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歴史

ただ駆け抜けろ

作者: 本羽 香那


 僕達は軍服を着て銃を持ち、草むらに身を潜めている。

 ここから出ると対面するのは、こちらと同じぐらいの人数で銃を構えたアメリカ軍だ。

 現在日本は世界を相手とした戦争を行っており、かつて同盟国であったイタリアやドイツは降参してしまって孤立状態。

 不利な状況でありながらも、未だに降伏もせず戦いは続いていた。

 検査が通り、赤紙で徴収されてしまった僕達は、国の名誉のために彼らと戦わなければならないのだ。

 この状況から逃げたい者が多い中、隊長が一言発する。


「誰か先頭に立ちたい者はいないか」

 

 ほとんどの者が俯く中で、ハイと声を上げる者がいた。

 それは僕である。

 是非先頭に立たせてくださいと、こちらが懇願する形で願い出たのだ。

 周りの者は勿論のこと、隊長ですら僕の勢いに圧倒されていた。

 それでも隊長は、頼んだぞと肩を叩き後ろに下がる。

 その後は自然と出ていく順番が決まり、後は自分の間合いで前に出るだけになった。

 しかし、いざ前に出るとなるとすぐには決心が付かずに少し時間を置いてしまう。

 本来であればこのままここに留まりたいが、それは周りが許してはくれない。

 そのため、覚悟を決めて前に進むしかなかった。

 本来構えて持つ銃を、咄嗟に銃を脇腹に抱え込み、そしてそのままよそ見もせずに一気に駆け抜ける。

 それに続いて2番手3番手が前に駆ける足音が聞こえたが、僕が出たのに気づいたアメリカ軍は、少しだけ反応が遅れて銃を撃ち始めた。

 そのため、すぐに向こうの銃声の音に掻き消されて、後ろにいる者の足音は聞こえなくなる。

 その代わりに聞こえてきたのが、銃を浴びて痛みが走る仲間達の悲鳴。

 しかし、2番手からの仲間が次々に被害に遭うのは最初から分かっていたことだった。

 ――何処から出てくるか分かれば向こうはただそこに向かって銃を撃つだけで済むのだから。

 それが分かっていた僕は、生きて帰れる可能性が高いと踏んで敢えて先頭に立つことにしたのだ。

 だから、後ろでどんな悲惨な状況になっていたとしても決して振り向いてはいけないと、戦いを予め放棄してただ駆け抜けるばかり。

 そこに有るのは、ただ無事に生きて帰りたいという思いだけだった。

 

 

 

(後書き) 

 この話は、私の高校生の時の歴史の先生から伺ったお話で、先生のお祖父様のお話に当たります。

 本来は物語だけで伝えようと思ったのですが、分かりにくいところも多いと思うので改めてここで少しだけ話そうと思います。

 徴兵され戦うことになった先生のお祖父様は、誰か先頭に立ちたい者はいないかと言われると必ず自ら願い出て、自分が率先して先頭に立つことをしていたそうです。

 それは本文にも書きましたが、1番最初は狙われにくく、狙われるのは2番手3番手であるからということでした。

 ただ生きて帰ることだけを考え、全力疾走でくぐり抜けたらしいです。

 この話を聞いた時、私は驚きを隠すことが出来ませんでした。

 まずそんなことを気づけるなんて本当に頭が良いですし、それに例えそのことを気づいてもいざとなれば怖さで実行することは難しいと思います。

 頭の良さと勇敢さを持ち合わせた人であったからこそ、生き残ることが出来たのだと思います。

 こうやって生き残った方がいらっしゃるということを知っていただけたら幸いです。

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 父方と母方の祖父は共に戦地に向かったことのある人達でした。だけど、衛生兵と通信兵というものだったので、対人戦に直接関わったことのない人達でした。 それでも、戦争中の話はほとんどしませんでした…
[一言]  非常に興味深い勉強になるエピソードでした。確かに、一番手がそういう意味では生存率高いのかもしれませんが、同じように、相手に一人でも勘のいい兵がいたら撃たれていたのかもしれません。想像を絶す…
[良い点] 今も世界のあちこちで戦争や内紛が……。 なくなって欲しい。 切にそう願うばかりです。
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