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176話 汝、蒼キ導ヲ知ル者

 ―――――バキンッ!


「あっ……」


 無慈悲な悲鳴を上げ、キラキラと輝く金属片を撒き散らしながら砕け散る“無銘”。その様子がいやに鮮明に奏の目に映った。


「っ!」


 目の前が真っ暗に染まったように奏の心情が絶望に蝕まれる。だが時が止まる事は無い。次の瞬間には受け止めきれなかった攻撃をモロに食らってしまい、後ろに吹き飛ばされた。

 ゴロゴロと地面を転がりながらも、折れた刀を地面へと突き立てて勢いを殺す。攻撃を受け止めた左腕が熱を持ち、ジンジンと鈍い痛みを訴える。


「くっ……」


 歯を食いしばり、ヨロヨロと立ち上がる。吹き飛ばされた衝撃からか、まだ頭が揺れている感覚がする。


 :これ拙くない?

 :拙い。

 :流石に武器無しは……

 :(瑠華)万が一には備えておる。案ずるな。

 :案ずるなって……


 当然瑠華も奏に危険が及ぶような事態は避けたいと思っている。だがそれでは意味が無いのだ。過分な手助けは却って邪魔にしかならない。幾ら歯痒い思いをしても、手を貸したくとも、ただ見守ること。それこそが今の瑠華の役目なのだと。


(じゃがまぁ…これくらいならば許されるじゃろうて)


 本心ではそんな道理が通じる訳も無いと分かっている。しかし、今目の前で傷付こうとしている奏を見過ごす方が耐えられない。


 〈奏。聞こえておるか?〉


「ふぇっ!?」


 突然脳内に響いた慣れ親しんだ声に、ビクッと奏の肩が跳ねる。思わず辺りを見回すも、当然そこに瑠華の姿は無い。


 〈念話というものじゃよ。そこに妾はおらん〉


「あっ、そういう…」


 :何だ何だ?

 :何かあったっぽい。

 :……まぁ十中八九瑠華ちゃん関連だろうけど。

 :それな。


 一部の勘の良いリスナーは若干気付いているようだが、大半は突然独り言を呟いた奏に困惑していた。奏の意識に直接話し掛けているので、瑠華の声はリスナーには聞こえていないのだ。


 〈一つ助言…というよりも、知らせておこうと思うてな〉


「助言……?」


 〈うむ。……奏、そろそろ()()()()()じゃぞ〉


「???」


 毎度の事ながら遠回しな言い方に、奏の頭には大量の疑問符が浮かんだ。とはいえその内容を詳しく聞き出す事も反芻する間も無く、飛びかかって来た敵の攻撃を必死で躱す。


(頃合い…時期…時間…?)


 折れた刀では満足に戦えない。だからこそ先程のように攻撃を受け流すという手段は取れず、大きく間合いを取って回避するしかない。しかしそれは奏の体力を容赦無く奪い去っていく。


「っ…!」


 それが祟ったのか、回避しようとした奏の足が縺れる。もう攻撃は目の前に迫り、躱すには間に合わない。頼みの綱は、手にした折れた刀だけ。

 悩む時間はもう無い。敵の攻撃を見据え、タイミングを合わせる。


「ぁ……」


 その瞬間、短く、小さく、言葉になる前の音が奏の口から零れる。それは、あるものが意図せずに奏の目に飛び込んできた事を示す音で。

 それと同時に、瑠華の言葉が何を意味していたのかを無意識に理解した。


 光の棒が刀にぶつかり、刃の表面を滑っていく。だが先程よりも短くなった刀では、受け流すには長さが足りない。その事を瞬時に把握した奏が、受け流すのではなく攻撃を弾く方向へと意識を切り替えた。


