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159話 ドラゴンさん、ダンジョンをこじ開ける

 情け容赦無く稲荷神を引き摺り、次に瑠華が足を止めたのは千本鳥居を潜り始めて少しした場所だった。


「な、なんで私も…」


「お主の領域の問題じゃろうて。乞われた以上手助けはするが、全てを成すつもりは無いのじゃ」


「で、でも私まだ弱いですし、足手纏いに…」


「ならん。妾がそうさせん。何があろうと心配する必要は無い」


「……」


 自分より遥かに高位の存在からそう言われてしまえば、もう言い訳など出来る訳がなかった。


「大方力を使う場面に恵まれなかった故に自信が無いのじゃろうが、元々古参の一柱であろう。なればそれ相応の力を持っておろうに」


「…瑠華様には到底及びませんよ」


「当然じゃ。言い方は悪いが、たがたが神如きに遅れを取る妾ではない」


「ならもう瑠華様だけで…」


「それでは意味が無いと言っておろうに。そろそろ腹を括るのじゃ」


「うぅ…」


 未だ唸る稲荷神を放置して、瑠華が違和感を感じた場所へと手を伸ばす。すると結界とはまた違う抵抗感が伝わり、それに従って無い入口を指をねじ込んでこじ開ける。


「力技…」


「それ以外方法はあるまいて」


 無理矢理開いたダンジョンへと入口は歪で、今にも閉じてしまいそうだ。そう何度もこじ開けるのは推奨出来ないので、足早にその中へと足を踏み入れる。当然稲荷神の首根っこをつかんで。


 そうしてダンジョン内に入った瞬間、瑠華が感じたのは……浮遊感だった。


「みゃぁぁぁぁっ!?」


「…まるで猫じゃな。しかし足場が無いとは…」


 悲鳴をあげながら落下していく稲荷神を眺めつつ、このダンジョンの構造について思案する。

 元々ダンジョンには様々な形が存在している。瑠華達が潜った事のある洞窟型や、平原型に始まり、果ては水中型などもある。しかし、空中型などは瑠華の知る限りでは未だ発見されていないはずだ。


「落ちる落ちる落ちるぅぅ!!」


「やれやれ…」


 情けない声を上げる稲荷神に溜息を吐きつつ、身体を縦にして一気に降下。雲の中でジタバタと暴れる稲荷神を両腕でがっしりと確保すると、翼を開いてブワッと雲の上まで舞い上がった。


「ぐえっ」


「む。すまんの」


 その際速度が減速した事による衝撃で稲荷神のお腹に瑠華の腕が食い込み、苦しげな声を零す。だが瑠華の謝罪は随分と軽いものだった。稲荷神は地味に傷付いた。


「も、もう少し温情を…」


「そも其方、霊術なり何なりで飛べるじゃろ」


「そんな便利なものじゃないですよ! 精々水とか火を出したり、怪我の治りを早くしたりくらいしか出来ません!」


「そんなものなのか?」


「瑠華様が異常なんですよぅ…」


 そもそも全ての祖とも言える存在なので、その評価は当然ではある。だが瑠華は決して稲荷神を過大評価していた訳ではない。霊術の出来る範囲に関しては、瑠華自身使えるという事もあって知っていたからだ。


(妾の認識がずれておると言うよりは…此奴の実力不足か)


 戦など起きなくなって久しい昨今だ。その力を振るう機会に恵まれなければ、当然実力など付きようもない。更に元は古参とはいえ、今は代替わりをした身。全盛期の力はとうに失っているのだろう。いや、()()()()()()とみるのが正しいだろうか。


(そも精神生命体に寿命は無い。であれば代替わりなど不要のはずじゃ)


 稲荷神は言った。代替わりでは無く生まれ変わりに近いと。だが、それではまるで力を持ち過ぎないようにしているかの様で。


(信仰心は十分。しかし神秘は足りぬか…器が足りんのじゃな)


 力を持っていたとしても、それを留められるだけの器が無ければ意味は無い。稲荷神という器が、もうその役目を果たせない程に小さくなっているとすれば。


(最適化する為の生まれ変わり。必要最低限の能力を残して、か)


 そう考えれば辻褄は合う。それに何の違和感も抱いていない様子を見るに、恐らく記憶も失っているのだろう。


「あっ! 見てください瑠華様! 地上が見えます!」


「ん?」


 稲荷神から呼び掛けられ思考を戻すと、確かに雲の隙間から地上らしき物が見えた。翼を畳んで雲の下へと降りれば、それが紛れも無い物だと確信する。


「入口は空に。舞台は地上に、か」


「瑠華様の様な方でなければ大変そうです」


 確かにと瑠華が頷く。瑠華の様に飛ぶための能力を持っていなければ、確かに入った時点で詰みだろう。


 取り敢えず高度を下げて地上へと近付いていく。すると地上の様子がだんだんと見えてきた。


「…家ですね」


「じゃな。それも随分と古風な…」


 そこにあったのは、古き良き日本家屋の姿。そこまでの数は立ち並んでいないものの、どれも現代ではあまり見ない造りだ。


「離すぞ」


「はい…っとと」


 充分に近づいた所で稲荷神を手放すと、少しふらつきながらもしっかりと着地した。瑠華もその隣へと足を着けると、もう必要が無くなった翼を仕舞う。


「人の気配がありませんね」


「うむ。それに建物も少し草臥れておる。人が居なくなって久しいようじゃな」


 土壁が崩れ、屋根には草が生えている建物が幾らか目に付く。明らかに人が住んでいる様子は無い。


「うぅ…こ、怖いです…」


「何を恐れる必要があるのじゃ。死なんじゃろ、其方」


「死にますよ!? ここは理が違うんですから!?」


「…確かにその問題があったのぅ」


 ダンジョンは栞遠が異界と称したように、現世とは異なる世界という扱いを受けている。なれば当然現世における理も通じない。


「まぁ最悪死んだとしても妾が蘇生してやろう」


「ひぇっ…」


「ほれ、早う行くぞ。妾は忙しいのじゃ」


 怯えて足が竦んでいる稲荷神の事など知らんとばかりに、瑠華がずんずんと先へ進んでいく。


「ま、待ってくださぃぃぃ!!」


 本気で置いていくつもりだと気付いた稲荷神が、慌ててその後を追い掛ける。攻略は、まだ始まったばかりだ。





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