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15話 奏視点

 瞼の上から感じる強い陽の光に、微睡んでいた意識が呼び起こされる。寝ている間にブランケットがずり落ちたのか、少し肌寒い。


「んん…」


 つい温かさを求めて手を伸ばしても、そこには安心する存在を感じる事が出来なかった。


「あ、れ…瑠華ちゃん…?」


 目を開けばそこには誰も居ない。そのまま目線を壁掛け時計に滑らせると、時刻は十二時過ぎ……


「寝すぎたっ!?」


 ガバッと勢い良く跳ね起きて、慌ただしく学校に行く準備を───………


「───あっ、祝日か」


 思い出した。今日休みだ。だから瑠華ちゃんも起こしに来なかったのかと理解する。


「んー…まぁ起きよう」


 少し身体がギシギシする感じがあるけれど、何時までも寝ている訳にはいかない。

 先程とは打って変わってゆっくりと着替えを済ませて部屋を出る。多分この時間瑠華ちゃんは居間で本を読んでいる筈。


「……あれ? 居ない…」


 テレビの前に置かれたソファー。そこが瑠華ちゃんの定位置で、何時も傍に【柊】の子達が座っているのだけれど、今日はそこに姿が無かった。


「あ、かーねぇ。おそよう」


「う、うん…(あかね)、瑠華ちゃん知らない?」


 瑠華ちゃんの代わりにソファーに座っていたのは、今年で小学三年生になった茜だった。

 茜に瑠華ちゃんの居場所を聞いてみると、無言で冷蔵庫のホワイトボードを指差した。


「何何…『瑠華お姉ちゃんとお出掛けしてきます。凪沙』……」


 ……えっ。


「やーい。ねとられー」


「ちょっと茜っ!? そんな言葉何処で覚えてきたの!?」


 なんか知らない内にすっごく悪い言葉覚えてるんですけど!? い、いやまぁ別に? 瑠華ちゃんが他の子と出掛けたからってそんな気にしたりなんて……


「しっとぶかいおんなきらわられるー」


「ほんとに何処で聞いてきたのっ!?」


「きゃー!」


 私が詰め寄ると、楽しげな悲鳴を上げながら茜が部屋へと走って行った。全く…茜は瑠華ちゃん大好きっ子だから、度々瑠華ちゃんと仲が良い私をからかってくるんだよね…。


「……凪沙辺りが教えてそうだね」


 凪沙は…何と言うか私をライバル視している節があるからね。私の精神を削る言葉を教えてそう。

 というか、【柊】の子達が結構私に対して嫉妬してるんだよね。勿論瑠華ちゃんの隣は譲らないけど。歳下だからって容赦はしないのだ。


「瑠華ちゃん居ないのかぁ…」


 まだ身体が本調子じゃない感じがするから、瑠華ちゃんに膝枕でもして貰おうと思ってたんだけどなぁ〜。


「仕方が無い。ちょっと柔軟でも…」


 グゥー…


「…の前に何か食べよ」


 私達が過ごす【柊】は、国からの援助で運営されている。と言っても基本は【柊】の子達(主に瑠華ちゃん)で管理していて、平日だけ晩御飯を作りにパートの人が来る。休日の晩御飯は瑠華ちゃんや私、そして瑠華ちゃんから許可された子が担当。…まぁほぼ瑠華ちゃんがやってるけど。ただし昼食は各々って感じだから…ちょっと面倒臭い。


「散らかしたら瑠華ちゃんに怒られるから、簡単に済まそ」


 瑠華ちゃんは綺麗好きなので、普段温厚な瑠華ちゃんでも汚す子には容赦しない。なので【柊】は常に綺麗です。皆瑠華ちゃんに嫌われたくないからね。


「うーんと…こんな時カップ麺とかあればなぁ」


 でも瑠華ちゃんが許してくれないので、【柊】にインスタントは殆ど無い。有ってもパスタとかの乾麺くらい。


「パスタでいっか。ソースはあるし」


 ちなみにパスタソースは市販品じゃなくて、栄養を考えて瑠華ちゃんが作った物です。小分けにして冷凍されてるんだよね。便利だし美味しいから、皆よく食べてるやつだ。

 ……ていうか瑠華ちゃんこれ何時作ってるんだろ。私が寝てる朝に作ってたりするのかな。


 フライパンを取り出してパスタを茹でつつ、電子レンジでソースを解凍。茹で上がったパスタに半解凍状態のソースを盛り付けて混ぜ合わせれば、今日の昼食は完成。あと冷蔵庫にサラダが残ってたからそれも食べよう。


「頂きますっ!」


 パスタを啜りつつスマホで届いていたメッセージの返信。瑠華ちゃんが居るとはしたないって怒られるけど、今は居ないから無問題(モウマンタイ)


「……瑠華ちゃん何処行ったんだろ」


 凪沙とお出掛け…多分デートって訳じゃない思う。凪沙はどう思ってるかは知らないけど、瑠華ちゃんそういうのに興味無いから。

 ここから歩いて向かえる遊べる場所なんて昨日瑠華ちゃんと行ったショッピングモールくらいしかないし、多分そこかな?


「ご馳走様でした」


 食べ終わったお皿をシンクに置いて水を掛けておく。私は料理しないけど、その分後片付け担当だからね。ちゃんと浸け置きしとかないと。


「んー…スキルの影響かぁ」


 昨日帰って目を覚ましてから瑠華ちゃんから聞いたのだけれど、どうやら私は固有スキルを発現したらしい。身体がまるで筋肉痛の様にギシギシするのはそれが原因なんだって。



 〖名称未定〗

 ただ、鋭く。ただ、硬く。ただ、それだけを。



 これが私が発現した固有スキル。身に付けたスキルは探索者のカードで確認出来るのだけれど、一応本能的にも理解出来る。

 ───で、そこから分かるのは……私、このスキル使えない。


 というのもこのスキル、簡単に言うなら魔力を消費して刀を強化するっていうシンプルな内容なのだけれど…その肝心の魔力が私全然無いのよね。

 魔力は今時感じられない人の方が少ないとまで言われる力だけれど、その量はピンキリ。ダンジョン協会が開発した計器で測った結果からすると、私はかなり少ない方だ。瑠華ちゃんは……うん。また壊してたね。もう驚かないよ。


「魔力かぁ…」


 魔力は当然鍛える事も出来る。でもかなり大変。

 一番手っ取り早いのは、魔力を消費し続ける事。でも私は瑠華ちゃんみたいに魔法は使えないから、消費する手段が今回獲得したスキルしかない。そして私はそのスキルを使い続けるだけの魔力が無いから……使ったら気絶するね。


「んー……まぁ瑠華ちゃんが居る時なら気絶してもいいかな」


 それこそ気絶したら瑠華ちゃん独占……うふ。


「しつこいおんなきらわれる〜」


「…………」


 ……執拗く無いもん。無いよね? ……ヤバい。自信なくなってきた。取り敢えず茜は締めよう。そうしよう。









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