病弱令嬢に物申す〜邪魔してすいませんが、どうしても教えて欲しいんです〜
卒業式の会場で、王太子殿下が婚約破棄を婚約者である公爵令嬢に突きつけていた。
破棄の理由は公爵令嬢が病弱な妹を長年虐げてきたからだという。
その妹は王太子殿下とその取り巻き達に守られるように囲まれながら小型犬のようにぷるぷると震えている。
そんな断罪劇を目撃していた私は、どうしてもどうしても気になる事があって黙っていることが出来なかった。
学園の卒業パーティー、目眩がするほどキラキラと金色に輝くシャンデリアの下で、シャンデリアよりも更に輝く集団が会場のど真ん中で騒いでいる。
いつもならそんな騒がしい所になんて近づきもしないのだが、飛び交う言葉の中にどうしても気になる単語が聞こえてきて、フラフラと引き寄せられるように足が向ってしまった。
綺羅びやかな集団の中心でも特に豪奢な赤い衣服を纏った銀髪の男性が、皆の注目を一身に浴びながら目に優しい茶色の衣装の金髪の女性に婚約破棄を突きつけていた。
豪奢な衣装の男性はこの国の王太子で、目に優しい衣装の女性はその王太子の婚約者の公爵令嬢だ。
うーん、婚約破棄を言い渡されているので元婚約者になるのかしら?
その王太子の腕には、ピカピカと光を放つダイヤモンドが星のように縫い散りばめられたヒラヒラフリフリのドギツいピンクのドレスに身を包んだ小柄で栗毛色の髪の令嬢がぶら下がっている。
その後ろには宰相や騎士団長等の国の中枢を司る方々のご子息が、鮮やかな青、黄、緑、紫の衣装を身に着けて彼女を守るようにカラフルに取り囲んでいる。
「観念しろフランチェスカ!お前が実の妹である病弱なブリアンナを、陰で虐げてきた悪行はすべて明白だ!」
赤い服の王太子があらん限りの声を張り上げて叫ぶ。
「な、何のことでしょうか?ブリアンナに対する悪行とは一体?」
茶色の元婚約者の公爵令嬢がまったく身に覚えがないというように目を白黒させて答える。
「なんて白々しい女でしょうね。ブリアンナ嬢が病床でありながら何年もかけて書き上げた論文を、あなたが搾取して自分の物としてアカデミーに提出した事はバレているんですよ!
あなた名義の論文を見た時は驚きましたよ。ブリアンナ嬢との毎日の手紙のやり取りで聞いていた内容とそっくり同じだったんですから。
証拠としてその手紙は持ってきてあります。
本当にバレないとでも思ったんです?その頭の中には黄色の藁でも詰まっているのですか?
ハッ、浅はかですね!」
青い服の将来は未来の宰相だと噂される宰相の息子が馬鹿にしたように言い放つ。
「ソレだけじゃないよね〜!病弱なブリアンナが領地で療養していたのを、本当は素行が悪くて領地で謹慎させられてるなんて真っ赤な嘘を取り巻き達に話したそうじゃない?
素行が悪いって自分の事じゃないの?
調べたらブリアンナの名前を名乗る金髪の女が、いかがわしいパーティーに参加してたみたいだけど、おかしいよね?
ブリアンナの髪の毛は綺麗な栗毛色だもんね。アンタみたいなケバい金髪じゃない。
それでそのブリアンナを名乗る女のベッドの相手をしたっていう男が見つかってね。
問い詰めたら『わたしの本当の名前はフランチェスカなの、でもこの事は内緒よ!』ってその女が言ってたって真っ青になって白状したよ。
だいたい、ボクはその頃、学校を休んでるブリアンナの為に毎日プリントを届けていたけど、ベッドの上で『皆に会えなくて寂しい。早く元気になって皆に会いたい』って大きな空色の瞳を涙でいっぱいにして泣いていたんだ!
