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173話 奏、好き勝手言われる

「忘れ物はないか? 武器の手入れは? それから…」


「大丈夫だから! もぅ、瑠華ちゃんは心配し過ぎっ!」


「しかし…」


「瑠華様、見守る事も大切ですよ。それは貴方様が一番良く理解しておられるでしょう?」


「………」


 そう紫乃から諭されれば、瑠華はもうそれ以上口を開く事が出来なくなる。そうして漸く口を噤んだ瑠華に、ふぅ…と奏が安堵の息を吐いた。とはいえ心配してくれる事自体は嬉しいもので、つい口の端が緩む。

 今日は以前瑠華が話していた試練へと赴く日。前日の段階からしっかりと準備を整え、何回も確認した。今更何か不足しているということは無いだろう。


「じゃ、行ってきますっ」


「気を付けてな。夜までには帰るのじゃぞ」


「分かってるって」


 耳にタコができる程聞いた瑠華の言葉を聞き流し、奏がパタンと玄関の扉が閉まるのを見送ってよしっと気合を入れる。


「頑張ろっと」


 気負わず自然に冷静に。大丈夫、いつも通りすれば問題は無いはずだ。

 少しの緊張に何度か手を握り直しながら、奏はその足を踏み出した。



 ◆ ◆ ◆



 瑠華が提示した【電脳ダンジョン】は、つい先月出来たばかりのダンジョンだ。故に例え事前に調べても情報は少なく、だからこそ瑠華はここを選んだ。

 ―――未知に対応する力を付けさせる為に。


「一応軽くだけは瑠華ちゃんから聞いたけど……」


 出現するモンスターの種類等といった内部情報は教えてくれなかったが、構造そのものは教えてくれた。

 今回の【電脳ダンジョン】は変化型ダンジョンであり、その変化の周期は“新しく人が入った時”だ。つまり何度潜っても同じ構造を攻略する事は出来ない。加えて既に入っている人が居た時に別の人が入ると構造が変化してしまう為、一度に入れるのは一つのパーティだけとなっている。


 奏としても初めてとなる変化型のダンジョン。それが奏に一体何を齎してくれるのか。瑠華でもそれは予測出来ない。だが悪い事にはならないはずだ。



「おぉ…ここが……」


 バスと電車を乗り継いで数十分。奏は漸く【電脳ダンジョン】の入口へと辿り着いた。その入口はとあるゲーム屋の裏口であり、その扉の向こう側にはグルグルと不可思議な光が渦巻いていた。

 早速その近くで待機していた協会職員に予約していた旨を告げると、丁度前に予約していたパーティーが出て来たところだという事でそのまま中へと足を踏み入れる。


「っ……わっ!?」


 一瞬の浮遊感の後奏の視界に広がったのは、真っ黒な空間に色とりどりの光の線が四方八方から飛び交う様子。今まで潜ってきたダンジョンとはまるで違うその光景に、思わず暫し呆然としてしまう。


「これが、電脳…」


 実際には電脳が何を意味するのか全く分かっていない奏だが、何となく何故こんな名前が付けられたのかは分かったような気がした。


 気を取り直して腰に佩いた刀に手を添えつつ、先へと進もうと一歩足を踏み出す。だが光が飛び交う空間は常に周りの景色が変化し続けているようなものなので、進むべき指標や目印となるものが無い。これでは前に進みたくても進めない。


「んー…あ、取り敢えず配信付けなきゃ」


 どう進もうかと思案したところで、まだ配信を初めていなかった事に気付く。前回配信を行ったのは修学旅行前だった事も相まって、すっかり配信というものが頭から抜け落ちていた奏だった。


 腰に付けたポーチから浮遊カメラを取り出して浮かべ、配信開始のボタンを押す。その後スマホを取り出してチャンネルのアカウントへログインすれば、ポツポツとコメントが届き始めたのが見えた。


 :お久!

 :待ってました。

 :およ? 奏ちゃんだけ?


