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129話 ドラゴンさん、指導する

 ダンジョン内部は陽の光がない為に、目安となるのは時計が示す時間のみだ。瑠華達が身に付けているDバンドには魔力通信による正確な時計が備わっているので、それが午前八時を示した時点で瑠華がぐっすり眠る奏を起こす為に身体を揺すった。

 ちなみに奏が寝ている間もずっと手を離さなかったので、瑠華は隣に座りっぱなしである。


「んん……」


「奏。そろそろ起きる時間じゃぞ」


「あとごじかん…」


「……」


 余りにもな悪足掻きをする奏に、無言で瑠華が指を振る。すると次の瞬間、握り拳程の氷の塊がその手に握られて――――


「――――ひょわぁぁぁっ!?!?」


 奇っ怪な悲鳴を上げながら奏が飛び起きた。何が起こったのかと目を白黒させて必死で状況を確認しようと瑠華へ眼差しを向けて……その視線が瑠華の右手へと滑る。それで何をされたのかを理解した奏が、思わず瑠華へと詰め寄った。


「瑠華ちゃん!?」


「ふむ…意外と有りかの?」


 しかし瑠華はといえばそんな奏の事は無視して、こちらの方がより効率的に起こせそうだと一人頷いていた。奏はそれを聞いて顔を青くしていたが、自業自得である。


 奏が少し不貞腐れながらも言われるままにテント類を片付けて簡単な朝食を済ませ、配信を再開する。


「おはよー。瑠華ちゃんに理不尽な方法で起こされた奏だよー」


 :草。

 :朝から配信助かる。

 :瑠華ちゃんは常に理不尽だから…

 :何されたの?