それなのにブリアンナの名前を騙っておとしめようとするなんて、あんた最低だね〜」
黄色の服の稀代の天才魔術師で飛び級で入学したエリート少年が嫌味ったらしい話し方をする。
「ああ本当に悪辣な女だな!お前が嘴が黄色い手下共を引き連れて、ピーチクパーチクとブリアンナに難癖つけてたのもしってるぜ!
『殿下に話しかけるなだの、身の程を知れだの、アクセサリーを外せだの』そんなふうに詰め寄る場面に何度も遭遇したからな!
水をかぶせていたのも知っているぞ!俺がブリアンナの悲鳴を聞いて駆けつけた時にはお前の姿はもうなかったが、可哀想にブリアンナはずぶ濡れで唇を紫色にしてガタガタと震えていたんだ!
病弱なブリアンナは水なんてかけられたせいで体調を崩して次の日は学校を休んだんだ。病弱な実の妹によくもそんな冷酷な仕打ちが出来るな!
それでも赤い血が流れている人間か!?」
緑の服の騎士団長の息子であり既に自身も騎士として活躍する男が、軽蔑するように言葉を吐き捨てる。
「それに君、僕たちがブリアンナちゃんの為に用意していたアクセサリーや宝石を、『お前は病弱でパーティーになんて出ないんだから要らないでしょ』って言ってブリアンナちゃんから取り上げたでしょ?
ティアラに首飾りに腕輪に指輪からドレスまで全部。
宝飾品がなくなればブリアンナちゃんに勝てるとでも思った?
それでブリアンナちゃんが卒業パーティーに出られなくなれば王太子殿下にパートナーとして選んでもらえるとでも思ったのかな?
女の子の嫉妬って本当に怖いよねぇ。
でも残念、僕らがもっと素敵なものをブリアンナちゃんにもう一度プレゼントしたからね。
ほらご覧よ、僕らが贈った宝石や薔薇色のドレスを身に纏ったブリアンナちゃんの美しさを。
いい加減白旗をあげて降参したら?」
紫の服の大富豪の息子で学校一のプレイボーイである男がねっとりとした色気のある声で語りかける。
赤の王太子を筆頭に、青、黄、緑、紫のカラフルズ達が次々と茶色の公爵令嬢を糾弾していく。
『知らない、そんな事知らない』と今にも倒れそうな土気色の顔でふるふると首をふる元婚約者の茶色の公爵令嬢。
もう面倒なので色だけでいいかしら?
ビシッと効果音が鳴りそうなポーズで赤が茶色に叫ぶ。
「最早言い逃れは出来んぞ!!!この国の王太子として命ずる!!
フランチェスカ!これより公爵令嬢の身分を剥奪し、国外………」
私はそこで、その色とりどり集団に向かい、我慢出来ずに飛び出した。
「まって!まって、まって!す、すいません、すいません、ひ、ひとつ、ひとつだけ質問させて下さいませ〜。」
「な、なんだ!誰だお前…………は?」
良いところを邪魔されて不機嫌そうに振り向いた赤が驚きでポカンと口をあけて動きを静止させる。
他のカラフルズ達も同じ様に呆気にとられた顔でこちらを見ている。
どピンクと茶色なんて顔を真っ青にしている。
驚かせてすいません、とは思うものの好奇心が抑えきれずガラガラと相棒を引きながらヨタヨタと進み出た。
「な、なんだその格好は………いや、それより、その、大丈夫なの…か?」
「だ、大丈夫でこざいます。ふー、ふー、い、いつものことなので、ぜー、ぜー、ご心配なさらずに…ひー、ふー。」
ふーふー、ぜーぜーと息をはずませながら答える私は、飾りが全くついていないクリーム色のシンプルなドレスに真紅の血を口から滴らせながら相棒の酸素ボンベをひきつれ冷や汗が流れる真っ青な顔色でどピンクの前に立った。
「ヒイッ!」
どピンクが恐怖で顔を強張らせて後ずさる。
わたしは酸素ボンベからシュコーと酸素を吸ってどうしても聞きたい質問をした。
