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22話 ドラゴンさん、ハードル走をする

 奏によるブチ切り配信の翌日。瑠華達は中学校にて体育の授業を受けていた。


「えー、これよりハードル走の授業を始めます。まず二人一組となって柔軟体操を行ってください」


 先生の指示の元、それぞれがグループを組んで柔軟体操を始める。無論奏は瑠華とペアである。


「瑠華ちゃん身体柔らか過ぎない?」


 瑠華の開脚前屈を後ろから押して手伝おうとした奏ではあったが、当の瑠華は既に補助無しでペタンと地面に倒れていた。


「動かし方次第じゃよ」


「それでどうにかなる問題じゃない気がする…」


 奏は身体が固い方なので、心底羨ましそうに瑠華を眺めていた。

 しかし眺めているばかりでは終わらないので、終わった瑠華と場所を交代して瑠華に背中を押してもらう。


「いっ!? 痛い痛い痛いっ!!」


「そこまで押していないのじゃが…」


「瑠華ちゃんの馬鹿力っ!」

 

 ―――実はそれが間違っていなかったりするのは全くの余談である。


 無事? に柔軟体操と準備運動を終えれば、いよいよハードル走の授業が始まる。


「では見本として……陸部の八車さんに走ってもらっても良いですか?」


「分かりましたっ!」


 用意されたハードル走のコースは、直線百メートルに十台のハードルが並べられたもの。

 本番であればクラウチングスタートをするが、今回はただの授業なのでスタートラインで雫が立ったまま合図を待った。


「っ!」


 先生の持つ旗が振り上げられた瞬間、雫の身体が少し沈んで一気に加速する。

 流石は現役陸上部と言うべきか、綺麗なフォームで走り続けて危なげ無くハードルを飛び越えて行く。


「おぉ〜」


 その姿に奏が感嘆の声を上げる。対して瑠華の眼差しは真剣そのものであった。


(…微量じゃが魔力が流れておる。無意識な身体強化かの)


 瑠華の瞳―――“龍眼”は、マナや魔力の流れを可視化する事が出来る。それで見れば微量の魔力が脚に集まっている事が理解出来た。


「ふむ…奏にも覚えさせるかの?」


「え、私?」


 身体強化自体は単純な原理な為、消費する魔力が少ない。それならば魔力の少ない奏であっても習得する事が出来るだろう。


「身体強化の(すべ)を教えようかと思うての」

 

