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189話 ドラゴンさん、自覚する

 茜が羞恥から立ち直るのを待ちながら、瑠華が店内を見渡す。雑貨店ということもあり、店内には文具だけでなく多種多様な商品が陳列されていた。


「ふむ……」


 奏の性格上、あまり高いものは好まないだろう。とすればこの雑貨店の価格帯は適切に思える。だが価格だけ見てもそれが奏にとって必要なものでなければ意味が無い訳で。

 奏が普段どんなものを使っているかを思い出しながら店内を歩く。すると自分が普段どれだけ奏に対して意識を割いていたのかに気付かされ、自身の中に占める割合の大きさを思い知った。


(……贔屓、じゃな)


 全てに置いて平等で公平である事。それが瑠華に―――レギノルカに課せられた使命にして掟。そして……呪い。だがそれを辛いと思った事はない。それが正解だと思い、疑う事すらしなかったのだから。

 しかし今、その根底が揺らいでいる。それに気付いた瞬間、薄ら寒いものが瑠華の内心を掻き乱した。


(………)


 そしてそれは恐怖では無い。()()()だと。


「ふぅ……るー姉、何か良いの見付かった?」


「…いや、特には見付けておらんのぅ」


 ここで漸く復帰した茜に声を掛けられ、瞬時に瑠華が思考を切り替える。元々表情などを制御出来る瑠華だからこそ、こうした切り替えはまず気付かれない。

 ……だが、それはあくまで他人から見ての話で。


「るー姉何かあった?」


「何か、とは?」


「怖い顔してたから…」


 茜に看破された事に思わず目を丸くして、ついむにっと自身の頬を摘んだ。この身体にも慣れてきたつもりだったのだが、流石に長く連れ添う相手には誤魔化し切れなかったようだ。

 瑠華が何も言わなくなってしまった事に、茜が心配そうな眼差しを向けて眉を下げる。遥かに歳下の存在に気を遣わせたという事実に内心自責しつつ、瑠華が安心させるように優しく微笑んだ。


「案ずるな。少し気になる事を思い出しただけじゃ」


「なら、良いけど…」


「それよりも茜は何か見付けられたのかえ? 時間はそう多くないぞ?」


「あっ、そうだった」


 まだ昼前ではあるものの、贈り物を選ぶという行為は少なからず時間が掛かるものだ。悠長に選んでいては直ぐに時間が無くなってしまう。

 慌てて店内を見始めた茜を見送りつつ、瑠華もまた気持ち新たに贈り物を選び始める。


「ふむ…奏は殆ど妾の部屋におる故、雑貨というものはあまり適切では無いやもしれんのぅ」


「あー…」


 瑠華の呟きに茜がなんとも言えない声を上げる。


「それこそ身に付けるものがいいのかもね。るー姉が前に渡したネックレスみたいな」


「成程。そういうものもあるか」


 とはいえ探索者として活動する上で邪魔になる可能性もある為、一概にそれが最適だとは言えない。


(邪魔にならないもの、か)


 ネックレスなどは服の中に入れてしまえば良いので邪魔にはなりにくいだろう。指輪やブレスレットなどは奏が刀を扱う関係上、相性は悪いように思える。

 となると残りは脚や耳になるが、どうせならば瑠華からも見ることが出来るものが良いという事で耳飾りを探す事にした。


「……多いのう?」


 だが売り場に着いた瞬間、所狭しと並んだアクセサリーの数々に瑠華が困惑する。奏の好みの色などは知っているが、アクセサリーの形などは分からないので選ぶ指標が無い。


「るー姉、決まった?」


「耳飾りにしようかと思うたのじゃが…中々に種類があってのぅ」


「あー、アクセサリーはそうだよね。でもかー姉の好みは分かるんでしょ?」


「赤や白が好きという事だけじゃからのぅ…」


 ちなみにその理由はあからさまである。気付いていないのは瑠華だけだ。


「茜は何にしたのじゃ?」


「私はボールペンにしたよ。可愛くて持ち運びしやすくて頑丈なやつ」


「ペンか…そちらも捨て難いのぅ」


「まずハズレは無いからね。でも折角のるー姉からのプレゼントなんだから、在り来りなのはどうなんだろうとは思うかな」


「むむむ…」


「ふふっ。るー姉が迷ってるところ見るの初めてかも」


「妾とて迷いはするぞ?」


「でも普段表には出さないよね。みんなに心配掛けたくないから何でもかんでも隠しちゃう」


「………」


「勿論隠し事が駄目だとは言わないよ? 私だって隠し事の一つや二つあるもん。でももし隠す事がしんどくなったなら、辛くなったなら…少しくらい、吐いて欲しいなとは思うよ。これは私だけじゃない。【柊】のみんながずっとそう思ってる」


「……無茶を言うのぅ」


「それだけ私は…ううん、私()は、るー姉を見ているの。信頼して、尊敬して…心配、してるの。いつか限界が来ちゃうんじゃないかって。そしてそんな時も、るー姉は私たちに何も言わないんだろうなって」


「………」


「私達は確かに子供で、るー姉から見たら頼りなくて守らなきゃいけない存在かもしれない。でもこれだけは覚えていて欲しいな。……私達は、るー姉が思うほど“弱くない”んだって」


「…そうじゃな。心得ておこう」


 今はただ、そう言って力無く微笑むしか出来なかった。


「ん。…なんかしんみりしちゃったね。空気を変えるって訳でもないけど、別のお店に行ってみよっか。多分そっちならるー姉の希望通りの物があるだろうから」


「そうか? では行ってみようかの。案内してくれるかえ?」


「うんっ!」





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