「寝てる時に氷を首に当てられた」


 :ヒェッ。

 :心臓止まるやつやん。


「あと五時間寝かせろなどと往生際が悪かったのでな。それとも耳元で叫ぶ方がマシじゃったか?」


「やめてくださいまじで」


 割と真面目にガチトーンである。まぁ奏は瑠華が【柊】において皆を起こす時に使う怒声をよく知っているので、さもありなん。

 その必死な様子に瑠華がクスクスと口元を隠して笑う。当然そんな事をすれば鼓膜がどうなるかは瑠華が一番良く分かっているので、ただ揶揄っただけである。


 :瑠華ちゃんって奏ちゃん揶揄うの好きよね。

 :遊びがいがあると思われてるんだろうなぁって。

 :なお逆は許さない模様。


「私が瑠華ちゃんを揶揄う事ねぇ…セロリを前にした瑠華ちゃん相手ならやる」


「……その時ばかりはまるで水を得た魚の如く嬉々とした笑顔を浮かべおってからに」


「だって瑠華ちゃんの弱点ってそれくらいじゃん」


 :完璧超人の瑠華ちゃんの弱点がセロリなの可愛い。

 :でも多分それで倍以上に仕返しされるんだろうなぁwww


「あ、うん。後が怖いよ」


「分かっていながらもやるのが尚更タチ悪いのじゃ…」


 雑談もそこそこに、そろそろ攻略を再開する。現在は安全地帯が存在する六階層に滞在しているが、今日中に最下層まで攻略したいと考えていた。


「六階層からは基本的にゴブリンが相手となる。ゴブリンライダーも高確率で遭遇するそうじゃから、気を抜かぬようにの」


「はーい」


 :気の抜ける返事なの笑う。

 :瑠華ちゃん居たら万が一すらないから…


 だがそんな奏を瑠華が許すはずもなく。


「では全て奏に対処してもらおうかの」


「…えっ」


「出来るじゃろう?」


 どこか期待を滲ませる笑みを浮かべてそう言われてしまえば、奏は断る事など出来はしない。

 そうして仕方無くふぅーっと息を吐いて意識を切り替え、安全地帯から踏み出した奏が最初に目にしたのは見覚えのある岩の塊で。


「瑠華ちゃんっ!?」


「基本的と言ったであろうに」


 そう。あくまで基本的に出てくるのがゴブリンなだけで、他のモンスターも数は少ないが出現するのである。まぁその中でもロックタートルはハズレの部類に入るが。


「え、これどうやって倒すの…?」


 瑠華は蹴飛ばして倒していたが、常人にそんな事ができる訳もないので奏は倒し方が分からず困惑してしまう。


「それもまた勉強じゃな。何時までも妾に聞いていてはいざという時に対処できんじゃろう?」


 瑠華の言い分は当然理解出来るし、納得も出来る。だがやはり、今まで当たり前にあった梯子をいきなり外すのはやめて欲しいと思う奏である。


「えと、えーっと…トンカチ…は無いし、刀は流石に折れるだろうし…」


 必死に今自分が持ち得る手段を思い出しながら、どれが適当か思案する。けれど、そのどれもが質量系のモンスターに対して効果的では無いものばかりで。


(魔法も風だからそこまでだし…無理じゃない?)


 だがしかし瑠華が自分にやらせたという事は、何かしら手段があるということなのだろう。

 今の自分に出来て、目の前のロックタートルに効果的な手段。それは何か。


「んー…」


「……では奏に一つ質問じゃ」


 そんな様子を見かねた瑠華から、少しばかりの手助けが入った。


「モンスターは生物の見た目をしている訳じゃが、今目の前にいるロックタートルは()()()()()()かえ?」


「ふぇ…?」


 モンスターが生物に見えるかどうか。それは今まで考えた事が無いモンスターの見方だった。否、当たり前過ぎて考え方から除外していた。


「…違う、気がする」


 そもそも倒せば消えるモンスターが生きているのかと問われれば答えるのは難しいが、生物のように見えるのかという問いに関しては答えるのは比較的容易である。

 ロックタートルは直訳すれば岩の亀という極めて安直な名前をしているが、実際の所それはあくまで()()()()()()()()だけで亀ではないのだ。


「ではもう一つ質問をしよう。モンスターとは何を“核”としているかのぅ?」


 そこまで答えを出されれば、流石の奏でも分かる。


「ロックタートルの魔核を破壊すれば倒せる…?」


 いくら外殻が岩のように硬かろうが、一枚岩ではない。なれば隙間はいくらでも存在する。


 そうと決まれば話は早い。[身体強化]を発動しつつロックタートルまで一気に肉薄し、〖魔刀・断絶〗によって硬さと切っ先の斬れ味を強化した刀をその隙間目掛けて勢い良く突き立てる。


「っ!」


 その瞬間手に伝わった確かな硬い感触に、奏が更に力を込める。そして少しの抵抗感の後、パキンッ…と何かを明確に砕いた音が静かに響いた。

 一拍の沈黙を置いて、硬直したロックタートルの身体がバラバラと崩れ落ちる。


「勝った…勝ったっ!」


 未知の敵を自分の手で倒せたという達成感が、遅れてやってくる。……ほぼ答えを教えてもらったとか無粋な事は言うべきでは無いのである。


「一発で魔核を的確に…見事じゃな」


「えへへ…」


 瑠華に褒められ、おまけに頭まで撫でて貰ったので奏の気分は最高潮に達する。

 

 :おめ。

 :てぇてぇ。

 :そういう倒し方もあるんだ…

 :魔核を壊すのは一応有効な手段ではある。ドロップしなくなるけど。

 :意外と致命的だった。


「ドロップしないんだ…」


 しかしその直後覗いたコメ欄からの情報で、一気に急降下した。まぁ持っているものを破壊した訳なので、当たり前と言えば当たり前ではある。


「まぁロックタートル程度の魔核はそこまで痛手にもならんしの。気にする必要はないぞ」


「そうだけどぉ…こう、なんというか勿体無い感が…」


 :分かる。

 :分かる。

 :一応それでもドロップはあるよ! ただの石だけど!

 :草。

 :それは最早ドロップ品と呼べないのよ……





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