるために近くの里山で会うことになった。
今日はお弁当と飲み物を持参し、ハイキングに行くと伝えて屋敷を出る。
アシュリーは馬のほうが早いと言って乗馬で行こうとしていたが、なんとか皆で説得して馬車で出発した。
良かった⋯⋯殿下も久しぶりにアシュリーと会うのに乗馬服では味気ないだろう。
着替えてきたワンピースは淡いライトイエローで、柔らかく風に揺れている。アシュリーの優しい雰囲気にとても似合っていて可愛らしい。
これなら殿下も惚れ直す⋯⋯いや、それは困るな。
乗馬服のままでも良かったかもしれない。
「リオ、アシュリー、久しぶりだね」
「殿下、ご無沙汰しております」
「お久しぶりです殿下。元気なお姿を拝見できて嬉しいですわ」
待ち合わせの丘にある大きな木の下で待っていると、殿下が護衛を5人ほど引き連れて来た。疲れは見えるものの、以前よりスッキリとした表情に見える。
殿下とアシュリーは木陰に敷いたシートに座り、ジェーンが入手くれた紅茶を飲んでいる。
オレも一緒にと誘われたが、本日は護衛の任務できているので丁重にお断りした。
「ローゼンドルフ領は長閑で気持ちの良いところだな」
「そう言っていただけると嬉しいですわ」
「弟が王位についたら私もここに住みたいものだ」
「それは流石に陛下が許さないのではなくて?」
「⋯⋯ちょっと言ってみただけだ」
くすくすと笑うアシュリー。
殿下はたぶん、結構本気で言ってると思うのだが⋯⋯まぁ、陛下は許さないだろうな。
護衛の任は殿下達から少し距離をおいた場所に立って辺りを警戒している。
殿下側には殿下の護衛が、アシュリー側にはオレとジェーン。
すると珍しくジェーンが話しかけてきた。
他の者には聞こえないような小さな声で、不敬とも取れるセリフをぶつけられる。
「リオニダス様は殿下とお嬢様が仲良くしていても平気なのですか?」
どう答えようか一瞬迷ったが、感情は表に出さずに淡々と答える。
「ふたりは元婚約者だし子供の頃から一緒だったんだ、仲が良いのは当然だろう」
「ですが、私は納得できません」
「悪魔の件がなければ婚約破棄は絶対になかった。そのくらい殿下はアシュリーのことを大切にしていたよ」
「⋯⋯リオニダス様はお嬢様のことを好いているのだと思っていました」
「そうだね。だから今ここにいる」
「では、なぜこの状況で平気なのですか。私は、お嬢様に求婚するのだと思っていました」
「彼女が望んでくれるならそうしたいけれど⋯⋯今はオレの存在が周りへの牽制になっていればそれでかまわない」
「それはお嬢様と両思いであれば婚約する意思があるということでしょうか?」
「キミは、オレのことが気に入らないのだと思っていたのだけど」
「ええ、気に入らなかったですよ。王都でお見かけした時の貴方は軽薄そのものでしたから」
「⋯⋯言い方!」
「でも、今は違うと分かっております」
「⋯⋯」
「今はお嬢様に真摯に向き合っていらっしゃいますし、王都での様子も演技だったのではと推測しております」
ーー存外によく見ているな。感が鋭い。
たしかに王都では少々軟派な男を装っていた。
アシュリーを忘れるために他の女性へ目を向けたかったし、王位継承問題に巻き込まれないようにするためでもあった。
⋯⋯結局はアシュリー以外の女性に惹かれることはなく、王位継承についても変化はなかったのだが。
「もしかしてトルナード殿下に遠慮しておられるのですか?」
ーー遠慮⋯⋯というよりは罪悪感なのかもしれない。
子供の頃、殿下の側近候補だったオレに嬉しそうに「婚約者が決まったんだ」と紹介してくれた殿下。殿下の婚約者だと分かっていたのに、いつからかオレの視線はアシュリーの姿を追いかけていた。
側近候補を辞退して騎士団入りしたのはふたりが一緒にいるのを見たくなかったからだ。
オレは逃げたのだ。
ところが、オレが殿下から離れて一年後、王妃様が亡くなられた。側妃が正妃として格上げされたが、慣れない公務と幼い第二王子にかかりきりで殿下とは交流を深める余裕もなかったと聞いている。母親を亡くした殿下が心から信頼できるのはアシュリーだけとなり、殿下は彼女に執着した。
