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28話 ドラゴンさん、先生になる

「みんな見えてるかな? 柊ちゃんねるの奏だよー!」


 次の日の朝。東京第三ダンジョン前にてカメラを起動し、配信を開始する。


 :きちゃぁ!

 :なんか知らない挨拶きたwww

 :瑠華ちゃんの挨拶も見たい!


「……瑠華じゃ」


 :仏頂面www

 :瑠華ちゃんの満面の笑みとか見てみたい。


「瑠華ちゃん微笑む事はあるけど、破顔するくらい笑った事無いよ。私見た事ないもん」


 :幼馴染でも見た事ないとか超貴重じゃん。

 :冷静というより、楽しさが良く分かってない的な?


「……楽しくない訳では無いぞ?」


「楽しくなかったらそもそも瑠華ちゃん配信出てないもんね」


 :成程。単純に表情に出にくいのか。


「そんな感じ? 取り敢えずこの話はお終いにして、今回はちょっと報告? がありますっ!」


 :報告!

 :なになに? 奏ちゃん魔法使えるようになったとか?


「それはまだ。今頑張ってる」


 あの後瑠華が紙に写した魔法文字で勉強は少ししていた。その勉強方法とは単純で、ただ魔法文字に魔力を流すだけだ。

 しかしその単純さとは裏腹に、膨大な情報量が脳に叩きつけられる痛みは想像を絶する。奏は瑠華から事前に聞いていたので一文字だけだったが、それでも気絶寸前だった。


 :何の話?

 :瑠華ちゃん独自の魔法の話。

 :あれって因子が必要無いって認識でいいの?


「いや、確かに直接的に因子は要らんが、その知識は必要じゃよ」


 :?

 :材料は要らないけど、材料の構造は把握する必要がある?


「まぁその様なものじゃな」


「…魔力の中に含まれる属性因子を把握して抽出する為に、因子の構造体を熟知していないといけない…」


「っ!?」


 :おん?

 :なんか奏ちゃんが難しい事言い出した。

 :しかも瑠華ちゃんが結構ガチめに驚いてるっぽい?

 :レアだ!


「奏、今のは…」


「んぇっ? えぇっと…昨日覚えた…?」


 自分でも何故先程の言葉が口から飛び出したのか理解出来ず、首を傾げてしまう。


「…成程のう」


 魔法文字は魔力を流す事で情報を直接脳に流し込む。その為本人の自覚無しに、物事を理解出来てしまうのだ。


「えと…間違ってた?」


「いや、合っておるよ。昨日だけでそこまで理解出来たのであれば、奏は相性が良いのやも知れんのう」


 :俺達も知りたい!

 :瑠華せんせー!


「む…ほれ」


 瑠華がすいっと指を振れば、()()()()〖魔法板〗が空中に現れる。


 :おおっ! …え?

 :分からん。

 :(´・ω・`)


 確かに内容は日本語で書かれてはあるものの、その内容は回りくどい言い回しや難解な表現が多様されており、一目見ただけでは到底理解出来るものでは無かった。


「瑠華ちゃん。これ昨日私が見たのと同じ内容?」


()()同じじゃ。しかしこちらの方が色々と省いておる故、本質とは言い難いのう」


 そも魔法文字に込められた情報全てを日本語に翻訳する事が不可能である為、どうしても情報のロスが生まれてしまうのだ。

 なので日本語に翻訳して教えるには本来向かない物なのだが……それでも敢えて日本語にして表示したという事は、つまり瑠華に本気で教える気が無い事の現れでしかなかった。


「さて。話がズレてしまったのう」


「あ、そうだった!」


 :お、報告があるんだっけか。

 :すっかり忘れてた…


「えっとねぇ…なんと! この度柊ちゃんねるにスポンサーが付きました! イェーイ!」


 カメラに向かって満面の笑みを浮かべながらピースサインを送ると、一瞬コメントが固まり、一気に爆発した。


 :えぇぇぇ!

