133話 ドラゴンさん、奪われる
ひとまずは奏と美影だけで戦闘してみようとなり、瑠華は一歩離れた所からその様子を見守りつつ呼び名が決まった雷華に構っていた。
「……雷華よ。お主奏を敵視しておるじゃろ」
奏には聞こえぬようにそう雷華へと囁けば、少しの間を置いてパチ…と小さく雷が跳ねた。それは紛れも無い肯定の返事で。その反応に思わず瑠華が溜息を吐く。
「確かに五百年…いや七百年じゃったか? 詳しくは整理せんと定かではないが…まぁそれ程放置していた妾が悪いのは分かる。じゃがそれはそれとして奏を敵視する理由にはならんじゃろ」
長く放置していたという自覚はあるからこそ、自分に怒りを抱くのは理解出来るし納得出来る。しかし関係無い奏にまで文句を付ける理由が理解出来なかった。
そんな瑠華に対して、雷華からパチンッと雷が走り瑠華の頬を突っついた。痛みは当然無いが、どうやら機嫌を損ねたという事だけは分かる。
「はぁ…」
「―――あっ…瑠華ちゃん! あれがラムクロウ?」
奏から呼び掛けられたことで意識を切り替え、視線を向ける。するとこちらへと顔を向けながら空を指さす奏の姿が視界に入り、その指し示す先を追い掛けると黒い点が空を悠々と飛んでいるのが見えた。
「そうじゃな。基本単体で行動する種族故、戦うのはそう難しくは無いぞ」
「それ攻撃が届けばの話だよね…」
:それな。
:飛行型はマジで苦手だわ。
:近距離職やる事ないからな…。
「んー…どうしよ」
「ラムクロウは翼が刃となっているモンスターじゃ。放っておけばあちらから近付いてくるぞ」
その切れ味や速さは目を見張るものがあるものの、空高く飛べるという利点を完璧に潰す攻撃手段しか持っていないので実はそんなに強くないモンスターだ。
そうこうしている内にラムクロウがこちらの姿を捉えたのか、上空を大きく円を描くようにして飛び始める。そして突如カクンッと軌道を変え、一気に急降下。その先にいたのは――――ずっと空を見上げていた奏だった。
「わっ!?」
思ったよりも速い接近に驚きながらも、距離があった為に難無く躱す。するとラムクロウは地面スレスレまで降下した身体をグンッと上へ引き戻し、先程よりも低い位置でまた円を描きだした。
「完全に捕捉されたな」
「だね。でも意外となんとかなりそう」
空飛ぶ敵というだけで苦手意識があったものの、実際に遭遇すると幾らか道筋が見えた。
「美影! 背中貸して!」
「ガウッ!」
奏の声に美影が応え、駆け寄ってきた美影の背に奏が跨る。そしてそのまま美影が周りに生えた木に向かって走り出し、その木を足掛かりにして一気に跳躍。そこから更に奏が背を蹴って高さを稼ぎ―――旋回していたラムクロウの目の前へと飛び上がった。
「カァッ!?」
「はぁっ!」
まさかここまで来るとはラムクロウ側も予想していなかったのだろう。突如近付いてきた奏に対して慌てる様子を見せ、体勢が崩れる。その片翼に向かって、奏が刀を振り抜いた。
「わっ! 瑠華ちゃぁん!」
「全く…」
片翼を失い、落下するラムクロウ。そしてそれとほぼ同速で落下する奏。飛び上がっただけなので、当然後は落下するのみだ。
情けない声で助けを求める奏に呆れつつも、トンットンッと軽く木々を蹴ってお望み通り迎えに行く。そして危なげなく奏を受け止めると、そのままふわりと地面に降り立った
「ありがと」
「…良い案だとは思うが、その後の事はしかと考えるようにの」
「だって瑠華ちゃんなら受け止めてくれるでしょ?」
「はぁ……」
その言葉を否定する気はまるで無いが、毎度そう期待されるというのも心配になるもので。
:てぇてぇ。
:当たり前のようにお姫様抱っこ。
:奏ちゃんが慣れてる…
:前は顔真っ赤だったもんねwww
奏を地面に下ろすと、ラムクロウのドロップ品を咥えた美影が近付いてきた。どうやら落下の衝撃でトドメを刺されたらしい。
「ありがと美影」
「ワウッ」
「んーと…魔核に羽かぁ。瑠華ちゃん」
「……羽は装備に使われるものじゃ。防刃性があり柔らかい故、そこそこの防具の内部に使われる事が多いな」
:以心伝心てぇてぇ。
:てぇてぇ。
:奏ちゃんの横着が加速しているwww
:でもやらかし済みの瑠華ちゃんは文句言えないから……
そう。瑠華としても苦言を呈したいのは山々なのだが、今の自分にその資格が無い事を理解していたのだ。
(まぁやり過ぎたら流石に瑠華ちゃんブチ切れそうだけど)
奏もやり過ぎるのは良くないと分かっているので、例え珍しい瑠華のブチ切れが見たいという気持ちがあっても、これ以上は止めておこうと思ったのだった。
「さて。忌々しい鳥も倒せたし、楽勝だね!」
「何故そう口にしてしまうのじゃ…」
:一級フラグ建築士。
:まぁ瑠華ちゃんいますし…。
そうして少し進んだところで次に現れたのは、数体のゴブリンとゴブリンライダー。そして上空を旋回する四体のラムクロウ。
「………」
「………」
「……瑠華ちゃん。タスケテ」
「はぁ……」
本日何度目かの溜息を吐いて、瑠華が雷華を抜く。その瞬間待ってましたとばかりに激しく雷が迸った。
:元気だねぇwww
:フラグ回収早いな…。
「どちらを相手取る?」
「え? えーっと…じゃあゴブリンで」
「ラムクロウではないのか?」
「だって瑠華ちゃんの方が早く終わるし」
「……まぁ良いが」
そう言って瑠華が上へ跳ぶ為に少し離れた、その瞬間。
『対象者を検知しました』
『システムが自動起動します』
「何…?」
その声が聞こえた時には、もう既に遅く。
「えっ!?」
「奏!」
突如として奏の足元から光が溢れ、慌てて瑠華が手を伸ばす。しかしその伸ばした手が掴んだのは……舞い散る光の粒子のみだった。
『―――――■■■■■を開始します』




