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第五話「光の理由」

夜が明け、洛北の村には静かな朝が訪れていた。

 慶太と彰真が妖怪を討ったという噂は、すぐに村中に広がった。


 「ありがとうございました……! 本当に助かりました!」


 妖怪の仕業で行方をくらませていた子どもが両親と無事再会し共に、慶太に駆け寄る。

 それに続いて、村人たちが深く頭を下げた。


 「ここ最近、ろくに眠れず……毎晩、恐ろしかった。お二人が来てくれて、本当に……」


 慶太は戸惑いながらも、頭を下げ返した。

 どこか自分の育った町を思い出す。


 (ああ……こういうことか)


 剣を振るう理由。誰かを救うという実感。

 翡翠を守れなかった悔しさ。あの時と違う未来を――今、自分の手で作る。


 「……俺、もっと強くなりてぇな」

 小さく呟いたその言葉に、彰真がにやりと笑う。


 「言ったろ? 焦らず、着実にな。お前には伸びしろしかねぇんだからさ」


 * * *


 屋敷に戻ると、翡翠はすでに目を覚ましていた。


 「……けいた? 慶太! おかえり!」


 「ひすい! よかった、無事で……」


 安堵とともに言葉が漏れる。

 翡翠は、夢のような意識の中で、何かを感じていた。


 「私……あの時、慶太の“光”を見たの。すごく綺麗で、あたたかくて……どこか懐かしくて…。」


 ふと、奥をみると楸が壁にもたれて立っていた。

 「俺が任務から戻った頃に目を覚ましたんだ。翡翠ちゃんには粗方、俺のほうから事情は話しておいた」


 「……よかった。ほんとによかった……」


 慶太は翡翠をそっと抱きしめた。


 * * *


 翌朝、慶太と翡翠は楸に呼ばれ、屋敷の一室へ案内された。

 そこには既に彰真も控えていた。


 「よく来てくれた。そして慶太、初任務おつかれさん。今日は改めて、“天”のことと、お前の父――神谷蒼太について話しておこうと思う」


 楸は床に膝をつき、正面から二人を見据える。


 「“天”は七つの部隊――晴、雨、雲、雷、嵐、雪、そして“虹”で構成されている。

 各部隊は4人編成。役職は“頭”“伴”“牙”“影”。頭は隊の指揮を執る者、伴はそれを支える参謀。

 牙は前衛、戦の矛となり、影は後方支援や情報収集、治癒など補佐全般を担う」


 慶太は黙って頷いた。


 「そして、今お前たちが所属している“虹”の隊……その前身は、“星”の隊だった」


 「星……?」


 楸の表情がわずかに陰る。


 「ああ。“星”は、かつて存在した強力な部隊だった。特に幻気の扱いに優れ、境界線――つまりこの世界と妖の世界を繋ぐ“結界”の管理を担っていた。

 その星の“頭”を務めていたのが――俺の師でお前の父、神谷蒼太だ」


 「……親父が、隊を……」


 「そして、当時の星の“牙”が俺、“影”が彰真。

 “伴”だったのが――たちばな かえで。蒼太さんと楓さんは、ある任務を境に命を落とした。

 そして結果的に適性者の少ない星の隊は事実上の解散になったんだ」


 彰真が続けるように語る。


 「だけど、その後も妖の脅威は日に日に増していった。――“百鬼夜行”の兆しが見え始めたんだ。」


 「百鬼夜行……?」


 慶太の眉が動いた。


 「ああ。百鬼夜行とは、妖の世界がこちらの世界へと溢れ出す、いわば“境界の崩壊”だ。

 その中心にいるのが――妖王・ぬらりひょん。あいつが境界を壊し、現世を支配しようとしている」


 楸が言葉を継ぐ。


 「そんな中で語られたのが、“伝説の幻気”――“虹”の存在だ。

 七つの属性すべての要素を内包し、どれにも染まらず、全てを調和し制する“特異点”。」


 「つまり、俺の中にある“虹”の気が……」


 「まだ完全な解明はされていない。だが、虹の使い手は“鍵”になる。

 百鬼夜行を止める“鍵”だ。少なくとも、そう信じて――

 俺たちは“虹の隊”として動き始めた。そして、ようやくお前に出会った」


 慶太は拳を握りしめる。


 「……なら俺がやる。もう迷わない。もっと強くなって、戦う。誰も死なせたくないから」


 楸がゆっくりと立ち上がる。


 「その意気だ。次の任務は――“模擬戦”だ。今日から二週間、みっちり実践と訓練を重ねて他の隊との模擬戦で、実力を試してもらう」


 「望むところだ。」


 楸がにっと笑った。


 「よし、それでこそ蒼太さんの息子だ

 ――明日から叩き直す。覚悟しておけよ!」



──続く。

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