13
ハルキさんの言った言葉が信じられなかった。
例えこの人があの国に愛着がなかったとしても、その言葉の意味をわかっていないわけがないのに。
「……何を、馬鹿なことを言ってるんですか……!
―――そんなこと、できるわけないじゃないですかっ!」
「どうして?」
「どうしてって……っ!貴方が言ってることはっ!」
あの国を、あの国で生きる民を。
「全て、見捨てると言うことなのにっ!!」
「それが?」
ハルキさんは、それがどうしたと言わんばかりに首を傾げる。
……酷い。酷い、酷い!
「例え数年でも、貴方も生きていた国でしょう?!そんなの、貴方の母親もっ!」
望んでいない、そう言おうと思ったのに。
―――男は静かに笑った。
「俺の母親は1人だけだよ、リン。―――今ここで生きている、あの人だけだ」
『 返してよ!返しなさいよ!私の息子を、返してよぉっ!!! 』
女性の断末魔が聞こえる。
なんて残酷な話なのだろう、と私は涙を流した。
◇ ◇ ◇
どうやって家に帰ったかなんて、私は覚えていません。
気がつくと、住み慣れた家の前に立っていました。
いつものように、ドアノブに手を伸ばします。
けれど、いつものようにそのドアノブを回すことができませんでした。
……裏切った兄弟子。
でも、心の奥底ではあれには訳があるのだと言い聞かせていたのに。
あっさりとそれは崩されました。
私はこの1カ月でこの国が好きになりました。
それなのに、あの人は何年もあの国にいたのに、なにも感じなかったなんて。
それどころか、自分を本当の息子のように可愛がってくれたあの女性さえも、否定するなんて。
悲しい。
けれど、それ以上に悔しい。
私の方が、あの国を愛してるのに。
どうして、この力はあの人よりも弱いのだろう。
どうして、あの人なんかに劣るのだろう。
――――どうしたら、あの人のように"私自身"が必要とされる?
「……リン?」
いつのまにか、カケルさんが後ろに立っていました。
目と目が合うと、"感じる"力。
『 ……綺麗に描けたね、リン。それじゃあ、それを発動させてみようか? 』
昔、あの人が言った言葉が聞こえる。
――――見つけた。帰る方法。
あの人がした裏切り行為が、まさか私を助けるなんて。
私は自嘲しながら、流れる涙を袖で拭います。
そして、呆然と立っているカケルさんに、言いました。
「……カケルさん、私のために召喚術を覚えてください」
それは頼みじゃなくて、命令。