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153話 ドラゴンさん、つぼ湯に入る

 夕食は宴会場で行われ、豪華な京懐石料理が振る舞われた。特に瑠華はその中でも湯豆腐に使われていた豆腐が気になった。


(ここまで濃い物は初めてじゃ…土産として買えれば皆も喜ぶかのぅ)


 折角の美味しいものは【柊】の皆にも食べさせてあげたい。普通ならばそこまでの量を持って帰る事は出来ないだろうが、そこは瑠華なので問題外だ。


「瑠華ちゃんそれ気に入ったの?」


「うむ。奏はどうじゃ?」


「私は魚かな」


 奏が焼き魚を箸で綺麗に解しながら口に運び、その味に舌鼓を打つ。するとそんな様子を見ていた雫がぽつりと呟いた。


「なんか…意外だわ」


「ん? 何が?」


「いや、かなっちって瑠華っちにおんぶにだっこだから、魚も解して貰うかと思ったから」


「あー…実は前まではそうだったんだよ。でも流石に下の子達に示しがつかないからさ……」


 奏は普段瑠華に頼りがちだが、年長者としての自覚もちゃんと持っている。なので流石にそろそろ駄目だろうとある日思い立ち、箸の持ち方や食べ方を瑠華に教えて貰ったのだ。


「あーね。妹達が居るとそういう所気にするようになるんだね」


「まぁね。下の子達が憧れるのは当然瑠華ちゃんだし、実際はそこまで見られてないと思うけど」


「いや? 存外見ておるものじゃぞ? 特に奏が何かに向かってひたむきに努力する姿はのぅ」


「そなの?」


 信じられないと言いたげな奏に、瑠華がゆっくり頷く。

 最初から全てを熟せてしまう瑠華とは違い、奏は一から努力して今の力を勝ち取っている。奏は気付かずとも、その姿を下の子達はしっかりと見ていた。なので寧ろ尊敬という面では、瑠華より奏の方に軍配が上がっていたりする。


「瑠華っちは努力とか見せないタイプ?」


「瑠華ちゃんそもそも努力しなくても出来ちゃうタイプだから」


「……まぁ、否定はせん。じゃが努力をしないという訳でもないぞ?」


 確かに瑠華はやれば大抵の事は直ぐに出来てしまうタチだ。だが全く努力していない訳では断じて無い。


「でも見た事無いよ?」


「特段見せるものでも無いからの。それに時間帯の問題もある」


「皆が寝た夜遅くにって事?」


「うむ」


「そういう時瑠華ちゃん魔法で音消せるから便利だよね…何してるの?」


「基本勉強じゃな。学業もあるが、資格の物も多い。後は料理も含まれるかの?」


 瑠華の料理のレパートリーは幅広い。だがそれは瑠華が人知れず試作を繰り返した事による努力の賜物だ。


(思えば遥か昔から努力は重ねてきたのぅ…)


 今も昔も、瑠華は努力を重ねてきた。母から殆どの権限を渡され(許され)ているのも、それに見合う努力をしてきたからなのだ。


(あの時母君に逆らわなければ、今の妾はおらんかったじゃろうな)


 母は瑠華―――レギノルカをそれはもう溺愛した。元々は仲間として創り出したつもりだったのだが、いざ創ってみればもう娘としてしか見れなかったのだ。そして子を持つという事が初めてであった母は、その加減を見誤った。

 護らねばと思いレギノルカを囲い、高い潜在能力と生まれ持ってしまった権限を制限した。それに対して母の助けになりたかったレギノルカは反抗し、その制限を努力して引き千切ったのだ。

 そのせいで元々の能力にレギノルカが努力した事によって獲得した能力が加わり、母でさえ予想外の力を付ける事になったのだが……幸いにも底知れぬ愛情を注がれたレギノルカが歪む事は無く、母がこっそり安堵していたのは内緒である。