「お、お願いします。どうして、どうして病弱なのにそんなに元気なのか、教えて下さいませ!ゲホッ!!」
気持ちが焦って勢いよく喋ってしまった反動でゲホッとした瞬間コボッと口から血が飛びだし、どピンクの顔にビシャッとはねた。
「ぎゃーーーーーーーーーーーー!!!!」
どピンクが会場中に響き渡るような声で絶叫する。
「な、なにを言っている、いや、それよりもお前は病院へ行け!!」
赤いのが焦った声で怒鳴る。
「ああ、ああ、なんて大きな声!どうやったらそんな腹式を使った声が出せるのですか?」
力尽きてきてヘナヘナと床に倒れ込みそうになったので、どピンクに手を伸ばし掴もうとする。
「ヒイイイイイイイ!!」
ズサッとどピンクが素早く後ろに飛び退いた。
「な、なんなんですかあなたは!ひっ、白眼をむかないで!怖い!」
「ちょっ、なんなのホラー?えっこれ死ぬ?救急車呼ぶ?」
「おい!しっかりしろ!俺の声が聞こえるか?」
「君、ホントに大丈夫?いや……どう見ても大丈夫には見えないけど…。」
青、黄、緑、紫がそれぞれなんか喋っているがそれどころではない。
今ここで聞かなければ後悔する。飛びかけた意識を引き戻しカッと目を見開く。
「ぎゃー!なんなのよコイツ!!誰か、誰かコイツをつまみ出してよ!」
「お、落ち着くんだブリアンナ!」
スッと白いハンカチとお水が差し出される。茶色が顔を真っ青にしながらも心配そうな声で声をかけてくれた。
うん、貴方だけはちゃんと茶色の令嬢と呼びますわ。
「あの、とりあえずこちらを………。お話でしたらお伺いしますので、落ち着かれて下さい」
先程まで自分が糾弾されていたというのに、なんて優しい!感動してしまう。
「ふー、ふー、ありがとうございます。つい興奮して喀血してしまいましたわ。
どピンク様の病弱とは思えないエピソードの数々にいても立ってもいられなくてつい割り込んでしまいました。」
「どピンク様ってなによ!私の名前はブリアンナよ!」
どピンクが真っ赤になって怒っているが、そんな事はどうでもいい。私が知りたいのはそれじゃない。
「興奮して喀血って………いや、病弱と思えないエピソードとはなんだ?
……それとなんで目をつぶりながら喋っている?」
赤いのが私に聞いてくるので、仕方なく目をつぶりながらそちらを向く。
「ああ、すいません。皆様があまりにも(チカチカして)きらびやかで(目眩がして)眩しいものですから………」
遠くから見ていても目がショボショボして疲れるのに、近くで見ると更に強烈で色に酔って吐きそうだ。
「あ、あら、そう?」
「う、うむ、まぁそれならば仕方ないな」
どピンクと、赤いのが何故か気を良くしたしたように声をあげる。
私なにか喜ばすようなこと言ったかしら?
「ふんっ、まあいい。聞くだけ聞いてやろう。病弱とは思えぬエピソードとは何だ?これ以上おかしな事を言うようなら処罰するからそのつもりで答えろよ」
赤いのが高圧的にふんっと鼻を鳴らした。あら、鼻詰まりかしら?
酸素ボンベで シュコー シュコーと酸素を吸い、息を整えてから話す。
「……失礼いたしました落ち着きました。そうですわね、まずは書き上げた論文ですが…」
「論文についてなにか異論が…?」
青いのがこめかみをピクリとさせ、神経質そうな声で聞いてくる。
「いいえ、論文そのものに何か異論があるわけではありませんが、論文と言うものは普通何枚も書くものでしょう?」
「ああ、そうだ。ブリアンナ嬢の論文は全部で200ページにも及ぶ大作だ!緻密な下調べに、裏打ちされたデータ、既存の常識をくつがえす斬新で熟考されたまさに完璧な論文だ!」
青いのがまるで自分の事のように自慢気に話す。
「まあ!素晴らしいですわ。だからこそ知りたいのです!
