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第八話「雷鳴」

雷牙との模擬戦から一夜明け、“天”の屋敷には異様な緊張感が漂っていた。


 理由は一つ。

 雷の隊“頭”、凪矢との一騎打ち――それが正式に組まれたからだ。雷牙に勝ったとはいえ、相手は各隊の頂点に立つ“頭”。そんな人物と、たった二週間足らずの新人が模擬戦を行うなど、異例中の異例だった。


 「緊張してんのか?」


 朝支度を済ませ、少し強張った様子の慶太に声をかけたのは、彰真だった。

 台所で握ってきた握り飯を一つ、ぽんと慶太に投げ渡す。


 「……してるに決まってんだろ。だけど――それ以上に自分がどこまで強くなったのかどこまで通用するのか、少し楽しみなんだ…。」


 慶太は立ち上がり、幻刀を腰に差した。


 そんな慶太をみて彰真は安心したようには褒えむ。そして慶太に助言の言葉を送る。


 「慶太!目で見るんじゃない。感じろ」


 「…?なんだそれ?」


 「まぁ始まればわかるさ。とりあえず覚えとけよ」


 彰真は助言を伝え終えると満足そうに慶太を送り出した。慶太はどこか解せないまま。試合場に向かう




 * * *


 夕刻、外の試合場には既に隊士たちが集まり、静かな熱気が漂っていた。


 そこに立つのは凪矢。

 雷の羽織を揺らしながら、真っ直ぐに慶太を見据えていた。


 「君の“力”、確かに興味深い。だが、“虹”の看板を背負うなら、それ相応の強さを示せ」


 凪矢の声には驕りがない。ただひたすらに“実力”だけを見据えた者の静けさがあった。


 「行くぞ」


 合図の声と共に、凪矢が動いた。踏み込んだ瞬間地面が抉れると共に雷のような轟音が鳴り響く。気がつけば目の前に刀が振り下ろされていた。それを慶太はほぼ反射だけでギリギリ受け止める。


 「…っっっぐ!」


 雷牙のスピードが“鋭さ”なら、凪矢の動きは“重み”だった。

 速さだけではなく、一撃一撃に“質量”が宿っている。


 (やべぇ……今の受けれたのはまぐれだ。下手したら今のでおわってた。てか重っ!バケモンかよ!)


 受けた瞬間、慶太は体ごと押し返された。

 幻刀の軋む音と共に、何とか立て直す。


 (悪いが雷牙とはまるで違う……受けた手がビリビリと痺れて力が入らねぇ…。この人、まるで――)


 「“雷”、だろ?」


 凪矢が読み取ったように口にする。


 「よく塞いだね。でも次はどうかな?“雷幻戯・雷閃牙”!!」


 またも轟音が鳴り響く。次の瞬間、周囲の空気が弾け、稲妻のような斬撃が走った。凪矢は先程より更に早く目にも止まらぬ速度で慶太に迫る。


 その刹那、慶太の脳裏を一つの言葉が過る。それは今朝の彰真の助言


 「集中しろ、俺!!!!見るんじゃなく感じる……。咄嗟だったけどさっきは無意識にできたはずだ…。ここで止まってたまるかよ!」


 慶太の意思に呼応するように虹の光が身体中に溢れ刀に宿る。

 「みえたっ!!」


 一閃――火花が散り、雷と虹が交錯する。


 しかし――


 慶太の刀は弾き飛ばされ、体が宙に舞った。


 (……っぐ、マジかよ。この人、強ぇ……!)


「けいたっ!!!」


 翡翠の声が響きわたる。


「な、何が起こったの?!」

 動揺する翡翠に楸が説明する様に語る。


 「“雷幻戯・雷閃牙”凪矢の得意とする技だ。雷の幻気による身体強化と突進力を活かした縦向きの超高速抜刀術…。普通なら隙が多過ぎて実戦向きではない、けどあのスピードなら交わすことはほぼ不可能。そして仮に受けても…。」


 試合場は静寂に包まれる。


 地面に転がった慶太に、凪矢は一歩、二歩と歩み寄る。


 だが、そこに追撃はなかった。


 「終わりだ」


 その言葉と共に、試合は終了を告げられた。


 * * *


 試合後、慶太は肩で息をしながら、地面に手をついていた。その手は未だに攻撃の反動で震えている。


 悔しい。

 でも、それ以上に、震えるほど“凪矢”という存在に憧れていた。


 「強くなりてぇ……本気で、そう思った」


 その呟きに、凪矢が近づく。


 「……良くあの技を受けたな。だけど虹の力に溺れるなよ。お前は“可能性”を持ってる。ただそれは、同時に“責任”でもあるんだ。」


 凪矢は、慶太手を引き起き上がらせてるとふっと柔らかく笑った。


 「でも流石だな。あの楸さんが目をかけるだけのことはある。……本当に羨ましいよ。」


 「羨ましい…?こんな凄い人が?」



 場の端から楸がひょっこり顔を出す。

 冗談めかして笑いながらも、その目は真剣だった。


 「どうだ!凪矢、俺の慶太はすげぇだろ? 筋がいいんだよ、ほんとにぃ!」



   

 「……ええ、本当に。でもそうでなくては困りますよ。ではまた…。」


 そう言って、凪矢は道場を後にする。


 その背中を見送りながら、慶太は拳を強く握った。


 (強くなろう。もっと、もっと――)


──続く。

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