127話 ドラゴンさん、ドラゴンする
瑠華による斬撃で壁がぶち抜かれた事により、下層へと下る階段へは一直線で向かう事が出来た。
:あれ人に当たったら死んだ事すら気付かないんじゃ…
:ダンジョンの壁が崩れたというより消滅した感じだから…
コメント欄は先程の瑠華の斬撃の威力に戦々恐々とした様子である。
「消滅したというのは確かな表現ではある。じゃがそれ故に実は人間に効果は無いのじゃよ」
「……あんな威力してるのに?」
「純粋な物理的な攻撃では無いのじゃ。魔力によって構成された刃である事はそうなのじゃが、それによって分解されるのはダンジョン関連の物質に固定されておる」
だからこそダンジョンの壁をいとも簡単に破壊、もとい消滅させる事が出来たとも言える。
……まぁダンジョンに関連したもの全てが対象なので、美影なども効果範囲内なのが問題だが。
:なにそのご都合機能。
:でも実際ダンジョン産の武器ってそういう性質持ってるのが多いのよね。
:だからこそ犯罪に使われにくくて、そこは有難いんだけど。
「確かに強そうな大剣とかで犯罪が起きたとかのニュースは聞かないかも」
「一種の安全装置なのじゃろうな」
そういった機能があるからこそ、探索者という職の存在が認められているという事情がある。まぁそれでも限りなくグレーに近い扱いであり、未だ反対する勢力は一定数存在しているのも確かなのだが。
二階層に下った二人だったが、出現するモンスターに変化は無く、今更ウルフ程度に遅れをとる事も無い為にサクサクと進んで行った。
「―――瑠華ちゃんが蹂躙したとも言う」
「奏も戦っておったじゃろうに…」
:ウルフに苦戦してた時が嘘みたいだ…
:段々奏ちゃんの動きが洗練されていくのが見てて楽しい。
:それな。
:瑠華ちゃんは?
:瑠華ちゃんは瑠華ちゃんしてるから……
:新しい言葉作らんでもろて。
比較的短時間で進んで行ったとはいえ、それなりに時間は掛かるもので。ふと瑠華が腕時計に目線を向ければ、そろそろ午後六時を回るところであったと気付く。
:そろそろ遅いしここまで?
:気が付けばもうこんな時間か。
ここまで長時間するのは珍しく、普段通りの配信時間的にそろそろ切り上げるのかとコメント欄の誰もが予想する。しかしながら今回瑠華はランクを上げるために、このダンジョンを踏破する事を目的としていた。なので――――
「今回はこのままダンジョンに泊まり込みじゃな」
「ダンジョンで一日過ごすのは初めてかも」
ワクワクとした雰囲気を含んだ声色に、瑠華が思わず笑みを零す。以前であれば【柊】の事があったので不可能だったが、今では紫乃が居るので一日程度空けたところで問題は無かった。
「六階層に安全地帯がある故、そこで休むとするかの」
「りょーかい」
瑠華であれば安全地帯でなくとも安全を確保する事は簡単だが、郷に入っては郷に従えである。必要に迫られない限りはその手段をとるつもりは無かった。
「あっ、そういえばこのダンジョンのボスモンスターって何?」
今回潜っている渋谷ダンジョンは、十階層超えのダンジョンである。なのでダンジョンボスでは無いボスモンスターが存在しており、奏にとって正規の道順では初めて遭遇する事になる。故に少し楽しみでもあった。
「んー…」
「瑠華ちゃん?」
しかし答えてくれると思った瑠華が言い淀み、思わず首を傾げてしまう。まさか知らないという事は無いだろう。だとすると他に言いづらい要因があるのだろうか、と。
「まぁ…なんじゃ。別物故、もし戦ったとしても気に病む必要は無いぞ?」
「?」
要領を得ない回答にただ疑問が増えるだけだったが、絶対に遭遇する事になるのだからその時に分かるだろうと思考の端に投げ捨てておく。今は安全地帯まで向かう事が最優先だと。
敵がウルフだけなので変に罠を踏まない限りは窮地に立たされる事もなく、二階層、三階層はサクサクと攻略する事が出来た。
そうして辿り着いた四階層で、奏はなにやら奇妙な物体を目にする。
「なにあれ」
目の前でゆっくりと動く、岩の塊のような何か。得体の知れない存在に、奏が思わず声を固くして瑠華へと尋ねる。
「ロックタートルと呼ばれるモンスターじゃな。動きは鈍重で一見脅威度は低いように見えるが―――」
そこで言葉を切り、瑠華がいきなりその場から飛び退く。その次の瞬間、瑠華が立っていた場所に握り拳程の大きさの石がめり込んだ。
「この様に石を飛ばしてくるのでな。骨くらいならば簡単に折れるぞ」
「ヒエッ」
:出たなカチカチ亀。
:あれ嫌い。
:正に岩だからな感触…
見た目からも名前からも想像出来る通り、ロックタートルは極めて硬い岩のような外殻を持っている。生半可な武器では到底太刀打ち出来ない相手だ。
「まぁそもそも武器を使う必要は無いのじゃがな」
「え」
そう言うやいなや素早い動作で瑠華がロックタートルの傍まで近寄ると、見るからに重そうな身体を片脚で蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたロックタートルはクルクルと回転しながら真っ直ぐ壁へと衝突し、無慈悲にも木っ端微塵に砕け散った。
「……えぇー……」
これには流石の奏もドン引きである。
:わぁ……
:力強すぎィ!
:瑠華ちゃんって意外と雑というか大雑把よね…
:これは瑠華ちゃんしてる。
:瑠華ちゃんしてるなぁ……
「また新しい言葉出来てるし…」
「そこまで妾らしい行為かの?」
「……まぁらしいと言えばらしいね、うん」
奏は擁護を諦めた。