ご覧の通り私も病弱でベッドに横たわる日々が多いのですが、どうやって論文などと言う労力のかかる偉業を成し遂げることが出来たのだろうかと不思議に思いまして。
何年もベッドにいなければならなかったと言うことは、どピンク様も相当お体が悪かったということなのでしょう?
お恥ずかしながら私などはお手紙を一枚書くのもいっぱいいっぱいで…手も震えてしまい、とても見せられない字になってしまいます。それにとても毎日書くなんて出来ませんの。月に一度書ければ良い方ですわ」
「えっ?」
青いのが素っ頓狂な声をあげる。
「びょ、病弱って言っても、あ、あんたみたいに死にかけてた訳じゃないわよ!
ちょっと熱が続くとか、咳がでるとか、その程度よ!ろ、論文は調子がいい時にちょこちょこ書いていたのよ!」
どピンクが焦ったような声でまくし立てる。
「でも毎日お手紙に論文の事を書いていらしたのでしょ?
それに先程のお話ですと論文は200ページにも及ぶ大作で、緻密な下調べに裏打ちされたデータなのですよね?
調子の宜しい時にちょこちょこっと調べるだけで書けるものなのですか?
既存の常識をくつがえす斬新で熟考された論文なのですよね?
それを熱と咳がひいた調子が良い時にちょこちょこっと?
素晴らしいです!どピンク様!どうやったらそんな人外とも言える離れ業をやってのけられるのか是非!私に教えて下さいませ!ケホッ」
「そ、それは………」
どピンクが黙り込んでしまった。どうしたのかしら?
企業秘密みたいな感じで教えることは出来ないのかしら?
シュコー シュコー また興奮して苦しくなってきたので、もう一度酸素を吸って息を整える。
「すー、はー、それと黄色の方がプリントを届けに毎日会いに行っていたお話ですけども……」
「な、なんだよ!なんか文句でもあんのか?」
黄色のが顔をしかめてこちらを見る。
「いいえ、毎日プリントを届けるなんて、とっても親切だと思いますわ。
ただ、よく毎日会えたなと思いまして…」
「ど、どういう事だよ」
「だって学校をお休みしているって事は具合いが悪いってことですわよね?
そんな状態なのに毎日会って毎日お喋りされていたのですよね?
私などは調子が悪い時は人に会うのも辛くて、お見舞いに来てくださった方がいても会えずに帰って頂くことの方が多いのです。
毎日毎日、黄色の方がいらしている時間だけ調子がよくなるなんてことはないでしょうから、具合いが悪くともさぞかしご無理をして会っておられたんじゃないかと思いまして…。それに…」
「ま、まだ何かあるのかよ?」
あら、黄色いのがなんだか涙目ですわ。花粉症かしら?
「その…少々お聞きするのはためらわれるのですが、臭いはどうしていたのか知りたくて」
「はっ?!どう言う意味よ!!!」
どピンクがギョッとした顔で聞いてくる。
「だって、病弱な貴女ならお分かりかと思いますけど…具合が悪くなるとお風呂に入れない日が何日も続きますでしょ?
体は拭くことくらい出来るかもしれませんけど、頭は……。
臭いやフケといった問題をどのようにクリアしていらしたのですか?
正直、夏場でしたら無臭でいることは不可能でしょう?
鼻がつまっていてご自身では気づかれなかったのですか?
ハッ!もしや、黄色の方は毎日臭いに我慢されて気づかないフリをされていたのですか?」
「な、な、な、………」
どピンク様がわなわなと震え出したわ。
大変、具合悪くなってきたのかしら?
