第六話「最強と団子と覚悟」
夏の陽がまだ残る昼下がり。
洛外の山道を、慶太と楸が並んで歩いていた。
「なぁ慶太ぁ、この前、一人で妖怪倒したんだって?すげぇな!」
不意に声をかけられ、慶太は少し照れながら頷く。
「ま、なんとか……」
「でもな、妖怪には“格”があるのは知ってるか?」
そう言って楸は指を一本立てる。
「慶太がこの前倒した引き妖…いわるゆ河童はD級(小妖級)レベルだ。その上に更にC級(中妖級)、B級(強妖級)、A級(大禍級)、S級(災厄級)、そんでてっぺんが全ての元凶で“妖王”ぬらりひょんだ。上に行くほど理不尽さが増す。まぁ今は会わないのが一番だな」
「そんなにやばいのかよ……」
慶太が眉をひそめたそのとき、楸が急に立ち止まった。
「お?あれ団子屋じゃねぇか? 寄ってくか」
道端にぽつんと構える小さな茶店が、香ばしい香りを漂わせている。
「任務中じゃ……」
「腹が減っては妖も斬れんってゆうだろ? 慶太の分も買ってきてやるから、そこで待ってろーー!」
そう言い残し、軽やかに駆けていく楸。
慶太は呆れたようにため息をついた。
「……ほんと、自由人だよな」
そのとき――
「きゃああああああっ!!」
茶店の奥、林の方から悲鳴が上がった。
慶太は即座に駆け出す。
そこにいたのは、巨大な異形の妖怪。ねばつく触手、うねる瞳。明らかにこの前の河童の比じゃない雰囲気…強妖級以上――A級の気配。
「くそっ……!」
慶太は即座に幻刀を抜いて立ち向かう。
だが、斬撃は浅く、触手の一撃で地面を転がる。
「うっ……でも、俺が守らなきゃ……!」
慶太の脳裏には村で犠牲になった子供が過ぎる。女性を庇いながら、何度も立ち上がる。
その姿は不格好でも、目には決して諦めの色はなかった。
そして、妖怪が跳びかかろうとしたその瞬間。
「またしたな慶太!」
声とともに蒼い閃光が走る。
―― 一閃。
妖怪の体は斜めに断たれ、崩れ落ちた。
「“星幻戯・双閃斬”………ったく団子ぐらいゆっくり食わせてくれよ。」
団子の串を咥えながら、楸が歩いてくる。
「……楸さん!」
「ったく、待ってろっつったのに……でも、よくやった」
楸は剣を納め、慶太の肩をぽんと叩く。
「自分の力の限界を知るのも、大事な戦い方の一つだ。けどな――」
楸はふっと笑い、手にした団子を一本差し出す。
「命を懸けて誰かを守ろうとしたその心意気は、もう一人前だよ」
団子を受け取りながら、慶太は静かに誓った。
「……次は、ちゃんと倒してみせます」
その言葉に楸が満足そうにうなずく。
「なら、次の模擬戦で見せてみろよ、慶太!」
空は青く、団子の香りが優しく風に流れていた。
――続く。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
第四話では、主人公・慶太がついに初任務へ。まだ未熟な中でも、彼なりに“守る”という覚悟を見せてくれました。
そして、星の隊の過去や幻刀の設定など、物語の世界が少しずつ広がってきたのを感じていただけたら嬉しいです。
今後は、仲間とのぶつかり合いや、迫りくる強敵との対峙など、より一層熱く切なくなっていきます。
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次回もどうぞ、お楽しみに。