「〜〜っ!」


 腕に魔力を集めて[身体強化]を更に強め、こちらから刀を押し付けてその反動を使って距離をとる。


「相変わらず言葉足らずなんだから……」


 思わず瑠華に対する不満を口にしながらも、その口は緩やかに弧を描いていた。チラリと視線を滑らせれば目に映るソレに、言いようのない“達成感”が胸中を満たす。


 ――――深く刻まれた、“一途”という文字に。


「さぁ、反撃開始だよっ!」


 破損した“一途”を仕舞い、代わりに取り出した一振の刀を掲げて告げる。それは一見すれば先程まで使っていたものととても良く似ているが、その込められた力はまるで異なる。

 紺碧の鞘に収められた刀の柄を握り力を込めれば、それは抵抗を感じさせることも無くその刀身を顕にする。

 鈍く輝く銀の刀身に()の刃紋を浮かべたその姿は、一目で業物だと分かる程の気迫を纏っていた。


(あれ、色違うくない…?)


 いざ抜いたは良いものの、奏は内心首を傾げる。これを初めて抜いた時、その見た目は銀一色であった筈だ、と。


 :おぉぉぉっ!

 :予備…じゃないよねコレ。

 :少なくとも瑠華ちゃんの武器級でしょ。

 :そういえば前にランク低いのを使ってるって言ってたっけ。

 :何故に今?

 :(瑠華)その時が来たからじゃよ。奏が今まで使っていた刀の銘は“無銘”。使用者の実力に応じて自ら銘を刻む武器じゃ。そしてその銘が刻まれた時。それがこれに……“晴雲ノ(しるべ)”に認められる時じゃったのでな。

 :あっそういう事!?

 :(瑠華)説明しておらんかったか?

 :聞いてない。

 :聞いてないよ、瑠華ちゃん……


 そういえばリスナーには説明していなかったかと今更ながらに思う瑠華だったが、当然この流れも今の奏には見えていない。


 :ところでなんて銘になったん?

 :(瑠華)“一途”じゃな。

 :わぁ…

 :なんというか……うん、らしいわ。


『Limit Time ――― 4 : 36』


「ふぇ? りみっと…?」


 ここからどう攻めていこうかと思案していた奏の元に突如現れたのは、タイマーのような表示。それは表記された通り残り時間―――この戦いの制限時間を示すものだった。


 :あ。

 :始まったか。

 :え何何どゆこと?

 :説明しよう! このボス戦には制限時間があるのだ!


 そしてそれこそが、所謂勝つ方法という訳だ。とはいえ奏はそれを知らない。つまりこの時間いっぱい()()()()クリアであるという事が分からない。ならば、突然現れたタイマーをどう理解するか。


「やばっ!? 早く()()()()()!」


 まぁ、当然そうなる。しかしこのダンジョンはクリア方法が確立されているとはいえ、未だに討伐報告がない。それはつまり、それだけ倒す事自体が困難という事の証左だ。


(……まぁ、気付けば倒せるじゃろうが)


 そして瑠華は当然ながら、このボスの倒し方を知っている。更に今の奏であればそれを実現する事が出来るという事も。但しそれは奏がとある事に気付ければの話だ。


 〈……奏、助言はいるか?〉


「いるっ!」


 即答である。【柊】で瑠華が溜息を吐きながら頭を抱えているとは、奏は思いもしていない。


 〈……“眼”を使え。それだけじゃ〉


「め…?」


 また言葉足らずの助言に首を傾げ、攻撃をいなしながらその言葉の意味を吟味していく。


(め、め、…眼?)


 そこでポンッと奏の頭の中に浮かんだのは、〖竜眼〗の存在。思い当たる節はそれだけしか無く、攻撃の応酬を繰り返しながら魔力を目へと流していく。


(このスキル使うのに時間掛かるんだよね……)


 普通のスキルが思考した瞬間に発動するのに対し、〖竜眼〗は事前準備が必要となるスキルだ。これはとある理由からそうなってしまうのだが、当の本人は知る由もない。


 十分な魔力が込められた瞳が、その姿を変えていく。僅かな痛みを覚えながも、敵から視線を逸らさないように目を開け続ける。するとある瞬間から、確かに奏の視界が切り替わった。


(蒼い…光の筋?)


