第四話「初陣」
京の北、山深くにひっそりと構える屋敷。そこが妖怪討伐を担う組織――“天”の本拠地だった。
広い中庭では剣を振るう者、幻気を纏い訓練に励む者が行き交っている。木の葉が揺れるたびに、目に見えぬ“気”の気配がそこかしこに漂っていた。
「……すげぇな、これが“天”……」
慶太は息を呑んだ。重厚な梁、敷き詰められた畳、そして目に見えぬ緊張感。それは今まで暮らしていた下町とは、まるで別の世界だった。
隣を歩く彰真が、にっと笑う。
「驚くのも無理はない。ここにいる奴らは、みんな一線級だ。慣れるまで時間がかかるだろうが、まっ、焦らずにな」
案内された奥の部屋には、一足先に帰還していた楸の姿があった。すでに外出の装束を纏っていた彼は、慶太を見てにやりと笑う。
「よう、慶太。来たか! さっそくだがお前には初任務についてもらう。妖怪退治だ!幻気の扱いは実戦でこそ身につく」
「妖怪?!」
「そうだ!お前もみたろ?おまえの町で暴れてたやつ様子がおかしかっただろ。あれな妖怪の仕業だ。まぁ行けば大体わかるよ」
「本当にいきなりだなぁ……。だけど早速アンタから技盗んで、強くなってやる!」
「それなんだけどな……すまん。今日は同行できねぇ。急な別件が入ってな」
「え、……!? マジかよ……」
「まぁ安心しろ。その代わり、彰真に同行してもらう。なっ、彰真」
彰真が大げさに肩をすくめる。
「ま、任せときな。初任務なんだ、ちゃんと見てやるよ」
「……わかった。たの…お願いします。」
楸は包みから一本の刀を取り出し、慶太に渡す。その鍔には五芒星を模した装飾が光っていた。
「そうだそうだ。慶太。これ、持っていけ。お前の親父さんの幻刀だ。」
「親父の……刀……」
慶太は刀を受け取る。その重みと共に、胸の奥に何か熱いものが宿った気がした。
* * *
任務地は、洛北の小さな村だった。最近、川辺で子どもが消えるという事件が相次いでいた。
「僅かに妖気を感じる……妖怪の仕業だな、まず間違いない。妖怪は人に取り憑き人の魂を喰いその形を現世に顕現させる。つまり妖気として感じるということは既に顕現しちまってる可能性があるってことだ。いそがねぇと手遅れになる。」
彰真は村人たちに聞き込みをする。どうやら少年や少女を中心に川辺で遊んでいた行方不明者が続出しているようだ。彰真はそれ聞き夜の川辺に慶太を連れて行った。
「なんでわざわざ夜なんだよ?」
「すぐにわかるさ…。ほらみてみろ」
彰真が視線を誘導きた先には何やら人形の子供のような何かがいた。
「ん?こんなか時間に子供か?…いや、違うあれって!」
「来るぞ、構えとけ」
闇に紛れて現れたのは、水かきのある手足、皿のような頭。小柄な体を素早く動かし、水をはねさせながら笑っていた。その口には何やら人の手のようなものを咥えている
「カッパ……!しかもあれって!」
「見た目に騙されるな。アイツは人を水に引きずり込み喰らう妖“引き妖”だ」
慶太が一歩前に出て、幻刀を構える。
「いくぞ……!」
小さな体からは想像できないスピードで河童が飛びかかってくる。水飛沫が夜気を切り裂いた。
(当てる……!)
慶太の一閃が、河童の体をかすめる――だが、その刀には刃がなかった。
「!? なぜ……」
「安心しろ。それが“幻刀”ってやつだ。刀身に力を灯すつもりで込めるんだ。」
彰真の声が飛ぶ。
慶太が再び気を込め、次の一撃。刀身に、虹の光がわずかに灯る。
「今だっ!」
その一撃が、河童の腹を正面から貫いた。悲鳴とともに水煙が弾け、妖は霧散した。
「やるな、慶太。初陣にしちゃ上出来だ」
「……まだ、全然だけど。でも、倒せた……」
彰真は笑い、慶太の肩をぽんと叩いた――その時だった。
「下がれ、まだいる!」
彰真が足元に瞬時に紋を描く。幻刀を地に突き立て、媒介とすると術陣が光を帯びて広がっていく。そして彰真は歌うように何かを口ずさむ。
「星ひとつ、闇夜に弾けろ――幻戯・爆ぜ星!」
突如として飛び出してきた二体目の妖――長い腕の別種の河童が術陣に捕らえられ、爆ぜる星のごとき閃光に包まれた。
「大丈夫か?念のため、二匹目に備えてた。引き妖はペアで動くことがあるからな」
「……すげぇ……」
慶太は呆然としながらも、彰真の幻刀を通した術――星の幻戯の輝きをしっかりと目に焼き付けていた。
──続く。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
第四話では、いよいよ主人公・慶太の“初任務”が描かれました。まだまだ未熟な彼ですが、仲間たちとの出会いを経て、少しずつ“戦う意味”に向き合い始めています。
今回は模擬戦に向けての助走のような回でもあり、雷の隊のメンバーや“幻刀”の設定など、世界観も少しずつ広がってきました。彰真の術や、妖怪との戦闘描写も含めて、次第に「戦い」のリアリティが増してくる展開をお楽しみいただけたら嬉しいです。
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執筆のモチベーションにも直結するので……何卒!
次回もどうぞ、お楽しみに。