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一番目のお兄ちゃんは殿下直属の騎士になりました。
二番目のお兄ちゃんは殿下の家庭教師になりました。
そして、末っ子の私は……
「リン!何度言ったらわかるんじゃ!」
「ご、ごめんなさいーっ!!」
……王宮の離れでお師匠様に叱られながら、召喚術の勉強をしています。
◇ ◇ ◇
現在の私の立場は、召喚師見習い。……まあ、要は下っ端ということです。
ゆくゆくはお師匠様であるダーレン様の後を継いで王直属の召喚師になると思われます。
お師匠様は現在70歳。そろそろ危ない時期なのですけど……
「馬鹿者っ!!ここはエオローじゃなくてティールじゃ!それに、なんじゃ!この歪んだイスは!!」
「あ、お師匠様。それはラグです」
「……なんでここでラグを使うんじゃ!こっの、大馬鹿者っ!!!」
……まあ、こんな感じに、私が完璧な召喚師になるほうが先か、お師匠様が天に召されるほうが先か、微妙なところなのです。
え?他の優秀な召喚師を探せば、ですって?
それができたら私、今頃村でお野菜作ったり、お芋作ったりしてますって。
残念ながら、召喚師の素質を持って生まれる子どもはほんの一握りなのです。
その上、そういう子どもたちは大抵生き残れません。
特別な力を持っているがゆえに、その力が暴走してしまうのです。
力の暴走が抑えられる年齢の9歳までずっと、死と隣り合わせなのです。
ちなみに、運がいいのか悪いのか私はそれに生き残りました。
(2、3度天上の世界をさまよったことはありますが。)
まあ、そういうことで私は唯一の王直属の召喚師候補なのです。
え?召喚師の素質を持っているなんてどうしてわかるんだ、ですって?
普通の人にはわからないかもしれないですけど……私たちは"感じる"んです。
「ああ、この子は力を持っている」って。
だから、召喚師って大変なんですよ?
この国の赤ん坊全てを確認しないといけないんですから。
私の最初の仕事はそれだったのですけど、毎日朝の10時から12時までの2時間ずーっと赤ん坊が来るのを待つんです。
(来ない日だってありますし、2時間待って1人の時もあります。逆に何十人の人が押し寄せてきたときもありました)
私は今までに5人ほど力を"感じ"ましたが……現在生き残っているのはたったの1人です。
その子もまだたったの5歳です。
お師匠様が私以外の候補者をココに連れてこなかったということは、お師匠様が"感じ"た子どもたちもまだ9歳以下なのでしょう。
◇ ◇ ◇
そんな切羽詰まった状態の私ですが、もちろん休みはあります。
……まあ、1日中というのは無理ですけど。
夜の9時から11時までは自由時間です。
なんで11時までと決まっているかと言うと……私が朝起きれないからです。
召喚師の朝は早い。ということで4時起床と決まっているのです。
……正直、地獄です。そして起こすときのお師匠様の顔は魔王様です。
だから、私はいつも寝る時間はきっちり守ります。……守っても起きれないんですけどね。
さて、そんな自由時間に私は何をするかというと……自主勉強です。
そう、自由時間だから遊べると思ったら大間違いなのです。
だって、私はへっぽこ見習い召喚師。
早く立派な召喚師にならないとこの国が危ないのですから。
実技室につくと、私はすぐに魔法陣作成に取り掛かります。
頭の中で手順を一通り思い出して、ポケットから描くための道具である朱墨を取り出しました。
「まず、魔法陣を描きます」
魔法陣作成にまだ慣れていない私はつい、声を出しながら作業をします。
「お前は黙って描けんのか!」って言われたこともあります。
きっと、魔法陣作成に慣れたら無言で描けるようになるでしょう。
……さすがに弟子ができる頃には黙ってさらっと描けるようになりたいですね。
「次に召喚するモノの指定、場所の指定をします」
ココが一番大事!これを間違えたら大変です。
指定した場所の文字を1文字間違えたルドヴィーコ・オルカーニャが新大陸を見つけたという話は、今でも有名な話です。
「それが終わったら書いた魔法陣をノートに書き写します」
発動させた魔法陣はすぐに消えるので、万が一失敗したときに確認ができないのです。
どうして間違ったのかを知ることはとても大事なので、必ず書かなければなりません。
(ちなみに私は10回以上書き忘れてお師匠様に殴られました。)
準備が終わったので、取り出した朱墨はポケットに戻します。
そして、描いた魔法陣に手を乗せました。
モノは私がさっきまで使っていた本2冊。場所はココ、実技室の端にあるテーブルの上。
私はちらりと端に見えるテーブルを一瞥すると、口を開きました。
「 召喚師リン・バルデュスが命ずる 発動せよ 」