 真っ白な敵に繋がったその導を辿る。するとそれは敵の後ろの奥に続いていて……宙に浮かんだ、時を刻む光(制限時間)の文字へと繋がっていた。


「それが本体かっ!」


 本能的にそれが本体であり、この敵の弱点だと理解する。攻撃を受け流しながら敵の脇をすり抜ければ、途端に敵の動きが慌てたものへと変化する。


「図星みたいだ、ねっ!」


 後ろを全力で追いかけて来た敵に対して魔力弾を撃ち込み、その動きを阻害する。それでも完全に足を止めるには至っていない。


 だがそれでいい。その一瞬さえあれば。



「――――届くっ!!」


 タンっと文字に向かって飛び上がる。刀を上段に構え、これが最後だと全力の魔力を注ぎ込む。その瞬間、一気に奏の中の魔力が刀へと吸い込まれた。


(食べ過ぎ…ッ)


 魔力欠乏に陥った奏の視界がグラつく。だがその視線は狙いから外さない。

 潤沢な魔力を喰らった“晴雲ノ導”が、蒼い光を纏う。刃紋が波打ち、パチパチと溢れた魔力が煌めく。


「―――――これで、最後っ!」


 刀を、力の限り振り下ろす。その切っ先は蒼い軌跡を描き、寸分の狂い無く宙の文字を斬り裂いた。


 訪れる静寂。フワフワとした意識の中、奏の冷静な部分が落下していく感覚を正確に捉えていて。そんな中で視界にチラリと映った『Perfect clear!』の文字に、一気に力が抜けていく。


(あー……無理、これ)


 もう指一本も動かせる気がしない。そこそこの高さはあるが、落ちても多少痛いくらいで死にはしないと思い目を閉じて――――…………




















「――――全く。最後まで世話が焼けるのぅ」


 ぽふっと、受け止められた。


「ぁ……るか、ちゃん…」


 その感覚と聞こえた声に思わず閉じた目を開ければ、こちらを優しく見下ろす瑠華の瞳と目が合って。

 

「良くやったのじゃ」


「えへへ……」


 その言葉を聞いた瞬間、安心したのかコテンと頭を瑠華の胸へと預けて意識を失ってしまった。

 そんな奏を殊更愛おしそうな眼差しで見下ろし、次いで残された浮遊カメラへと視線を動かす。


「配信はここまでじゃ。最後まで見守ってもらい感謝する」


 :いやもぅ…はい。

 :てぇてぇ……。

 :聞きたいこと全部吹き飛んだわ。

 :瑠華ちゃんの眼差しが…眼差しがヤバい……

 :わかる。


 両手が使えないので魔力通信に干渉して配信を停止し、浮遊カメラを回収する。そして奏を横抱きにしながら、起こさないように奥の転移陣までゆっくりと歩き出した。


「………似てきたのぅ」


 そんな事を口走りながら。







『ドラゴンさんの現代転生』が投稿を始めて一年が経過したので、何か作品に関することや執筆に関する事など何でもござれな質問を募集をしたいなぁと思っています。

ほどほどに溜まったら以前のように本編で投げれたらなぁと……(/ω・\)チラチラ


感想、もしくはましゅまろに書いていただけると…何卒m(*_ _)m

↓↓↓

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― 新着の感想 ―
まだ一年?!主観3年くらいだけど!?
更新お疲れ様です。 奏ちゃん、また一つ階段を登りましたなぁ…。憧れ追い付きたい瑠華ちゃんの本当の背中は影すら見えてないですが、一歩一歩着実に強さを重ねて行ってるのは読んでて良い気分になれますね。 質…
なんだろう瑠華とか登場人物のステータスとか? あとは世界観設定とかは気になります。
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