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134話 奏視点

「うぅ…」


 突然眩しい光に包まれて暫く。閉じていた瞳を開けば、目に飛び込んできたのは先程までいた森ではなく、何も無い真っ白な空間。


「ここは…? 瑠華ちゃん…?」


 つい心細くなって瑠華ちゃんを呼ぶ。けれど声は返ってこなくて、不安に飲まれる。


『被検体一号を検知』


「っ!?」


 そんな中で突如として響いたのは、何処か無機質な機械的な音声。ひけんたい……?


『これより、“試練”を開始します』


「試練…?」


 何も分からない。何でも教えてくれる瑠華ちゃんは今居ない。それでも事は私を置き去りにして容赦無く進んでいく。


 試練を開始という声が聞こえて少し。ぽわっと光が立ち上がって、舞い散る光の粒が形を成していく。それは一体だけではなく、次々に。

 そうして光が成した形は、ゴブリンやウルフ、ホーンラビットにラムクロウといった私にとってよく知る存在で。


「っ……」


 思わず手に力が入る。するとカチャリと金属質の音が聞こえ、そこで漸く腰に佩いた“無銘”の存在に気付いた。

 刀を抜く。やる事は、変わらない。違うのは瑠華ちゃんが居ない事だけだ。


 ウルフが吠える。それを号令として、一斉にモンスター達が襲い掛かってきた。

 まず最初に近付いてきたのはウルフ。この中でもっとも足が速いのだから、それは必然だろう。


「っ!」


 ウルフとの戦い方は慣れている。今更慌てる物じゃない。

 飛び掛ってきた無防備なウルフの首を下から切り裂き、《疾風》で吹き飛ばして視界を確保。後続の噛み付き攻撃は少し後ろに跳んで躱しつつ、[身体強化]を足に集中して今度はこっちから一気に肉迫。狙うのはこれも首。動きは瑠華ちゃんが見せてくれた〖鳴神〗を見様見真似で。

 切り飛ばすのは非効率だから、三分の一まで刃を食い込ませて掻き切る。


「グルァッ!」


「ちぃっ!」


 最後の意地で噛み付いてきたウルフの牙に刀を添わせて去なし、崩れた体勢を整える。その時耳が微かに響く風切り音を捉え、咄嗟に上体を逸らす。その瞬間目の前を急降下してきたラムクロウが通り過ぎ、間一髪だったと胸を撫で下ろす。


 一対多に関しては、そこそこ経験値を積んできたと自負できる。流石にこの数を相手にするのは初めてだけれど……私ならやれる筈だ。こんなところで、足を止める訳にはいかない。


 ラムクロウの動きを警戒しつつ、追いついて来たゴブリンとホーンラビットを見据える。ゴブリンは全部武器持ち。ホーンラビットは全て角の色が明確に黒ずんでいる。


「ギャギャッ!」


 ゴブリンが持っているのは間合いの短いナイフばかり。動きも振り回すだけでお世辞にも上手いとは言えない。だからこそ気持ちに余裕を持ちつつ、ホーンラビットの動きを警戒する。瞬発力は侮れないし、鳴き声もなくてタイミングが図りづらいから。


 頭がズキズキする。三次元的に戦況を見るだけじゃない。見る場所があまりにも多すぎる。改めて瑠華ちゃんの視野の広さの異常さが理解出来るよね……。


「…っ」


 避け損なったラムクロウの刃が腕を掠める。じんわりとした熱とピリッとした痛みが、ここが現実だと否応無しに告げてくる。


「絶っ対、負けないんだから…っ!」


 訳も分からず飛ばされて、何をやらされているのかも、どこが終わりなのかも、そもそも終わりがあるのかも分からない。でも諦めるつもりなんて端から無くて。だって瑠華ちゃんに合わせる顔が無くなっちゃうじゃん!


 急降下してきたラムクロウの動きに合わせて身を引いて、頭を上げるタイミングに刀を振るう。美影が居ない以上、さっきみたいに上に跳ぶ事は難しいからね。


「よしっ」


 着実に数は減っていく。それが何よりの救いだ。

 瑠華ちゃん、待っててね…!


 ◆ ◆ ◆


 一方その頃。奏が飛ばされた直後の瑠華はといえば。


「どういうつもりじゃ?」


 キレていた。それはもうガチギレである。

 瑠華の問い掛けに対して、黙りを決め込むダンジョン。その対応にイラッとした瑠華から魔力が漏れ出し、手にした雷華も相まってバチバチと白い火花が飛び散った。


 :瑠華ちゃんガチギレだ…

 :そりゃ、まぁ…

 :若干魔力暴走起こしてない?

 :瑠華ちゃん程の魔力で暴走したらヤバいでしょ。


「カァァッ!」


「……邪魔じゃ」


 空気を読まぬラムクロウが飛び掛り、容赦無く雷華で真っ二つにされる。しかし加減が出来なくなっている影響で過剰なまでの雷が迸り、一直線に森を焼き焦がした。


 :あっ……

 :ほんとに今まで加減してたんだな…。

 :拙くない?

 :このままだとヤバいかも。


 視聴者達が心配するも、今の瑠華にその言葉は届かない。


「…答えろ。何が目的だ」


『………』


「これ以上()を怒らせるつもりか?」


 瑠華の口調が崩れる。元々意識して使っていた口調であるからこそ、感情が昂った今意識して使う余裕は無かった。


 :瑠華ちゃんの口調が崩れてる!?

 :まぁ元々養殖なのは言ってたからな。

 :でも何と喋ってるんだ…?


 ダンジョンの声は本来人間には届かない。故に瑠華が何に対して喋りかけているのかが、視聴者には分からなかった。


「…()()私から奪うのか」


『否定否定否定』


「ならば」


『権限無し』


「何…?」


 権限が無いと言われ、瑠華が心底理解出来ないという表情を浮かべる。そもそも瑠華―――レギノルカに権限という概念は無い。レギノルカこそが全ての掟なのだから。故に権限が無い状態というのは、本来有り得ない事で。


 ―――だがもし、本当にその言葉が正しいのであれば。


「……奏が辿り着く場所は何処じゃ?」


『最下層』


「……ならば急ぐとするかの」


 先程までの苛烈さが嘘のように鳴りを潜め、瑠華が黒く焦げた地面を歩き始める。

 その急激な感情の変化に、視聴者達はただ困惑するしか無かった。


 :何があった?

 :さぁ…?

 :瑠華ちゃんだもの。

 :その言葉で説明出来る範囲超えてるでしょ。

 :だって分かんないんだもん!




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