 早速瑠華が居ない事に気付いたリスナーに苦笑しつつ、奏がカメラへと目線を送る。


「こんにちは…でいいのかな。久しぶりにダンジョン配信していくよっ!」


 :マジでお久よね。

 :今日は何が見れるのか…

 :いや、瑠華ちゃんいなそうだし今日はマシ…の筈。


「そんな瑠華ちゃんがトラブルメーカーみたいな…」


 :まぁ、事実だし。

 :間違ってないし。

 :奏ちゃんも何かと巻き込まれるけど、元はと言えば瑠華ちゃんのせいな場合が大半だし。


 あまりにもな評価だがそれを否定するだけの言葉も無く、曖昧に笑うしか無かった。


「あははは……きょ、今日はね、皆も気付いてる通り瑠華ちゃんは居なくて…私だけでダンジョン攻略していくつもりだよっ」


 :ソロ?

 :マジで瑠華ちゃん居ないのか……

 :でも絶対配信見てるよね。

 :(瑠華)しかと見ておるぞ。

 :やっぱり居たwww


 案の定コメント欄に現れた瑠華にコメントが沸き立ち、奏はちゃんと瑠華が見ているという事に安心感と何処か緊張感を覚える。


 :でもなんでいきなりソロなん?


「あっ、それはねぇ…瑠華ちゃんから課せられた試練のせいだよ」


 :試練?

 :瑠華ちゃんからの試練とか聞きたいようで聞きたくない。

 :それはそう。

 :奏ちゃん相手の試練…独り立ち?

 :それだ!


「それだじゃないから。違うからね。あいやでも強ち間違いでもない……?」


 :独り立ちじゃないの?

 :(瑠華)妾からの依存の脱却という面では正しいのぅ。

 :なる。

 :俺らとしては大いに依存してもらっても…

 :駄目駄目な奏ちゃんを何処までも甘やかす瑠華ちゃん見たい。

 :それ何時もの事では?


「もうっ! 私はそんなに駄目じゃ……駄目じゃ、ないもん……」


 好き勝手言い始めたリスナーに勢い良く噛み付いたまでは良かったものの、改めて言葉にすると自信が無くなったのかどんどん声量が尻すぼみになっていく。

 流石にそんな奏の様子が可哀想に見えたのか、コメント欄に謝罪が溢れた。それを見て何とか気持ちを持ち直し、やっと本日の本題へと触れる。


「謝るくらいなら最初からもうちょっと私に温情を掛けてね……えっと、そんな訳で今日は【電脳ダンジョン】ってとこに来てます」


 :おっ、帰ってきた。

 :【電脳ダンジョン】?

 :最近出来たばっかのダンジョンだっけ。


「そうそう。でも私は瑠華ちゃんから調べるのを禁止されたから、あんまり詳しい事は分かんないんだよね」


 :何故に…?

 :(瑠華)事前に知ってしまうと面白くないじゃろう?

 :そうだった瑠華ちゃんってそういう子だった……。

 :瑠華ちゃんだもの。

 :いやまぁその考えも分かるけど。このダンジョンの場合は特に。

 :有識者!


「あっ、知ってる人いるんだ。えっと…瑠華ちゃん、これって聞いても良いやつ?」


 :(瑠華)奏が既にソレを見た後の情報ならば構わんよ。

 :ソレとは。

 :瑠華ちゃんの言わんとする事が分かった。最初にアドバイスするのは?

 :(瑠華)直接内容を話さないのであれば問題無いのじゃ。

 :おけ。んじゃまぁ奏ちゃんにアドバイス…()()()ね。


「程々……?」


 あまりにも主語が無いアドバイスに首を傾げるしかない。何を程々とすれば良いのか、そもそも程々にする理由は何なのか。


「……ま、行けば分かるよねっ!」


 奏は思考を放棄した。


 :そうだった奏ちゃんってこういう子だった……。

 :デジャブで草。

 :まぁお似合いという事でwww






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