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掃除・洗濯が終わって(あと、こっそりお風呂にも入らせてもらって)帰る方法を探すために本を読んでいると、カケルさんが帰ってきました。
そしてキョロキョロと周りを見回すと、私に話しかけました。
「……これ、全部お前がやったのか?」
「そうですけど……」
ま、まさか……これだけじゃあ足りなかったのでしょうか?!
王宮で働いている侍女のマリーちゃん並に頑張ったのですが!
あ、マリーちゃんっていうのは王宮の離れまで食事を運んできてくれる女の子で……
朗らかに笑うマリーちゃんを思い浮かべていると、ぽんっと肩に手を置かれました。
ぎょっとしてカケルさんを見ると、少しだけ(本当にほんの少しなのですが!)微笑んでいました。
「……助かる。俺、正直こういうの苦手だから」
「そ、そうなんですか」
(本当にほんの少しの!)笑みを浮かべているカケルさんに戸惑いながら、私は言いました。
……そうですよね。あんなにも簡単なカレーを不味く作れるぐらいですからね。
うんうん、と心の中で頷いて……そういえば、と私は思い出しました。
「あの、カケルさん」
「ん?」
「洗面所にある大きな箱は一体何なんですか?」
◇ ◇ ◇
洗濯機、というものの使い方を覚えました。
あと、炊飯器と電子レンジと掃除機。あ、電話とテレビもです。
何て発展した国なのでしょう!まるで魔法の国です!
スイッチ一つでなんでも出来ます!
そして、ついでと言ってお料理のレシピ本もいただきました。
聞いたことのない材料の名前はあまりなかったので助かりました。
……でも、味噌とか醤油とかは初めて聞きましたね。
舐めてみましたけど……全然知らない味でした。
昨日と今日で大分、この国に詳しくなった気がします!
「わかんないことがあったら俺か、悠斗に聞け。……変に触って物を壊されたくはないからな」
カケルさんはそう言って私の頭を撫でました。
……別に、最後の嫌味なんて気にしませんよ?
なんだかんだ言いながら説明してくれたカケルさんに心の中で感謝します。
感謝しますけど……
「……子どもじゃないんですから、頭、撫でないでくださいよ」
こればかりは譲れません。
年上の人に頭を撫でられるならわかりますが、どう見てもカケルさんは私と同い年、そうじゃなかったら年下でしょう!
むすっと、頬を膨らませるとカケルさんは「はぁ?」と言って、首を傾げました。
「お前、子どもだろ?」
「私は15歳です!数ヵ月後には16歳ですよ、16歳!成人です!」
すると、カケルさんは馬鹿にしたように鼻で笑いました。
「俺よりも3つも年下じゃないか」
……え?
「……カケルさん、18歳ですか?」
「ああ」
18歳って……殿下と同い年と言うのですか?!
ありえません!そんな、ありえません!
「……サバを読んだって、私は騙されませんよ?」
「……なんで俺がサバなんか読まなきゃいけないんだ?」
真顔でカケルさんは私に言いました。……どうやら、本当のようです。
ということはまさか……
「あの、ユウトさんは……?」
「悠斗?あいつは俺の2つ下。16」
「16?!」
絶対に年下だと思っていたのに……年上ですか?!
……私の常識はこの国では通用しないということですか。そうですか。
私はしばらくの間、放心状態でそこに立っていました。
◇ ◇ ◇
ユウトさんが帰ってきて、夕食を食べ終わり、皿洗いも終わるといろいろと話しました。
まず、お金。
一番小さくて軽い銀色のコインが1円。
黄色の真ん中に穴が空いてあるコインが5円。
茶色のコインは10円で、銀色で真ん中に穴があいてあるコインが50円、空いていないのが100円。
銀色だけど他のより少し大きいコインは500円。
紙幣が1000円、5000円、10000円。端に描かれてある人間がそれぞれ違います。
私はお給料として10円をもらいました!
「どのぐらいの価値なのですか?」と聞いたら、カケルさんがポケットの中から小さなチョコレートを出して、「だいたいこれが1個買える」と言ってました。
「あの高価なチョコレートがこれ1枚で買えるのですか!」
私が10円をきらきらとした目で見ながらそう言うとカケルさんは気まずそうに、ポケットから出したチョコレートをくれました。
……い、いいのでしょうか?返せと言われても返しませんよ?!
何年ぶりかに食べたチョコレートはとても美味しかったです。
次に、ここでの私の立場。
異世界から来たなんて信じてもらえるわけがないので、『外国人留学生』ということになりました。
人付き合いがよいらしいユウトさんがさり気なくご近所さんには話してくれたようです。
ついでだから挨拶に行こう、とユウトさんが言うので挨拶にも行きました。
黙ってればいい、と言われたのでユウトさんの後ろで黙ってニコニコとしていると、なんと服をいただきました!
服をくれたおばさまに、「その民族衣装も可愛いけど、日本の服もきっと似合うわよ」と言われました。
民族衣装って、今私の来ている服のことでしょうか?
私の国ではこれが普通なのですけど……もちろん、私は何も言いませんでしたよ。
それだけじゃありません。
ご近所さんのほとんどが、いろいろとくださりました!
お野菜や、お肉。お菓子に、洗剤。みなさん、「余ってるから」と言って、くれるのです。
「どうしてですか?」とユウトさんに聞くと「じいちゃんとばあちゃんのおかげ、かな」と目を細めて言いました。
……私はそれ以上聞くのをやめました。
他にもいろいろと聞くべきことはあると思うのですが、なかなか思いつきません。
次に何を聞こう、と考えているとユウトさんが逆に、私の国のことを聞いてきました。
「つまらないですよ?」と言っても、「聞かなきゃわからないじゃん」としか言ってくれません。
まあ、聞いてばかりだと申し訳ないと思ってたところだったので別にいいのですが。
本当に面白くもなんともないですよ?と前置きを置くと、私は口を開きました。