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私が住む国、フェルディナン国は大陸の5分の1を占める大国です。

最初は大陸の3分の2を占めていた国でしたが、ナタニエル国をはじめいくらかの国が独立運動を起こし今の状態となりました。

おそらく、現在の召喚師不足はそのころから発生したのでしょう。

このままではフェルディナン国唯一の長所である召喚・召還術が廃れてしまう。

それを恐れた国王が発布した法律が『召喚師保護・育成令』でございます。

そのころはまだ召喚師の素質を"感じ"ても、本人又はその家族の意思に反して召喚師にすることはできなかったのです。

しかも、『召喚師保護・育成令』が出るまでは召喚師の待遇は、悪くはありませんでしたがよくもありませんでした。

給料は良かったらしいのですが、召喚師として使えないと判断された者(優秀な召喚師たちでも1度失敗をすれば)即王宮追放だったそうです。

(特に私のようなへっぽこ召喚師は一週間も経たないうちに追放されましたでしょう)

親としてはそんなところで息子(娘)を働かせたいなんて思うはずがありません。

けれど、『召喚師保護・育成令』によって、強制的に"感じ"た子どもたちは召喚師としての教育を受けさせる義務となってしまいました。

そのかわり、どんなに使えない召喚師でも生活は保障をすることになり、王宮追放はなくなりましたが。






 ◇ ◇ ◇






そこで一息を置くと、カケルさんが首を傾げました。



「……なんでそこまで召喚師が優遇されたんだ?」

「え、言いましたよね?召喚・召還術を廃れさせないためですよ」



話を聞いていませんでしたね、カケルさん。とちらっと視線を送るとぶすっとした顔をこちらに向けました。



「そうじゃなくって。……どうしてその、召喚術が必要なんだ?国唯一の長所だって言ってたけど。ただ、物を呼びだすだけだろ?」

「呼び出すだけ、ですって?!」



何を言ってるんですか、カケルさん!



「召喚術によって私たちの国があるといっても過言じゃないんですからね!」



私はカケルさんをぎろりと睨むと、人差し指を立てました。



「召喚師が優遇される1番の理由は、召喚術によって戦法に従い、騎士を召喚できるということですね」

「……騎士を召喚する?」

「ええ、そうです。私はまだ未熟なので5人が限度ですけど、上達すれば何百万人の騎士や兵たちを戦地へ召喚できるんですよ」



今はまだその時期じゃない、と言われてますが数年後……おそらく1、2年後には私も兵法を学ばなければならないのでしょう。

それ専門の人が王宮にいるらしいとのことですが、事前に兵法を学んでおくのとおかないのとでは違うとお師匠様もおっしゃていました。

私は2人の顔を見ずに話し続けます。



「特に今でも語り継がれている英雄のサムエル・アルテーンは私も憧れの人です。

今から数百年前の話ですが、敵国の勢力が王宮までたどり着いてしまったとき、焦りもせずに王宮内の全ての人を避難させることに成功しました。

その迅速かつ適切な行動に、その時の国王は彼の家族に褒美を授けたそうです」

「……彼の、"家族"に?その、サムエル?さん本人には何も与えなかったの?仕事だから?」



ユウトさんの問いに、私は首を傾げました。



「亡くなられた方に、どうやって褒美を与えろと言うのです?」

「……亡くなった?なんで?王宮内の全ての人を避難させたんだろ?」



カケルさんの言葉をしばらく考えて、私はやっと意味を理解しました。



「……ああ、もしかして私言ってませんでしたか?召喚術のモノの指定は自分にはできないのです。










―――だから、召喚術を発動させたサムエル・アルテーンは、1人王宮に残ると捕虜とされる前に首を掻き切って自害したそうですよ」




   敵国の腹いせにぐちゃぐちゃに踏みつぶされたサムエル・アルテーン。

   私は、その意志の強さに感服しました。




私が笑顔でそう言うと、ユウトさんもカケルさんも顔を青ざめてしまいました。

どうしたのでしょう?首を傾げると、突然カケルさんに肩を掴まれました。

突然のことに、私は目を丸くします。



「お前……大丈夫か?」

「……何が、ですか?」



何の事だかわからずに、私は首を傾げました。

カケルさんの表情は至極真剣です。

彼は、一体何を心配しているのでしょう?



「何がって……何でそんな平然としてるんだよ!おかしいだろ?!」

「おかしいですか?」



いたって普通のことを言っただけなのに、なんでこんなに怖い顔をするのでしょうか?

……あ、もしかして……



「ああ、今は大丈夫ですよ?お師匠様のダーレン様は賢者と呼ばれるほどの能力の持ち主で、今戦争を起こそうなどとする馬鹿な国はありません。

少なくとも、お師匠様が生きている間はフェルディナン国は安全です。

お師匠様はまだ70歳ですし、後数年はこの平和が続くでしょうから」



カケルさんが言いたかったことは「こんなに若いのに」ってことですね。

そうですね。私もせめて成人するぐらいまでは生きていたいですし。

国のために死ぬのはなんてことありませんが、生きれるのなら生きたいですし。

私がそう言うと、カケルさんは珍妙な顔で黙りこんでしまいました。

そして代わりに、ユウトさんが口を開きます。



「リンちゃん、怖くないの?」

「怖い?どうしてですか?」

「どうしてって……普通は怖いんじゃない?普通の人よりも死ぬ可能性が高いんだから。……そりゃあ、絶対に死ぬってわけじゃないかもしれないけどさ。

その、英雄さん?みたいな立場になったら、リンちゃんも自分の命、捨てなきゃだめなんだよ?それって、怖くない?俺だったら怖いよ。怖くて……多分、逃げたくなる」



私はその言葉に愕然としました。

怖い?逃げたい?……そんなこと、考えたこともありませんでした。

やっぱり、私の国の常識はこの国では通用しないのでしょう。



「怖くないですよ。死なないに越したことはありませんが……国のために死ねるのなら私は本望です」



国が私の力を必要としてくれているのです。例え私がへっぽこでも、それ以外の取り柄がなくても。

だったら、そのために私の力を使うのが当然のことなのです。

もちろん、心の中に付け足した言葉を口にはしません。

きっと、彼らにはこの思いも理解できないのでしょう。

彼らの怖い、も、逃げたい、も私は理解できないのでお互いさまでしょう?

変わらずニコリと微笑む私に2人はそれ以上何も聞こうとせずに、部屋を出ていってしまいました。






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