「あとは緑の方が」
「ぐっ、今度は俺か!?」
緑のがおよび腰で身構える。
「悲鳴が聞こえて駆けつけたら、どピンク様が水をかけられて唇が紫色になっていたとおっしゃってましたよね?」
「ああそうだ!それがどうしたんだ!」
「唇が紫色になると言うことは、どピンク様は何度も水をかけられていて、唇が紫色になるまで、その間甘んじてじっと耐えていらしたということですよね?
病弱でいらっしゃるのに何故そのような苦行を?
体を鍛えようとなさっていたのですか?
老婆心ながら、それは自殺行為に等しいのでオススメいたしませんわ。
あっ!でも世の中にはいじめられて嬉しいと感じる方もいるとお聞きしますからもしかしてご令嬢がたの黄色い難癖とやらも喜んで聞いて………」
「違うわよ!!!!」
どピンクがイライラとキレ気味に叫んでいる。カルシウム不足かしら?
「まあ、それは失礼いたしました。ですが紫色になるまで水をかけられて熱を出してもたった1日で復活なさるなんて、さすがどピンク様ですわ!
私でしたら少なくとも一週間は生死の境を彷徨っているところですもの。
その驚異の回復力はどうやったら手に入るのでしょうか?ひー、ふー」
あらどうしたのでしょう緑の、燃え尽きたような表情ですわねぇ。
見かけによらず体力がないのかもしれませんね。
予備の栄養ドリンク差し上げようかしら?
「それと紫の方」
「はぁ、参ったな、僕もかい?」
紫のは口の端を引きつらせている。
「どピンク様に、ティアラに首飾りに腕輪に指輪からドレス、そして今日どピンク様がお召しになられている宝飾品とドレスも贈られたとおっしゃってましたよね?」
「そうだね、僕らがブリアンナちゃんにプレゼントしたものだけど、何かおかしな所でもあるのかな?」
「いいえ、私には(目がチカチカして)とても身に着けられない豪華で(目眩がしそうな)煌びやかなお品ですわ」
「あ、ああ、そうだろう?」
紫がホッとした顔をする。
「ですが………」
「やっぱりなんかあるんだ………」
紫のがガッカリした顔をする。
気分が上がったり下がったり激しいですわねぇ。
躁鬱病なのでしょうか?
体力も無くなってきたので、紫は放っておいて話を続けましょう。
「殿方にはわからないのかもしれませんが、宝飾品というものはとても重いのですわ。
たとえばティアラに首飾りに腕輪に指輪をつけて更に宝石やフリルがたっぷりあしらわれたドレス、今どピンク様のお召しのドレスでしたら総重量は軽く20kgを超えますのよ」
ザワリとした会場の視線がどピンクに集まる。
「病弱でベッドに寝たきりだったことが多いと聞いたどピンク様が先程から軽々と重そうなドレスを身に纏われているのが不思議です。
私も素敵なドレスを着たいとは思いますけど、とても体が重みに耐えられなくていつもこのようなシンプルなドレスになってしまいますの。
首飾りなど肩がこってしまい、ティアラなんて頭が重くて首がもげそうになりますわ。
しかも、先程私から飛び退きました時にピンヒールを履いてらっしゃるのが見えましたわ。
ピンヒールなんて履くだけでもグラグラして、弱った足腰では立っていることもままなりませんのに、20kg超えのドレスを纏っての更にあの素早い動き!
恐ろしい程の神業でこざいますわ!
病弱なのになぜそんなにも強く!たくましく!お元気なのか!
