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手が朱墨で真っ赤だ。
どうして朱墨で魔法陣を描くのかと問えば、リンは無表情のまま淡々と言う。
『 昔は血で魔法陣を描いてたので、それの名残らしいですよ 』
それを聞いてから、朱墨が血にしか見えなくなった。
◇ ◇ ◇
最初は綺麗に描けなかった円。
今ではコンパスと同じくらい正確に描けるようになった。
けれど、リンはそれを喜ぶことなく、次のステップに進む。
その目に、あの頃のようなキラキラしたものは見えない。
この国のことを知っては笑っていた、あの嬉しそうな楽しそうな顔は見えない。
馬鹿みたいに騒いでいたリンは、もういない。
それがたまらなく寂しかった。
◇ ◇ ◇
リンは俺の生活まで拘束することはなかった。
夜の空き時間に数十分間の授業だ。
それでも、その数十分は学校の授業なんかよりも濃いもので、
ああ、お前は本当に元の世界に、自分の国に帰りたいんだな、と思う。
今までそんなそぶりをお前は俺らに見せなかったから、全然気づかなかった。
……てっきり、もうあの国に嫌気がさしていると思っていたのに、な。
以前、リンが言った言葉を思い出す。
『 ああ、今は大丈夫ですよ?
お師匠様のダーレン様は賢者と呼ばれるほどの能力の持ち主で、
今戦争を起こそうなどとする馬鹿な国はありません。
少なくとも、お師匠様が生きている間はフェルディナン国は安全です。
お師匠様はまだ70歳ですし、後数年はこの平和が続くでしょうから 』
――――じゃあ、お前の師匠が死んだその後は?
保障されていない命。保障されていない人生。――――保障されていない幸せ。
『 怖くないですよ。
死なないに越したことはありませんが……国のために死ねるのなら私は本望です 』
さも当然のように、それを受け入れているお前が、あまりにも哀れだった。
俺よりも3つも年下のくせに、この国ならまだ保護されるべき子どもなのに。
この国とお前の国との違いを見て、どうしてお前はお前の国を嫌わない?
自分が生きていた国だからか?――――自分を盾にしようとしてる国なのに?
ここなら、お前を盾にしようなんて考えない。
例え偽りの平和だと言われても、お前の国よりもここのほうが安全だ。
絶対に、幸せになれるのに。
『 ……カケルさん、私のために召喚術を覚えてください 』
有無を言わせぬ強い意志を持った声が、俺を動かす。