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12話 ドラゴンさん、出掛ける

 ちゃっちゃと作った朝食を何故か凪沙監視の元食べ切って、部活へと向かう子達を見送る。


「「「「行ってきまーす!」」」」


「うむ。怪我には気を付けるのじゃぞ」


 まだ他の子達は起きてくる気配がしないので、凪沙と二人で朝食の後片付けを行う。その間凪沙はずっとご機嫌な様子だった。


「楽しそうじゃの」


「だって瑠華お姉ちゃんと出掛けるの久しぶりだもん」


「そうかの? ……そうじゃの」


 ぱっと思い付く光景は、随分と前のように思われる。そもそも瑠華は基本一人もしくは奏と共にいる事が多いので、他の子達と何かする事がそもそも少ないのである。


「瑠華お姉ちゃんは自覚が薄い」


「何がじゃ?」


「瑠華お姉ちゃん人気。皆遊びたがってる」


 事実、凪沙の言葉通り瑠華は【柊】において人気者である。

 最年長であるという事もあるが、瑠華に聞けば大抵の事は返ってくるという信頼も一つの要因だ。後はまぁ、何時も朝食を作ってくれるからというのもある。


「ふむ…時間を作るべきかのう?」


「うん。絶対必要。でも今は私の時間」


「そうじゃな」


 誰にも譲らせないと気迫めいたものを感じさせる凪沙に、思わず苦笑を浮かべた。


 片付けを終えると、凪沙が足早に自分の部屋へと戻る。出掛ける準備をするのだろう。対する瑠華は特に準備などは無い為、のんびりと待つ事にした。しかしそれを見越していたのか、パタパタと降りてきた凪沙の手には小さな箱が。


「瑠華お姉ちゃんも綺麗にしよ」


「ん? いや妾は…」


「いいからそこ座る」


「……うむ」


 有無を言わさぬ様子で詰め寄られては、無下にする訳にはいかない。大人しく椅子へと座れば、凪沙が箱からブラシを取り出して瑠華の後ろへと回る。


「瑠華お姉ちゃんの髪綺麗だよね…さらさらー」


「故に結ぶのはのぅ」


「確かに…なら固める…は無しかな。編み込みできるかな…」


 瑠華の髪は背中の中ほどまでの長さがある。十分な長さはあれど、逆にその長さが邪魔でもある。


「………シニヨンでいっか」


 軽く三つ編みを作ると意外と形になったので、長い髪を纏める為に髪型はシニヨンに決めた。お団子と一括りにされがちだが、凪沙にとってシニヨンはお団子よりもふわふわとして華やかな印象がある。

 因みに瑠華は何それ状態である。黙っていればバレないバレない。



「……よしできた」


「ん? …おぉ」


 差し出された手鏡に映る姿に思わず感嘆の声が零れた。瑠華の髪は白くとも光沢があるので、纏められた髪はまるで華のようであった。


「瑠華お姉ちゃんとお出掛けしてきます…っと」


 凪沙が書き込んだのは冷蔵庫に貼り付けられたホワイトボードだ。主にそれぞれの予定を書き込んで、お互いが把握する為に使われている。


「これで奏も分かるじゃろ」


「かな姉が悔しがる姿が目に浮かぶ。ふふふ…」


「……まぁ、妾も同意見じゃが」


 兎にも角にも準備はこれで完了だ。凪沙は小さなショルダーバッグを、瑠華は少し歪なトートバッグを手に取った。


「あっ、それ…」


「妾の為に作ってくれた物じゃよ」


 瑠華が手にしているのは、少し前に小学校に通う子が家庭科の授業で作ったものだ。元より瑠華に渡すために作ったらしく、鞄の外には『H.R』というイニシャルが赤い糸で刺繍されている。