どうぞ私にご伝授下さいませ!!ゲホッ!!」
つい興奮してゲホッ ゲホッとむせてしまう。
茶色の令嬢が背中を撫でてくれる。本当お優しいですわね。
最後にもう一つ、コレだけは聞いておかなければ…。
「ふー、ふー!どピンク様…もうひとつだけ、最後にもうひとつだけ教えていただけないでしょうか?はー、はー」
「なんなのよ!なんなのよアンタ!やめてよ!やめてよ!やめてよ!!!」
どピンク様が真っ青な顔でガタガタ震えている。
どうなさったのかしら?そんなに怯えた顔をして。
私はただ知りたいだけですのに。
「どピンク様は、本当に病弱なのでしょうか?」
そう、それが違えば話はまったく違ってしまうわ。
ここはしっかり確認しなければなりません!
教えてという気持ちを込めて、口端から血を滴らせながらニッコリと微笑えむ。
「イヤーーー!!こんなの違う!!わたしは病弱なのよ!!病弱なのよ!!で、殿下、み、皆、わ、わたしを信じてぇー!!信じてぇー!!!」
絶叫のような金切り声をあげて泣き叫ぶどピンク。
あら本当に、お元気ですわ。
病弱というのは違ったのでしょうか?
会場の冷たい視線がどピンクとカラフルズ達に突き刺さる。
「…………………………もう、よい」
途中から顔色を真っ白にして表情をなくしていた赤がボソリとつぶやいた。
「皆、騒がせてすまなかった……。我々はもう去る」
「で、殿下…?殿下…そんな…」
どピンクにくるりと背を向け去っていく。
「で、殿下…まって………まって下さい」
どピンクが追いかけていく。
他のカラフルズ達も深々と頭を下げてから赤いのに続く。
皆沈痛な面持ちだ。
急にどうしたのかしら?頭痛かしら?えっ、結局教えて貰えないの?
こんなに頑張って喋ったのに!!
くらくらする頭でカラフルズを目で追う。
出口で赤いのがふりかえり、茶色の令嬢に声をかけた。
「フランチェスカ……………すまなかった」
「………………………」
茶色の令嬢は俯いて何も答えなかった。
その後については詳しくは分からない。
病弱になってしまった王太子が廃位されたとか
あの病弱などピンクが病気で修道院に入ったとか
それぞれ何らかの病気で表舞台からいなくなったとか
そんな事にはまったく興味はない。
だって私はもう元気になったから……。
あれから、あの茶色の令嬢と仲良くなった。
茶色の令嬢は四方八方から高価な薬を沢山取り寄せて高名なお医者様にも紹介してくれた。
私の体はおかげでメキメキと元気になって、今は彼女とお茶会中だ。
「貴女は命の恩人よ。貴女のおかげで私は薔薇色の人生を取り戻せたの!」
そう言って、ほっぺたを桃色に染める彼女こそ私の恩人である。
茶色ではなく、綺麗なオレンジ色のワンピースを着ている今日の彼女。
お月様の淡い光のように優しい金髪がとても良く合っている。
カラフルズの誰かがケバい金髪とか言っていたような気がしたが、
彼等は目が病気だったのかもしれない。
本当にお似合いなので、今日からオレンジ色の令嬢と呼びましょう。
『オレンジ色の令嬢がこれからも病弱とは無関係の薔薇色の未来を歩んで行けますように!』
キラキラと黄緑色の新芽が輝くお庭で、そんなことを思った。
色遊びがしたかったので、出来るだけ色を入れて書いてみました。
何回色が出てきたのか宜しければ暇な方、数えてみて下さい。
※誤字報告をして下さった方、本当にありがとうございました。
こちらにて御礼申し上げます。
誤字脱字の多さに読み返して自分でも笑ってしまいます。
このお話ではありませんが、酷いと名前まで間違えていたりと我ながら呆れます。
また何かお気づきになりました点がございましたら是非ご連絡下さいませ。
※ジャンルについてご意見いただき、迷った末、異世界[恋愛]からに文芸[コメディー]変更いたしました。文芸でいいのかな?とまだ悩んでおりますのでまた変わるかもしれません。
違うよと思ったら是非ご意見ください。