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正確に描かれた魔法陣。



「  一宮翔が命ずる 発動せよ  」



正確に発動した魔法陣。



喜ぶべきことなのに、素直に喜べない。



(ああ、私は本当才能がなかったんだなぁ)






 ◇ ◇ ◇






2年はかかると思っていました。

空いた時間の数十分の授業でできるはずがないと、そう思っていました。

なのに、1カ月。

1ヶ月で、彼はできるようになりました。

ふと、かつての兄弟子も、このぐらいでできたことを思い出しました。

この国の人はそういう才能に恵まれているのか、それとも。

――――私がどうしようもないほどの問題児だったのか。

そう思うと、帰ることができるというのに素直に喜べませんでした。

これは劣等感です。

これは嫉妬です。

これはただの醜い感情です。

そんなこと、私にだってわかっております。

わかっておりますが、どうしようもないのです。



「では、カケルさん。次は私の言うように描いてください」



さあ、帰ろう。

私を必要とする、あの国へ。






 ◇ ◇ ◇






カケルさんは黙々と魔法陣を描きます。

綺麗な、魔法陣。

すっかり朱墨で紅くなってしまった手。

それも今日で最後ですよ、とはどうしてか私には言えませんでした。

薄情な人だ、と自分でも思います。

けれど、どうしてか私には言えませんでした。

あの人と同じことをしているという嫌悪もありましたが、どうしようもありません。

とにかく、私はあの国に帰りたかったのです。


カケルさんはモノの指定、場所の指定を正確に描いていきます。

あの日の私のように、その言葉の意味は知らないままに。

そして描き終わったカケルさんは魔法陣の上に手を乗せました。

彼は、口を開きました。



「――――悪ぃ」

「え?」



言葉の意味がわからず私は彼をじっと見ました。

俯いた彼の頬から伝う雫。

その雫が、下に落ちて……魔法陣の上に落ちていました。



「どうし、たんですか?」



問いかけても、カケルさんは何も答えません。



「気分、悪いんですか?」



私はまた問いかけました。

それでも何も答えません。

本当にどうしたんだろう、と彼の顔を覗き込みました。

私の視線と、カケルさんの視線が交わる。

突然、カケルさんは朱墨で染まっていないほうの手で私の頬を触りました。



「……ここに、いてくれよ」



それは、弱弱しい言葉でした。



「それが駄目なら、ちゃんとお別れをさせてくれ」



――――とても、弱弱しい言葉でした。






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