 :早くね!?

 :登録者今三万だよね? それならまぁ有り得る…の?

 :どこどこ?


「ふっふっふっ…なんと! あの【八車重工業】です!」


 :最大手じゃねぇか!

 :やべぇ…

 :あっ! じゃあ今二人が持ってる武器って…


「あ、正解! スポンサーから武器の提供をしてもらったんだー。どう? いいでしょ?」


 奏がカメラに見せるように刀を抜くと、同時に瑠華も薙刀をカメラの画角に収めるように動かした。


 :うわっ。めっちゃ綺麗…

 :瑠華ちゃんのやつやばくね?


「えへへ。瑠華ちゃんは腕があるからすっごく良い物なんだけど、私はまだまだだから少しランクの低い物を使わせてもらってるんだ」


 :なるへそ。

 :ランク低いって言ってもまぁまぁしそう。


「今日はこれを使いながら、Fランクダンジョンの完全制覇をするよ!」


「まぁこれらの真価を引き出せるかは分からぬがの」


 :な に を 今 更。

 :過 剰 戦 力。

 :いやそもそも武器無し瑠華ちゃんだけで過剰だから…

 :それな。


 オープニングに少しばかり時間を取られつつも、遂にダンジョンへと足を踏み入れる。


「瑠華ちゃん走るよっ!」


「気をつけるのじゃぞ」


 :お母さん。

 :はしゃいでる子供を窘めるお母さんにしか見えんwww


 一、二階層のスライムは最早敵ではなく、軽く駆けながら最短ルートで下層への道を突き進む。そしてあっという間に三階層まで辿り着いたところで、漸くその足を緩めた。


「到着!」


 :はぇぇぇ!

 :えっ、足速くね?


「驚いた?」


 奏が少し悪戯っぽい笑みを浮かべながらカメラを覗き込む。


 :驚いた!

 :ガチ恋距離!

 :しかし奏ちゃんの本命は瑠華ちゃんだ。諦めな。

 :それで種明かしは?


「えっとね、配信を始める前に瑠華ちゃんから[身体強化]を教えてもらったんだ」


 :成程。

 :でも奏ちゃん魔力少なくない?


「[身体強化]は魔力を殆ど消費せんぞ。まぁ強化具合にもよるがの。ただ走る速度を上げる程度ならば奏でも問題ない」


 :そうなんだ。

 :そうなのだ。

 :有識者居るの草。

 :強化具合で魔力消費変わるんだ…知らずに使ってた。


「[身体強化]は完成されたスキルの一つじゃからの。意識的に込める魔力を調整せねば気付かぬ故、知らずとも無理は無い」


 固有スキルとは異なる、誰でも取得が可能なスキル。それがコモンスキルと呼ばれる存在であり、[身体強化]もその内の一つである。


 コモンスキルは取得方法が判明しているものが多く、取得難易度もそう難しいものでは無い。しかし、だからこそ使い方を工夫する事で、唯一無二の真価を発揮する事がある。


 :瑠華せんせー! 他のコモンスキルにはそういうの無いんですか?


「あるぞ。じゃがこれは妾が考えた、己が使い易い使い方というものじゃ。教えを乞うたとしても、大して価値は無いぞ」


 :あー…

 :まぁそうだよね。上位の探索者のスキル運用をただ真似ても、その人みたいに強くなれる訳じゃないし。

 :結局は努力あるのみかぁ。


「努力は裏切らないからねっ!」


「それは当人が報われるまで努力するからじゃがな」


 :正論パンチやめて!


「ふふふ。さて、では行くかの。奏は少し下がっておれ」


「まだいけるよ?」


「露払いは妾の役目じゃよ」


 凛と清らかな音を立て、瑠華の薙刀がリトルゴブリンの首を斬り飛ばす。


 :惚れた。

 :いやまじでカッコイイんだよ…

 :一度でいいから言ってみたいそんな台詞。


「奏の相手は、()()()()からの」


「? 分かった」




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