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とりあえず、私は台所に入ります。
テーブルに袋の中の物を全部出して、箱を見ました。
表にはドン!とかれえらしきものがあります。
茶色の……ソースみたいなものが白い何かに乗っていますね。
これじゃあどうすればいいかよくわかりません。
後ろもついでに見て……私は歓喜しました!
なんと、作り方が丁寧に書かれているのです!
しかも、国が違うのに文字が読めます!
この通りに作ればこのかれえ……ではなくてカレーができるのですね!
私は包丁を握りしめると、調理に取り掛かることにしました。
◇ ◇ ◇
……どうしましょう。
無事、カレーは完成しました。味も……多分大丈夫なはずです。
けれど、重要なことを忘れていました。
「……この白いものはなんなのでしょう……?」
そうです。
この白い何かにカレーをかけないと完成しないのです。
白……マシュマロ?
いえ、マシュマロにこの味は合わないと思います。
どちらかというと……パンとか、粉モノが合いそうですね。
けれど、白くはありませんし……それに、その材料は袋の中に入っていませんでした。
……まさか!
「あの材料の中に、この白いものがあったのですか……?」
もしそうなら困ります!
材料の中の物は全部使ってしまいました。
……どうしましょう。
そんなことを考えてると、ユウトさんが入ってきました。
「あー、いいにおい!まだ完成してないの?」
……イチミヤカケルさんじゃなくてよかったです。
ユウトさんならきっとこの白い何かが何か教えてくれるでしょう。
私は火を消すと、箱の絵の白い何かをユウトさんに聞くことにしました。
◇ ◇ ◇
白い何かは、ごはんというらしいです。
「ごはんならここにあるじゃん」と言って、四角い箱のふたを開けるとほかほかのごはんが現れました!
私は少し感動しましたよ!
これで無事、カレーの完成です!
箱の絵のとおりに盛り付けをして、部屋まで運びます。
どうだ!とテーブルの上に置くと、2人の反応を見ることにしました。
2人はほぼ同時にスプーンを手にすると、それを掬い口に運びます。
……これで、私の運命が決まると言っても過言ではありません。
私は指が交互になるように手を組みます。
しばらくして、ユウトさんがニコリと微笑みました。
「いやあ、久しぶりにまともなカレーを食べた!合格!家に置いてあげよう!」
「本当ですか?!」
「悠斗!」
イチミヤカケルさんは一体何が気に食わないのでしょう?
私はちゃんと言われたとおりにしたのに!
頬を膨らませてイチミヤカケルさんを睨んでいると、向こうも私を睨みました。
「絶対俺が作ったほうが美味い!」
「嘘嘘。兄ちゃんが作るとねぇ……スープみたいにサラサラでさぁ、味が薄くてすっごい不味いんだよ」
「悠斗てめぇ……」
なんということでしょう!イチミヤカケルさんは相当のぶきっちょさんみたいです。
初めて作った私でも失敗しなかったのに……
「兄ちゃん、これで何の問題もないだろ?」
「……っ!勝手にしろ!」
そう言いながら、イチミヤカケルさんはガツガツとカレーを食べ始めました。
……小さな声で「……くそっ、うめぇ……」と言ってるのが聞こえたので、私は満足です。
ユウトさんも食べ始めようとスブーンで掬い……ぴたりと動きを止めました。
「そう言えば、名前知らないや。君、名前は?」
「私ですか?リンです。リン・バルデュスと申します」
「リンちゃん、ね。俺は一宮悠斗。あ、悠斗が名前だから、悠斗って呼んでよ」
「はい!」
その間にもイチミヤカケルさんはガツガツと私の作ったカレーを食べています。
……実はお腹が空いていたのでしょうか?
「で、こっちが一宮翔。翔って呼べばいいよ」
「はい、わかりました!」
「……おかわり」
そんなことをしてる間にも、イチミヤカケル……カケルさんは食べ終わってしまいました。
……これは、私に行けと言ってるのでしょうね。ええ、きっとそうなのでしょう。
ついでだから私もカレーをもらうことにしましょう。
私はカケルさんの皿を受け取ると、台所に向かうことにしました。
◇ ◇ ◇
夕食が終わると、ユウトさんが空いている部屋に案内してくれました。
おじい様とおばあ様は亡くなってしまったそうで、無駄に部屋が残ってるのだとユウトさんは少し寂しげに笑っていました。
両親はどうされたのですか、などと野暮なことは聞きません。
ありがとうございます、と御礼だけをいうことにしました。
そして、出ていく間際に彼は言いました。
「兄ちゃんは、あれでも本当は優しいんだ。……ただ、俺ら兄弟2人暮らしだからさ、いろいろと疑わなきゃいけない状態なわけ。騙されないためにさ。だから、兄ちゃんのこと嫌わないでやってくれる?」
もちろん私は深く頷きました。
……お兄さん想いの弟さんで、カケルさんは幸せでしょうね。
無事帰ることができたら、久しぶりに王宮にいるお兄ちゃんたちに会いに行こうと思います。
そのためには一刻も早く帰る方法を見つけないと!
私はそう心の中で決意をすると、床につきました。