「茜が作ったやつだよね?」


「そうじゃよ。次はエプロンを作ると張り切っておったが…妾の事は気にせんでいいと言っておるのにのぅ…」


「それだけ瑠華お姉ちゃんに感謝してるって事でしょ」


 まぁそれが分かっているからこそ、瑠華も少し言うだけで断ったりはしていないのだが。


 凪沙が瑠華の手を取り、扉を開く。天気は快晴。瑠華の占い(・・)では今日一日晴れなので、気にする事無く買い物を楽しめるだろう。


「何処に行くのじゃ?」


「……決めてない」


 そもそも瑠華と二人っきりで出掛ける事が目的であったので、向かう先など決めていなかった。

 ただまぁお買い物と言ってしまった手前、向かう先は自ずと限られる。


 結局行く事にした場所は、瑠華も昨日行ったばかりのショッピングモールだ。


「仕方無い事なのじゃろうが…少し物騒にも思うのう」


 そう呟く瑠華の目線の先にはあるのは、ショーケースに並べられた武器達。昨日も見た光景だが、子供にも見える場所にあるのは少し気に掛かった。


「…私もなろうかな」


「探索者か? 確か15歳からの筈じゃから無理では無いかの?」


 凪沙は瑠華達の一個下なので、まだ規定の年齢には達していない。


「むぅ…なら偽ったら良い」


「まぁ居らん事も無いじゃろうが…露顕した時が面倒ではないかの?」


 確かに瑠華の言う通り、書類偽装はリスクがある。だが現代において、その内容の真偽を確かめる事は難しくなってしまった。


 というのも実は、戸籍という物は既に失われてしまっているのだ。理由はダンジョンが初めて生まれた際、既存の大部分が失われたからだ。なので実際問題、年齢を偽る事も不可能では無い。結局行き着く先は自己責任なのだから。


「…あれ。これは何?」


 瑠華から色良い返事を聞けなかった凪沙が武器を少し名残惜しそうに眺めていると、ふとある物に目を留めた。








 本来は本編で説明すべき事なのですが、文脈的に入れにくかったのでここにて。


 瑠華が転生した世界には、戸籍が存在していません。これは後に詳しい説明があるダンジョンブレイクによって、国の中枢機関が壊滅的な被害を受けたからです。


 ダンジョンは世界各地にほぼ同時に出現しました。日本にも例外無く多数のダンジョンが出現し、ロクな対策も取れないまま後にダンジョンブレイクと呼ばれる現象が発生。何とか食い止めたものの、政府機関は壊滅。日本各地も同様な被害を受け情報が錯綜。その中で優先したのはダンジョンの情報を集め、管理する機関を設立する事でした。


 ダンジョン協会はその当時の政府関係者の生き残りで構成され、生存者の確認や覚醒者(後の探索者)の把握が急務となりました。それと同時に出現したダンジョンの情報の収集と対策も行われ、本格的に業務が安定し始めたのが、瑠華が産まれて三年後の話です。


 そしてダンジョン協会が安定するまで戸籍はほぼ消失状態が続いており、出生届けこそ受理されていたものの、その親の情報がそもそも存在しないという事態に。

 その対応策を模索する中で提案されたのが、ダンジョン適性検査を戸籍登録の場とする事でした。


 劇中ではさっぱりとしていますが、ダンジョン適性検査はかなり本格的な身体検査です。なのでそれを元に戸籍を登録する事にしたという訳ですね。その検査の際に発行される証明証が、公的書類としての役割を果たしています。


 ……そしてお気付きかもしれませんが、これはダンジョン協会が管轄している仕事です。つまり役割を取られた政府機関はもう存在していません。すべてダンジョン協会に統合されました。なので国からの支援=ダンジョン協会からの支援です。


 ただし戸籍関連の情報は、混乱を防ぐ為という名目で秘匿されています。なので一般人は未だ完全な戸籍が無いと思っています。若干名勘づいている人も居ますが。


 そして最後に言いますが、『ドラゴンさんの現代転生』の舞台は“別世界”です。平行世界でもありません。全くの別です。名前が似ているというだけで、あらゆる事象が異なります。現実における“常識”の尺度で判断しないようお願いします。


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