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どうしてか、私は4時に目が覚めました。
いつもは起きれないのに、なぜだか今日はぴったりに起きれました。
……普段もこうならお師匠様も喜ぶと思うのですが。
ふと、くしゃりと笑うお師匠様が頭の中に浮かびました。
「……お師匠様……」
今頃、何をしておられるのでしょうか?
叱られてばかりのへっぽこな弟子がいなくなって、喜んで……なんていませんよね?
だって、私がいないと王直属の召喚師候補がいなくなってしまいますから。
「……帰らないと」
へっぽこな私でも、あの国には必要なんだ。
……例え、それだけの価値しかない私でも。それ以外に、何の取り柄のない私でも。
今のあの国には私の代わりなんて存在しないのだから。
「……帰らないと」
絶対に、考えてはいけません。
もしも、私の代わりが存在していたら、なんて。
そうすれば、誰も私の心配なんてしてくれない、なんて。
……絶対に、考えてはならないのです。
◇ ◇ ◇
それからどのくらい経ったのでしょうか?
お師匠様が召喚してくれた教科書を隅々まで読み終わって、私と一緒に召喚された本を半分まで読み終わった時でした。
誰かがコンコン、とドアをノックしました。
「……おい、お前いつまで寝てるつもりだ?」
誰か、はカケルさんのようです。
「起きてますけど、どうしました?」
「……お前、家事するって言ってなかったか?朝食、まだかよ」
そう言われて、私ははっとしました。
そうです!家事はここにいるための条件でした!
すっかり忘れていました!
「す、すぐ用意します!」
そう言ってドアを開けて、一瞬だけカケルさんと目が合いましたが、気にせず台所に走り出そうとしました。
……否、しようとしたのですが。
「ちょっと待て」
「は、はい?」
何故か呼び止められてしまいました。
……な、なんなのでしょう?
私、何かしましたか?いや、何もしてないからですか?!
おろおろとしていると、カケルさんは深く溜息をつきました。
「お前、寝てないだろ」
「……へ?」
予想外の言葉に私は目を丸くしました。
カケルさんはそう言うと、まるで小さな子どもをあやすかのように優しく私の頭を撫でます。
「……いい。どうせお前が昨日作ったカレー食べるつもりだったし。寝てろ」
そしてそのまま部屋から出て行きました。
……そ、そんな酷い顔をしていたのでしょうか?
というか、同い年(ぐらいに見える)男の子に子ども扱いされるなんて!
私は15歳なのですよ?!数か月後には成人するというのに!
顔ががーっと熱くなって、頬を手で押さえます。
……ひとまず、そんなに酷い顔なら一度寝ましょう。
文句はその後でもいいでしょう。
私は部屋に戻ると、開いていた本を閉じて私も開いていた目を閉じました。
◇ ◇ ◇
『 リン 』
懐かしい声が聞こえました。
誰の声だったでしょう?忘れてしまいました。
でも、とても優しい人だったように思います。
『 僕の言った通りに、魔法陣を描くんだよ 』
お師匠様?……いいえ、違います。
お師匠様はこんなに優しく私に言いません。
……だったら、誰でしょうか?全く思い出せません。
『 ……綺麗に描けたね、リン。それじゃあ、それを発動させてみようか? 』
◇ ◇ ◇
「……夢、ですか」
時計を見ると、11時を指しています。
少し身体はダルイですが、元気になったような気がします。
「それにしても、変な夢でしたね」
まあ、所詮は夢なのでどうでもいいですけど。
私は一度大きなあくびをして……1枚の紙に気づきました。
『学校に行ってくるから、留守番しとけ。後、今日の夕食はハンバーグがいい。材料は冷蔵庫の中』
この乱暴な感じは絶対カケルさんです。
ええ、作りますよ。作ってあげます。
留守番だって、ちゃんとできますよ。
ですけど、ですけどね?!
自分で言うのもなんですが……こんな得体のしれない人を1人にしておくなんて!
悪い人だったらどうするつもりなんですか?!
そう思いながら、私はどうしようもなく頬が緩んでしまいました。
だって、あんなにも召喚術を使った私に怯えていたのに。
あんなにも私をここに住まわせまいとしていたのに。
「……不用心ですよ、カケルさん……」
……絶対この人を裏切るようなことをしたらいけない。
私はそう心に深く刻むと、立ち上がりました。