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俺を産んだ日から4年後、母が死んだ。
その4年後、今度は父が死んだ。
8歳だった俺は、6歳の弟と祖父母の家で暮らすようになった。
その4年後、今度は祖父が死んだ。
そして、その4年後。嫌な予感が当たった。今度は祖母が死んだ。
4年後は俺が死ぬのだろうか?それとも弟?
偶然とは思えないほどぴったり4年ごとにいなくなる大切な人たち。
また失うかもしれないという恐怖と、今度は自分かもしれないという恐怖。
2つの恐怖が入り混じって、気が狂いそうだった日。
そいつはやってきた。
◇ ◇ ◇
まず、変だなぁと思いました。
魔法陣が発動するときは、指定した場所から光が発せられます。
けれど、何故か今回私の描いた魔法陣自体から光が発せられていました。
次に、じゃあこれは失敗だなぁと思いました。
とりあえず、頭に本が2冊落ちてくる覚悟はしておこうとも思いました。
……思った通り、本2冊が頭の上に落ちてきました。
(……ちょっと痛かったです)
けれど思ってもみなかったことが起きました。
突然、周りが光に包まれたのです。
信じられません。こんなことは今まで一度もありませんでした。
過去の文献にもこのような例は書かれていなかったと思います。
(……まあ、全部の文献を読んだわけではありませんのでなんとも言えませんが)
どうしよう、と焦っているとだんだんと発せられていた光が弱くなっていきました。
私はほぉっと安堵のため息をつきます。
けれど、安心するのはまだ早かったのです。
私は愕然としました。
今自分がいる場所は、どう見ても実技室ではありません。
それどころか、目の前には変な格好をした男の子がいます。
……大変です。私はどうやら国を越えてしまったようです。
少なくとも、こんな変な格好は私の国では見たことがありません。
……まさか、敵国であるナタニエル国……ではないですね。
確かあそこの国の恰好は私の国と一緒のはずです。
では、どこのでしょうか?
首を傾げると、目の前にいる男の子は突然私の頬に手を伸ばし、ぎゅっと抓りました。
「い、いひゃい!!いひゃい!!」
「……夢ってわけじゃあなさそうだな」
な、なんという人でしょう!人の頬を許可なく抓るなんて!
……いや、許可なんてしませんけどね。絶対に。
ギロリ、と鋭い目つきで男の子を睨みます。
……そのとき、私は"感じ"ました。
なんということでしょう!他国に、召喚師の素質のある人がいるなんて!
……欲しい。この人を連れて帰れば、きっとお師匠様のスパルタ特訓も二分割されるはずです。
ああ!でも、この人がどこの国かにもよります。
あり得ないと思いますが、万が一この男の子がナタニエル国の者なら……駄目です!
連れて帰ろうとしたら、国境を渡る前に私が捕まってしまいます!
なんたって、私は国の要である召喚師(見習い)。顔は覚えられてしまってます。
しかも、そんな私が連れて帰ろうとしてる人がいるということは、特別な力を持っているということをみすみすばらすということになってしまいます!
それは絶対に避けなければなりません。
「つかぬことを伺いますが……こちらはどこの国でしょう?」
勇気をだして聞くと、男の子は「何を言ってるんだ、こいつ」という変な目をしました。
……酷いです!そんな目で私を見ないでください!
「日本」
「ニホン……国ですか」
「いや、日本……あー、ジャパンって言ったほうがいいのか?」
……そんな国、ありましたでしょうか?
ああ!ちょうどいいところに世界地図の載っている本がありました。
私はさっき私の頭に攻撃をしてきた本一冊を開きます。
「その、ニホン?ジャパンというのはどこですか?」
「どこって……は?」
男の子は世界地図を見て固まりました。
……もしかして、勉強が苦手なのでしょうか?
地理を知らないのは召喚師として致命的なのですが……まあ、お師匠様のスパルタですぐ覚えるでしょう。
「お前、馬鹿にするなよ?なんだ、このヘンテコな地図」
「へ、へんてこ?」
た、大変です!この人は苦手どころか地図すら見たことがない人でした。
これでは先が思いやられます……
はぁっと溜息を吐いていると、男の子はどこからか大きな紙みたいなものを持ってきました。
なんだかツルツルしています。光が少し反射していますね。
「ほら、日本はここだよ。ここ」
……何を言っているんでしょうか?この人は。
男の子は地図のようなものを私に見せて、小さな島を指差しています。
……な、なんて杜撰な教育をするのでしょう!この国は!
ヘンテコな地図を本当だと信じてるではありませんか!
私は黙ってその地図みたいなものを折りたたむと、男の子に真面目に言いました。
「どこの小国が作ったかは知りませんが、その地図は大間違いですよ。……なんということでしょう、フェルディナン国の作成した地図が広まっていない国があるなんて……」
はぁ、と再び溜息を吐くと目の前の男の子は顔をしかめました。
「フェルディナン国?なんだそれ、聞いたことがないぞ」