150話 ドラゴンさん、ぶっちゃける
時は少し流れ、学校生活最後の一大行事である修学旅行の日となった。因みに今回の修学旅行先に決定されたのは京都である。
「結局瑠華ちゃんに任せっきりになっちゃってごめん」
「何を言うか。これは妾が望んでした事。奏は奏の成すべきと思った事を成したのじゃから、気にする必要は無い」
「その点で言うなら成したい事すら成せてないんだけどね……」
奏の成したい事といえば、当然瑠華を休ませる事である。なので瑠華に仕事を任せてしまった時点で、達成出来ていないのだ。
とはいえ瑠華としては修学旅行の実行委員など勿論経験した事が無いものなので、奏が他の事をしてくれていたお陰でそちらに専念出来たので感謝しかなかった。
修学旅行で京都まで向かう事になっている瑠華達だが、その旅行手段は新幹線である。なので当日の実行委員としての最初の仕事は、駅に集まったクラスの人数を確認する事だ。
「よし、全員居るな」
「まだ私数え終わってないんだけど…」
奏が早速数えようとしたところで、瑠華が一瞬で人数を数え終えてしまう。個々人の魔力の波長を全て把握出来る瑠華にとって、人数確認など数秒も掛からないのだ。
確認が済んだ事を担任に報告し、全クラスの確認が終わったところでいよいよ新幹線へと乗り込む。
「新幹線って初めてだね」
「遠出をそもそもせんからのぅ。飛行機に乗るよりは現実味があるのじゃろうが…」
「皆で出掛けるってなると、結局ハードル高いかも」
何処か遠出をして遊びに行くのであれば、当然【柊】の全員とになる。そして全員の予定が空くのは夏休みなどの繁忙期。中々纏まった予約を取るのは難しいだろう。
「いっその事瑠華ちゃんに飛ばして貰うって手も…」
「それでは旅行の醍醐味が無くなるじゃろ」
「出来ないとは言わないんだね…」
「………」
実際の所、瑠華であればダンジョン外であろうと問題無く転移する事は可能だ。もし瑠華が行った事の無い場所であろうと、翼で飛べば一瞬で解決出来る。
しかしそれでは旅行の醍醐味たる移動の過程は無くなり、情緒が失われてしまう。瑠華としてはそれが嫌だった。
「瑠華ちゃんってどこまで出来るの?」
「その質問は漠然とし過ぎではないかえ?」
「あー…えっと、ダンジョンの外って魔法とかスキルとかの効果が減少したりするでしょ? でも瑠華ちゃんはその減少を受けてない気がするから、どこまでダンジョン外で出来るのかなって」
「ふむ…そも減少していないという話じゃが、妾も当然その対象には含まれておるぞ?」
「そうなの?」
「ダンジョン内外でそうした減少が起こるのは、大気中に存在する魔力の濃さに影響を受けておるからじゃ。外はダンジョン内部より魔力が薄いでな。妾にも当然その影響はあるぞ。妾の場合、内包する魔力でそれを補っているだけに過ぎん」
この世界は後天的に魔法やスキルという概念が適応された為、そのシステムに対応したダンジョン内部と対応していない外部では魔力の濃さに差が生じている。
大気中の魔力は魔法やスキルを発動する際に補助を行う役割があり、ダンジョン内部であれば魔法やスキルはその分少ない魔力で行使する事が出来る。簡単に説明するならば、ダンジョン内は補助輪付き。ダンジョン外は補助輪無しという状態だ。だからこそ、ダンジョン外では魔法やスキルの効果が減少したように感じるのである。
そして瑠華の場合はそもそも魔法やスキルの基盤を作った存在である為、そういった補助を必要としない。全て自前で用意出来るからこそ、ダンジョン内だろうが外だろうが関係無く魔法やスキルを行使出来るのだ。
「故に妾にダンジョンという縛りは存在せんのじゃよ」
「なる、ほど…? つまり普段使う時に消費する魔力量よりも多く魔力を注げば、ダンジョン外でも違和感無く使えるって事?」
「魔力をただ注ぐだけでは無意味じゃ。それに“方向性”を持たせねばのぅ」
「……?」
「なんと言えば良いか…魔力はただ魔力でしかない。魔法を扱うならば魔法の魔力を。スキルを扱うならばスキルの魔力を。というように、魔力に“形”を…“意味”を持たせねばならん」
「形…意味……」
「そしてそれを成す為に用いるのが、魔法文字という訳じゃ」
「あっ、成程。……え、あれ使うの!?」
一瞬納得した奏だったが、その言葉の意味を真に理解した瞬間驚愕した声を上げる。なにせ魔法文字とは片手間で使える程簡単な物では無いと、奏は身を持って知っているからだ。
「あれは魔力を扱うのに特化した文字じゃ。使い熟せれば、自ら魔力に“意味”を持たせられる。魔法の形や属性、スキルの威力や範囲を好きなように変化させる事が可能じゃ」
「属性…範囲…」
「だからこそ、この文字は危険が伴う。自らの力量を理解しないまま不相応な規模の意味を持たせた場合…待ち受けるのは暴走じゃ」
「っ…」
「爆発する程度ならばまだ良い。じゃが最悪の場合、足りぬ魔力を補う為に生命力を犠牲にする可能性がある。特に今の奏は注意すべきじゃな」
「今?」
「今の奏は魔力が生命力に紐付き過ぎておる。故に魔力が足りなくなれば、生命力を代わりに使ってしまう可能性が高いのじゃ」
奏の胸元に埋まってしまった宝石。それはモンスターが持つ魔核と極めてよく似た役割を果たしてしまっている。なので今の奏は魔力切れになると危険なのだ。
「まぁ妾の魔力を受け入れておる上、奏の魔力量であれば問題は無いとは思うがの」
「私の魔力量? そんなに多くないでしょ?」
「それは妾が制限しておるのじゃよ。妾と長く連れ添っておる故に、幼い身体には不相応な程の魔力を持ってしまっておったからのぅ」
「えー…」
制限していた事に対してとやかく言うつもりはないものの、せめて一言くらい説明は欲しかった奏である。
「じゃから奏は魔力量が増えているというより、戻ってきているが正しい。無理矢理魔力を消費してもそこまで苦痛を感じないのはそれが原因じゃの」
「あっ、あれそういう事?」
以前魔力を増やす手段に関して瑠華が奏に話した時の事を思い出し、漸く合点がいったとばかりに頷く。が、それでも分からない事はまだあった。
「でもあの時、答えるのは意味が無いとかって言ってなかったっけ?」
「それはのぅ…もしあの時の奏がそれを知れば、確実に無茶をするだろうと思ったからじゃよ」
「……つまりそれっぽい事言って追求かわしたって事?」
瑠華が静かに頷いた。奏が瑠華の事を良く理解しているように、瑠華も奏の事を良く理解しているのである。




