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181話 ドラゴンさん、修復する

「―――という訳で新しく【柊】に入った稲荷じゃ。皆仲良くするようにな」

 

「よ、よろしくお願いします……」


 一通りの説明を終えた瑠華に手で示され、稲荷がぺこりと頭を下げる。紫乃に続く新しい子ということもあり、最初の挨拶が終わった瞬間興味津々な様子で稲荷の元へと群がった。


「わっ!?」


 突然小さな子達に囲まれ、今までそうした経験が無かった稲荷はどうすれば良いのか分からず、思わず助けを求めるように瑠華を見る。だが瑠華は良い機会だと思い、それに対してただ微笑むだけで応えた。


「何歳何歳?」


「ふぇっ!? そ、それは…」


「十五歳じゃよ。妾達と同年代じゃな」


 流石に三百歳と正直に答えさせる訳にもいかないので、そこは瑠華が口出しする。同年代としたのは、今後の事を考えてそちらの方が都合が良いと思ったからである。


「じゃあ稲荷お姉ちゃん?」


「お、お姉ちゃん…」


 当然ながら今まで姉妹など居なかったので、そう呼ばれるのは初めてだ。だが不思議と心地好い響きだと感じて、思わず稲荷の頬が緩んだ。

 その様子を見て取り敢えずは大丈夫そうだなと瑠華が頷き、後のことを紫乃に任せて自分の部屋に戻る。その手には奏から預かった“一途”の姿が。


「さて…」


 “一途”を鞘から引き抜いて机の上へと乗せ、回収しておいた破片も同じように並べる。そして持ち手側の方の刀身に指を滑らせると、細やかな罅と共に内部にも相応の損傷がある事が窺い知れた。


「相当無理を言わせたようじゃな」


 元々簡単に直せるとは思っていなかったが、それでも損傷具合は予想を超えていた。奏からの要望も考慮すると、中々に骨が折れそうな作業になるだろうと瑠華は予想する。


「……打ち直すか? いや然し……」


 一度溶かして打ち直す方が楽ではある。だがそれでは意味が無い。そうして出来たものは、“一途”では無くなってしまう。


 兎も角悩んでいても始まらないという事で、一先ず残った刀身の内部修復から着手する事にした。

 片手を折れた切っ先に添え、もう片方を持ち手側の刀身へ伸ばす。そこから慎重に魔力を流し込み、何処が壊れていて、どれだけの修復が必要なのかを把握していく。


「………」


 思った以上の繊細な作業に、瑠華が目を閉じて集中を高める。材料の予備は無い以上、失敗は許されない。


 魔力を紡ぎ、慎重に慎重に魔鋼の構造を組み換え、奏にとって最も最適な形になるように修復していく。すると次第に折れた破片側が短くなっていき、表面の罅が塞がり始めた。


「……少し、願掛けでもしておくかのぅ」


 ふとそう呟いて一旦作業を中断すると、おもむろに手を頭の方へと伸ばし、髪の毛を一本引き抜く。そして引き抜いたそれを修復途中の“一途”の中へと埋め込めば、完全に表からは見えないようになった。


「一途、か……羨ましいものじゃな」


 何か眩しいものを見るかのように目を細め、刻まれた銘を指でなぞる。すると一瞬だけその文字に金の光が走り、まるで刀身に吸い込まれるように消え去った。


 それを見届けた瑠華が一つ頷き、修復を再開する。残った罅や損傷を補修し、最後に失われた切っ先を再形成。これで漸く修復完了だ。結果として瑠華の手元にあった破片全てが消えてしまったが、不足無く何とか修復し切れた事に人知れず安堵する。


「後は鞘の作り直しと…刃の研ぎ直しじゃな」


 さぁ、あと一息だと作業に取り掛かろうとした瑠華だったが、その時部屋に響いた扉を叩く音に手を止めた。


「瑠華ちゃん、今大丈夫…?」


「奏か。構わんぞ」


 瑠華が許可すれば、おずおずとした様子で奏が扉を開いて中へと入ってくる。その表情は何処かワクワクとした様子で、恐らくは待ちきれなかったのだろうと思い、瑠華が微笑ましいとばかりに目を緩めた。


「出来た…?」


「刀だけならば一応な。見るか?」


「見るっ!」


 食い気味に反応する奏にクスクスと笑い、机に置かれた刀を手に取って奏の方へと差し出す。


「わぁぁ…っ!」


「どうじゃ? 要望通りに出来ておるか?」


「完璧だよっ! さっすが瑠華ちゃん!」


 満面の笑みを浮かべながらそう褒められれば、瑠華としても悪い気はしない。


「まさか本当に()()に出来ちゃうなんて…」


 そう。それが奏からの要望だった。既に新しい武器を手にしている奏が、それでもなお今まで通り“一途”を使うにはどうすれば良いか。それを考えた結果が、脇差として作り変えるというものだったのだ。


「刃渡りや魔力の通りに問題無いか? 今ならばまだ間に合うが」


「長さは大丈夫だよ。魔力も…なんか前より通しやすい気がするし」


「ならばこれで鞘を作っておくのじゃ」


「うん。ありがと、瑠華ちゃん」


「礼には及ばんよ。そう労力が掛かるものでもないしのぅ」


 長さを把握する為一旦“一途”を返して貰い、奏は瑠華の邪魔をしないように部屋を出ていった。


「ふむ。材料はどうするか……」


 元々の鞘を分解して使ってもいいのだが、どうせならば少し手を加えておきたい。そう思った瑠華が自身の収納空間に入っている物を眺め……あるものに目を留めた。


「……まぁ、バレんじゃろ」


 そう言い訳をしながら取り出したのは、白い蛇の形をした物体で……つまりはキルラの抜け殻だった。長く連れ添っているキルラの抜け殻は相応に数があるので、材料に丁度いいと考えたのだ。

 その中でも形と状態の良いものを選んで何個か取り出し、魔法で解体した元の鞘と組み合わせて作り上げていく。魔法で作る関係上思考の一つを割り振っておけば問題無いので、その間に刃を研いでいく。使うのは掌サイズのレギノルカの鱗だ。


「我ながら便利な物じゃな……」


 自分の身体の一部で刃を研ぐという行為になんとも言えない気分を覚えながらも、淡々と刃を研いでいく瑠華なのであった。



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