「身体強化魔法!? やってみたい!」


 魔力が少ない奏にとって、魔法を使う事は憧れだ。故に瑠華から魔法を教えて貰えると聞いて、途端にその瞳を輝かせた。


「厳密には魔法では無いのじゃが…まぁ良いか。帰ったら教えるのじゃ」


「うんっ」


 帰ってからのご褒美があると知り、奏がやる気をみなぎらせる。そこへ見本のハードル走を終えた雫が向かって来た。


「かなっちー私の走りどうだった?」


「凄かった! 流石エースだね」


「照れるねぇ…まぁそんな私でも勝てない人がそこに居るケド」


 その眼差しの先にいるのは、キョトンとした状態の瑠華である。陸上部のエースと呼ばれる程の雫の様な逸材でも、運動能力の面で元龍である瑠華には叶わなかった。


「瑠華っちやっぱり陸部入ろうよぉ」


「もう部活は卒業じゃろうて…」


「それはそうだけどぉ…」


「妾は帰ってやる事が多いからの。時たまならば融通も利くが、所属は無理じゃ」


【柊】の管理を任されている瑠華は、意外とやる事が多いのだ。故に瑠華は帰宅部であり、これまでに運動部の助っ人はした事があるが、所属はしていなかった。


「うぅー……それなら今日は?」


「今日は奏に身体強化を教える約束をしたからのう」


「ちょっと、ほんのちょっと放課後の時間取れない? 話したい事があるの」


 先程までの明るい雰囲気が消え去り、雫が真剣さを漂わせる眼差しを瑠華へと向ける。その変わりように瑠華は小首を傾げた。


「何っ!? しずちゃん()なの!?」


「あーいや、そうじゃなくて…なんなら奏にも聞いて欲しいかな」


「私にも?」


 てっきり瑠華を奪われると警戒した奏ではあったが、まさかの自分も対象だと知り目を点にする。


「うん。大丈夫、損はさせないから」


「私そういうの嫌い」


 強い口調で奏がその言葉を否定する。奏は雫が()()()()()()()を知っている。だが…いやだからこそ、その様な損得勘定で付き合いたくは無いと思っていた。


「あー…ごめんね。でも今回はそういう意味じゃないと言うか…物理的に、って話なんだ」


「どういう事?」


「それは放課後の教室で話すよ。今は授業中だしね」


 それもそうだと奏も頷き、ハードル走の列に並ぶ。だがその隣に瑠華の姿は無い。


「瑠華っちは私とだよね?」


「そうじゃの」


 運動神経がクラスの中でもずば抜けている雫と瑠華は、基本的にセットで扱われる。これはあまり運動が得意でない他の生徒に配慮する為だ。それだけ彼女らは、他の生徒とは一線を画していると言える。


「おっ。かなっちフォームが綺麗になってるね」


 スタートラインを飛び出した奏の姿を目で追う。奏は運動が苦手では無いが得意でも無いという部類の人間で、ハードル走も平均的なタイムだ。


「瑠華ちゃん! 記録更新したよ!」


 心底嬉しそうな笑顔を浮かべて、奏が瑠華へと突進する。


「おっと。何秒じゃったのかのう?」


「二十秒八九!」


「おぉ。かなっち普通に速いじゃん」


「ふふん。ダンジョンに潜った成果かなぁ?」


 実際のところ、奏の言葉はある意味で正しい。足が速くなったのでは無く、身体の動かし方――力の掛け方が上手くなったのだ。


「瑠華っち。順番来たよ」


「おや。では行ってくるかのう」


「がんばー!」


 奏の声援を背中で受けながら、二人がスタートラインに立つ。すると、途端に辺りの空気が重くなったように感じた。


「今日こそっ!」


「どうじゃろうなぁ」


 雫とて陸上部のエースと呼ばれる存在。何時までも負けているのは嫌だった。


 旗が上げられ、二人の身体が沈む。先程の見本よりも遥かに速いピッチで走る雫とは対照的に、瑠華の足取りは軽くピッチは雫よりも遅い。だが二人に差は開かない。


(相変わらず速すぎ…っ)


 まだまだ余力を残していそうな走りをする瑠華にチラリと目線を投げ、より一層加速する。しかし瑠華もそれにピッタリと付いてくる。


 ゴールラインを踏んだのは、僅かに瑠華の方が早かった。


「負けたぁぁぁ…!」


 タイムを聞かずとも分かる敗北に、雫が大の字でグラウンドに寝転がる。


「まだまだ負ける訳にはいかんのう」


 その様子にクスクスと笑いながら、一切息の乱れていない瑠華が近付く。


「うぅ…全っ然勝てる気がしなぁい!」


 まぁそもそもの話、隔絶した存在である瑠華に勝負を仕掛ける事が間違いではある。知らないのでどうしようも無いが。


「タイム二人とも十一秒って…普通に大会で優勝出来るでしょ」


「興味無いのう」


「私もー。瑠華っちに勝ってないのに優勝しても意味無いもん」


 そうは言うが、ちゃんと陸上部の大会には出ている雫である。ここまで本気では無いが。


「瑠華ちゃんって体力オバケでもあるよね」


「疲れた事はないのう」


「やばぁ…でもちゃんと休んでよ?」


「分かっておるよ」


 休息など瑠華には必要が無いが、それでも心配してくれる奏の気持ちは嬉しく思う。だからこそ、瑠華もその言葉には従うのだ。


「……よしっ。復活!」


 寝転がっていた雫が飛び起きると、瑠華がその背についた土を払う。


「全く汚しおって…動くでない」


「あはは…ありがと」


「………瑠華ちゃんのそういう所、駄目だと思う」


 親切心で行っている事を駄目出しされて、瑠華はなぜ駄目なのか疑問符を浮かべるのだった。





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