幼馴染の殿下が一番つらかった時にオレは近くで支えてあげることができなかった。
それだけは今でも後悔している。
アシュリーのこともそうだ。真面目な彼女は自分の責務を果たそうと、殿下に尽くし頑張っていた。時々王城で彼女を見かけたが、いつも穏やかな笑顔で淑女の鏡と言われていた。今考えれば、自分のことなど後回しで必死に殿下を支えようとしていたのだろう。彼女はいつだって誰かのために頑張れる優しい人なのだ。
自分も大変だったろうに⋯⋯ふたりの力になれなかった自分に怒りを覚える。
そんなオレが求婚するなど許されるのだろうか。
けれどアシュリーのことを大切に思っていることは知っていて欲しい。
こうやって葛藤しているうちに数ヶ月も経ってしまった。
幼馴染のふたりと向き合う覚悟は、まだできていない。
「⋯⋯オレは三男だ。継ぐ爵位も領地もないのに辺境伯のお姫様に求婚なんてできないさ」
「逃げるのですか?」
オレは返事を返さなかった。
帰り際、殿下から封筒を渡された。
王家の紋章入りのやつである。
「陛下と大公殿下からだ。ちゃんと渡したからな、逃げるなよ」
ニヤリと口角を上げて手紙を指差す殿下。
逃げるなとは⋯⋯一体何の手紙だというのだ。
腰にある短剣で封を切り、そっと手紙を広げた。
ーーなるほど、そう来たか。
オレは封筒を懐にしまって溜息をつく。
いいかげん覚悟が必要だな。
日も落ちて任務交代の時間が近づいてきた。
殿下から手紙を受け取ってからずっと考えていた。
王家の紋章入りなのだからオレに拒否権はない。
『逃げるのですか?』
『逃げるなよ』
彼らの言葉が耳に残って離れない。
わかっている、するべき事はひとつだ。
「アシュリー、5分だけ時間をくれるかい」
部屋の外の警護はジェーンに任せ、アシュリーと話をするため室内に入れてもらう。
「悪魔騒動鎮圧の功績を評して侯爵位をいただくことになった」
「まぁ⋯⋯おめでとう! ずいぶんと報奨を弾んだのね」
「⋯⋯今度、王都で正式に授与式があるらしいが旧王都を領地として賜ることになる」
「そういうことね、たしかに侯爵以上でなければ不都合がありますものね」
「旧王都は王家直轄地だが父上が管理していた。悪魔はあの地を超えて山脈方面へ逃亡したというし、オレに見張れということなのだろう」
「そう⋯⋯行ってしまうのね。寂しくなるわ」
「⋯⋯そのことだが、アシュリー」
「?」
侯爵位を賜れば伴侶は必須だ。
片膝をついて覚悟を決める。
オレは、もう逃げない。
「一緒に来てくれないか。オレと結婚してほしい」
「⋯⋯リオ」
「錬金村から結界の魔道具を取り寄せるし、危険な目に合わせないと約束する」
「⋯⋯⋯⋯」
「この剣に誓って必ず幸せにするから」
緊張しながら手を差し出す。
心臓の音がうるさい。
「ずっと、オレの隣にいてほしいんだ」
「はい⋯⋯喜んでお引き受けします」
俺の手のひらにそっと乗せられたアシュリーの小さな手。
あたたかい。
緊張と恥ずかしさで彼女がどんな表情をしていたのか見逃してしまったけれど、オレはこれから、生涯を終えるまで、この温もりを守り続ける栄誉を得たのだと心が震えた。
「ありがとう」
目が潤みそうなのをこらえながら笑顔で気持ちを伝えると、アシュリーは照れくさそうに微笑んだ。
読んでいただきありがとうございます!
やっと結ばれたふたりですが、本当の意味での「両思い」はこれからな気がします。続きを書きたいと思っていますが短編と連載どちらにしようか悩み中⋯⋯結婚までにしようか新婚エピソードまで行こうか⋯⋯読んでくださた皆様の反応次第かも?
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☆リオ達は連載中の「精霊王子と漆黒の姫」に登場するサブキャラです。第四章ラストを迎えましたので、こちらもよろしくお願いします!
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