122話 ドラゴンさん、尤もな評価をされる
ある日の午後。瑠華達の姿は渋谷ダンジョン前にあった。
「配信は流石に無し?」
「いや? 奏がしたいのであれば妾は気にせぬが…」
「んー…じゃぁしよっかな。収入になるし」
「強かじゃのぅ…」
という事で、テキパキと奏が準備を整えて配信を始めた。
「こんにちは! 今日は渋谷ダンジョンを遂に攻略していくよー!」
:こんちゃー。
:いよいよか。
:色々とドタバタしてたしねぇ。
:だから今日は凪沙ちゃんいないの?
「そうだね。最初は行きたがったんだけど…」
「流石に妾の都合に合わせるのは可哀想じゃったからの」
今日の探索は奏と瑠華の二人きりであり、凪沙は【柊】にてお留守番である。当然の事ながら凪沙は駄々を捏ねたが、今回はとある事情につき瑠華が何とかして宥め賺した。―――代わりに独占権をあげる事にはなったが。
:瑠華ちゃんの都合?
:気になる気になる。
「あー……瑠華ちゃんの都合というか、私のせいというか…」
「言ったであろう。妾が自分で決めた事じゃと。気にする必要は無い」
「……うん…」
:なんだ?
:奏ちゃんがなんかした?
「その、じゃな…まぁ簡単に言ってしまえば、早急に妾の探索者のランクを上げる必要が出て来てしまったのじゃよ」
瑠華が急いでランクを上げなければならなくなった理由。それには、学校で交わしたとある会話が関係していた。
◆ ◆ ◆
とある日の放課後。瑠華は担任の先生に呼び出しを受けて、空き教室にいた。
「ごめんなさい、待たせちゃって」
「いやそう待ってはおらん。しかし何用じゃ?」
先生が瑠華が腰掛ける机の前に座ると、一枚の紙を瑠華の前へと置く。それは今日書き込んだばかりのとある書類であり、瑠華の記憶にも新しいものだった。
「その…進路に関してなんだけど、ほんとに…?」
「この紙に書いた通りじゃよ」
先生が困惑した表情をしながら差し出した紙は、瑠華の進路希望書だった。そこには瑠華のハッキリとした美しい字で『探索者』と刻まれている。
「でも瑠華ちゃん成績優秀者だし…将来的な事を考えても、高校に行っておいた方が損は無いと思うわよ…?」
「そう言われてものぅ…妾としては学歴には然程興味が無いのじゃ。ただ奏と共に生きられればのぅ」
「……もうそれは告白よね」
先生は当然ながら瑠華と奏の関係性を知っているので、今更その回答に違和感は無い。だが生徒を導く側の人間としては、やはり素直に受け入れるのは難しいもので。
「…瑠華ちゃんの気持ちは分かりました。でもやっぱり先生としては不安なの。それは理解してくれる?」
「無論じゃ」
「そう…だからね、目に見える形で先生を納得させて欲しいの」
その言葉に、瑠華が思わず首を傾げる。
「目に見える形とな? 具体的に何をすれば良いのじゃ?」
「えっとね…ちょっと私もさっき探索者について調べてみたの」
そう言って机に何枚かの印刷した資料を載せる。先生が遅れてきたのは、探索者についてより詳しく情報を集めていたからだったのだ。
「まず収益について。潜る頻度にもよるけれど、ダンジョンが危険空間である事を留意すると、そう頻繁に潜るのは推奨されない。だから週に多くても二、三回だと仮定して…それで生活に困らないだけを得る為には、最低でもDランク以上のダンジョンに潜る必要があるそうなの」
用意した資料を提示しながら、分かりやすく瑠華に説明していく。その内容は今まであまり調べていなかった瑠華としても為になるものであり、思わず聞き入ってしまう。
「でね、そうなると探索者のランクとしては最低でもEは欲しくて……」
「…妾はFじゃの」
「うん、それは先生も配信見てるから知ってるの」
「見ておったのか…」
まさか担任の先生まで視聴者だとは予想しておらず、瑠華の目が思わず遠くなる。
「だから瑠華ちゃんには、出来る限り早く上のランクになって欲しくて…そうすれば、後は私が上を説得するから安心して」
瑠華は学校側からしても魅力的な生徒であり、高校側への推薦も考えていた。それを説得するのは中々に大変だとは思うが、自らの生徒の自由意志を尊重する為ならばその程度は引き受けるべきだと先生は思っていた。
そしてその想いは瑠華にもしかと伝わっており、それを無げにしない為にも、いち早くランクを上げなければならなくなったという訳だ。
◆ ◆ ◆
探索者としてのランクを上げるためには、現在のランクから一つ上のランク帯に位置するダンジョンを攻略する必要がある。故に今回はEランクダンジョンである渋谷ダンジョンまで来る事になったのだ。
そこまでの内容を出来る限り簡潔に説明すれば、コメント欄の反応は様々であった。
:先生も大変やなぁ。
:でも学校側が生徒に進路を強要するってどうなん?
:強要っていうか、勧誘が執拗くて面倒になるが正しい気がする。
:なるへそ。
:にしても探索者って結構世知辛いのね。
「一応聞いてみたんだけど、実際それくらいのダンジョンに日頃から潜らないと生活は厳しいってサナさんも言ってたよ」
「そういえば身近に参考になる人物がいたのぅ」
だがそのサナでさえも、配信と探索の両方に力を入れてなんとか少しの余裕を持った生活が出来ている。探索者一本で生きるというのは、それなりに難しい事なのだ。
「という事でな。今回凪沙には留守番を頼んだという訳じゃ」
「……瑠華ちゃん。お願いだから私が追い付ける速さで進んでね」
「奏は妾を何だと思っておるのじゃ……」
:理性ある暴走機関車。
:草。
:それは流石にって思ったけど、確かに言い得て妙で笑うwww