「瑠華ちゃんがこれ以上努力したら益々追い付けなくなる…」


「追い付く追い付かないという問題ではなかろうに」


 瑠華は奏に期待している。だが追い付けるなどとは一ミリも思っていない。それだけ瑠華は自らの力を理解し、誇りと自信を持っているのだから。

 しかし…いやだからこそ、追い付く事こそが大切だとは思っていない。


「…諦めるのは簡単じゃからの」


「ん? なんか言った?」


「いや、なんでも無い」



 ◆ ◆ ◆



 夕食を終えれば、残すは入浴だ。この旅館には天然温泉の大浴場があり、何気に瑠華は気になっていた。


「瑠華っち相変わらず肌白過ぎ…」


 服を脱いだ瑠華に雫がそう羨望の眼差しを向ける。瑠華が日焼けや肌荒れなどとは無縁と聞けば、更に嫉妬で怒り狂いそうである。


「これで大したスキンケアして無いんだから世の中不公平だよね」


「……一応そういった魔法はあるが、知りたいかえ?」


「「「知りたいっ!」」」


 良かれと思い軽く提案すれば思いの外熱量の高い返答があり、瑠華が思わず仰け反った。


「知りたい、けど…誰でも使えるの?」


「魔法と言ったが、魔力の扱いさえ出来れば問題ないものじゃ。雫が問題無く魔力を扱えるのは知っておるが、小百合はどうなのじゃ?」


「…実はあんまり自信無い。一応魔力はあるし、感じる事も出来るけど」


「ふむ…であれば「私が教えてあげるね!!」」


 瑠華の言葉を奏が遮る。その声には何処と無く焦りが見え隠れしていた事に気付いたが、教えるならば奏の方が適任だと思いそれ以上は口を噤んだ。


「そ、そろそろ入ろっか。魔法に関しては部屋に戻ってからって事で」


「そうじゃな」


 雫が不自然に止まってしまった会話の流れを切り替え、漸く大浴場へと繋がる扉を開く。その途端むわっとした熱気と共に真っ白な湯気が漂い、温泉独特の匂いが瑠華達の鼻腔を刺激した。


「おー、前行ったとこより広くない?」


「広いじゃろうな。【白亜の庵】よりこの旅館の方が規模は大きいでの」


 瑠華達が以前泊まった【白亜の庵】はそこまで大きな旅館ではなく、お風呂に関しては中に二つ、露天が一つといった具合であった。しかし今回の旅館は中に四つ、露天が三つとかなり規模が大きいものとなっている。


「外に壺のお風呂もあるみたいだよ」


「壺?」


「一人用露天風呂みたいなやつ。瑠華っちと入って来れば?」


「! そうするっ!」


 雫からのパスに目を輝かせた奏が、手早く髪と身体を洗って瑠華の手を引いた。


「いこっ」


「これ。走ると危ないぞ」


 喜色を滲ませながら急かす奏に、瑠華が苦笑しながらも素直に引っ張られる。外に出れば秋の訪れを思わせる冷たい夜風が肌を撫で、奏だけぶるりと身体を震わせた。


「これ、だよね?」


「つぼ湯と書かれておるし、間違いないじゃろ」


 寒さに耐えながら少し進めば、つぼ湯の全貌が顕となる。横並びになった陶器の壺は全部で三つあり、その全てに並々とお湯が注がれていた。大きさは大の大人一人が丁度入れる程だろうか。小柄寄りな瑠華と奏ならば、二人入っても問題無さそうだ。


 早速とばかりに奏が髪を上げてお湯の中へと身を滑らせると、一気に押し退けられたお湯が溢れ出す。


「瑠華ちゃんも入ろ!」


「面白い風呂じゃのぅ」


 奏に誘われるまま同じ壺へと足を入れ、ざぶんと肩まで浸かる。流石に二人入ると中々に狭いが、それはそれで身を寄せ合う形となるのでより温まるような気がした。


(……のぼせそう)


 奏の場合は沸騰しそうになっていたが。


「小さい子らも喜びそうな風呂じゃな」


「そ、そだね…」


「奏? 何故そうも端に寄るのじゃ? まだこちらに余裕はあるぞ?」


「あ、いや…壁に寄りかかってた方が、安心する、からさ…」


「ふむ…?」














 ―――一方その頃、別の露天に入っていた雫と小百合はと言えば。


「ヘタレ」


「ま、まぁそう言わずに…」


「…いっその事部屋二人っきりにするか」


「それは普段とあんまり変わらないんじゃないかなぁ…?」


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